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第十六章

疑似人格

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 本物のカルル!?

 どういう事だ?

「本物の俺だと? 何を言っている。本物もへったくりも、カルル・エステスは俺一人……おっと! この惑星では、俺一人だけだが……」
「そう言っているあなたは、カルル・エステスさんの意識をコピーし、レムの都合のいいように書き換えられた疑似人格ですね。本来の意識は、今もカルル・エステスさんの脳内で眠っているはず」

 なに!?

「そして疑似人格が存在しているのは、レムの中央コンピューターの中。そこからプシトロンパルスを使って、カルル・エステスの肉体をドローンのように遠隔操作している」

 確か、さっきレムはキールの身体を遠隔操作していたが……あれは特別なことかと思っていたのだが……

「今まで、レムによって支配された人は、洗脳されたものと思われていました。しかし、実際は違っていた。犠牲者の本来の意識は、眠らされた状況で丸ごと残っているようですね」

 では、今まで僕が会っていたカルルや成瀬真須美も矢部も小淵も、遠隔操作されていたのであって、本来の意識は残っているというのか?

 という事は、脳間通信さえ断ち切れば、すべて元通りになるという事なのか?

「だから、カルル・エステスさん。私たちは必ずあなたを解放します。だから、それまで、けっして絶望しないで下さい。その時が来るまで生き延びて下さい。私があなたに伝えたいのは、その事です」
「橋本あきらよ。何を根拠に、そんな事を言っている?」
「数時間ほど前、リトル東京の防衛隊司令部に、ある人物から情報提供がありました」
「情報提供だと? それは信頼に値するものなのか?」
「正直言って、情報提供者は信頼できる人物ではありません。しかし、その情報を持っていたために、その人物はレムから命を狙われているようです」

 まさか! その人物って……

「情報提供の見返りは、情報がれた事を今すぐレムに分からせろという事でした。つまり、今私があなたに話をしたことは、その人物への見返りでもあるのです」

 やはりそうか! 情報提供者は三人目の矢納さん。

 もちろん、好意でやったわけじゃない。

 その情報を知っているのが自分だけだから、命を狙われている。だが、情報を拡散させてしまえば、もはや矢納さんを殺しても無意味。

 だから、情報を拡散させてその事をレムに分からせてしまえば、レムの追っ手から逃れられると考えたのだろう。

 恐らく、二人目が殺された時点ですぐに実行したのだろうな。レムの小細工は無駄だったという事だ。

「嘘だあ!」

 ん? カルルが妙に興奮しているが、どうしたのだ?

「嘘だ! 俺が疑似人格だと? 俺の脳内に、俺の本来の意識が眠っているだと? では、この俺はいったい何者だというのだ?」

 まさか!? カルルの疑似人格は、自分が複製だと自覚していないのか?

「先ほども言いましたが、あなたはカルル・エステス本来の人格をコピーした疑似人格です」
「黙れ! 俺が偽物だとでも言うのか!?」
「そうです。あなたは偽物です」
「黙れ!」

 イワンの装甲に次々と丸い穴が開き、触手が飛び出してきた。

 いったい触手は何本あるんだ?

 カルルはともかく、これを設計した奴は絶対変態だぞ。

「アクセレレーション」

 橋本晶は加速機能を発動させると日本刀を振り回し、襲い来る触手を次々と切断していく。

 その様子を僕と芽依ちゃんは、ただ呆然と見ていたわけではなく、その間にロケット砲を取りに戻っていた。

「橋本さん! 上に避けて」
「はい! ジャンプ!」

 橋本晶が上に飛び上がった直後、彼女の背後にいた僕と芽依ちゃんは同時にロケット砲を発射。

 今度こそ、二発の劣化ウラン弾はイワンの真芯まっしんに命中。

 激しい爆発が治まった後、イワンのその巨体には大きな穴が開いていた。

 穴からは黒い煙が激しく吹き出している。

 まだ原型は止めているが、イワンの機能は完全に停止しているようだ。

 は! マズい! イワンのエネルギー源が超伝導バッテリーだとしたら、このままだとクエンチに……

「全員直ちに離脱! 爆発するぞ!」
「「はい!」」

 僕たちは低空飛行でイワンから百メートルほど離れ、岩陰に身をひそめた。

 イワンが爆発したのはその直後。
 
 岩陰から様子を見ると、かつてイワンだった物体の破片がそこらに飛び散っていた。

 この様子だと、カルルも助からなかったか?

 と思ったら、爆心地上空で小さな球体がパラシュートを開いていた。

 ギリギリのところで、脱出したようだな。
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