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第十六章

馬鹿には見えないドローン

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 テントの中でカルルへの怒りを燃え上がらせている時、突然銃声が鳴り響いた。
 
 慌ててテントから出てみんなところへ戻る。

「今の銃声は?」

 僕の質問に、みんなが一斉にドローンからの映像を映しているタブレットを指さした。

 映像の中で、一人の男が血を流して倒れている。

 なんだ、今の銃声はテレビか。いやいや、この映像は現実にリアルタイムで起きているのだけどね。

 しかし、どういう状況だ?

 倒れている男は、少佐の階級章を着けているところを見ると、ここの司令官のようだな。

 この男を撃ったと思われる男は、まだ銃口から煙の立ち上っている短銃を握りしめてブルブルと震えていた。

「ミール。いったい何があったんだ?」
「カイトさん。今、帝国軍の司令部で士官たちが司令官に撤退命令を出すように詰め寄っていたのです。でも、司令官は頑として徹底抗戦すると言い張って、とうとう殴り合いになって」

 それで士官の一人がついに銃を抜いたのか。

『中尉殿……なんて事を』

 その時、一人の士官が僕たちの方を指さした。

『おお! あそこにドローンがいるぞ!』

 なに!? ドローンが見つかったのか?

『どこにドローンが……』
『通気口の中だ』
『見えませんが』

 一人の士官がこっちへ近づく。

『通気口に近づくな! お前も撃たれるぞ!』
『え?』
『いいか。通気口の中にドローンが隠れているんだ。そして、少佐殿はドローンに狙撃されたのだ。中尉が撃ったのでない』

 なるほど。いもしないドローンがいたことにして、少佐はドローンに撃たれたことにしてこの場を収めようという事か。

 こっちを指さしたのはただの偶然。

 まさか、指さした先に本当にドローンがいるとは思ってもいないだろうな。

『大尉殿。自分にもドローンがいるような気がします』
『おお! 確かにドローンがいる』
『おのれ少佐殿の仇め』

 どうでもいいが、君たちセリフが棒読みだよ。

『どこにドローンがいるんだ?』
『敵のドローンは馬鹿には見えないらしいのだが、お前! まさかあのドローンが見えないとでも?』
『おお! 見えるぞ! くっきり見える』

 馬鹿には見えないドローンにされちゃったよ。

『少佐殿は戦死される前に、撤退命令を出されていた』
『え? そんな命令……うぎゃ!』

 大尉は、物わかりの悪い士官の足を踏みつけてからもう一度言う。

『いいか。少佐殿は戦死される前に、撤退命令を出されていたのだ。聞いていたな?』
『は……はい。聞こえたような気が……いや、確かに聞きました』
『よし。少佐殿の命令では仕方がない。総員第三層から撤退する』

 そして雪崩なだれを打ったかのように、帝国兵は逃亡を開始。

 またたく間に、第三層は空っぽになった。

「でも、キラ。これって、さっきの将校たち、処罰されたりしないの?」

 第三層への傾斜路を下る途中で、ミールがキラに質問を投げかける。

「師匠。もし事実がばれたら、そうなります」

 ばれたら?

「ここの最高司令官が誰かは知りませんが、兵士たちは口裏を合わせて『最高司令官殿は撤退命令を出された後、名誉の戦死を遂げられました』と言うでしょう」

 実際は、撤退命令を出さない司令官を、自分たちで殺したのだが……
 
「そして『我々は泣く泣く撤退を余儀なくされました』と」
「それって、ばれないの?」
「ばれた試しがありません」

 試しがないという事は、過去にもそういう事があったのか?

「古参兵から聞いた話ですが、勝ち目がないにも関わらず撤退命令を出さない上官を、後から撃って逃亡するなんて事がよくあったそうです。特に、リトル東京との戦いが始まってからは。もちろん、公式記録にそんな事は載っていません」

 そりゃあ、公式記録なんかに残せないよね。

 帝国軍上層部も薄々分かっているけど、黙認していたのじゃないかな。

 程なくして僕たちは第三層に入った。

 用心のために、ドローンを走らせて熱源体を探させたが、見つかったのは重傷を負って動けなくなった負傷兵が三名。

 他に熱源体は無く、第三層は戦わずして制圧できた。
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