715 / 893
第十六章

見つけたからには排除あるのみ

しおりを挟む
 レイラ・ソコロフから提供された三次元CADによると、地下施設のエレベーターシャフトは直径十・五メートルの縦坑。

 その中を、直径十メートル高さ三メートルの円盤状ゴンドラが行き来していたようだが、地球人がこの惑星を訪れた時から、ゴンドラはずっとこの位置で止まっていたらしい。

 なぜ下まで降りないで、こんなところで静止しているのか分からんが……今そのゴンドラの屋根の上には三つのベッドがあり、BMIに繋がれたクローンたちが横になっていた。

 ゴンドラの屋根には開けっ放しのハッチがあり、そこからドローンをゴンドラ内部に入れると、六人の交代要員が見つかる。

 六人では二十四時間交代は無理では……と思ったら床にもハッチが開いていて、そこからナワ梯子が垂れ下がっていた。

 これを使って、第五層と行き来しているのか。

 とにかく、ここに中継機をあるのを見つけたからには排除あるのみ。

 とは言っても簡単ではないな。確かに第五層の中継機と比較して防備は手薄だが、無防備ではない。

 ゴンドラ内にいる六人の足下には、自動小銃や対物アンチマテリアルライフルがあった。

 迂闊には近づけない。

「でやあああぁぁぁ!」

 かけ声とともに、橋本晶が愛刀雷神丸を振り下ろす。

 その刀身は、溶接していた扉の溶接部分を正確に切り裂いた。

「いくぞ!」

 開いた扉から傾斜路内に入ろうとするヤギやヒツジを押し返しながら、僕はミールを抱き抱えて傾斜路から第五層へ押し出る。

「みんな、後は頼んだぞ」

 僕たちが空中へ逃れると、芽依ちゃんと橋本晶が扉を閉じた。

 今頃、内側から溶接していることだろう。

 後ろ髪引かれる思いを残しつつ、僕は空中から中央通路を進んでいった。

「カイトさん。動物が追ってきます」

 ミールに言われて振り向くと、五頭のヤギが僕の後から追いかけて来ていた。

 もちろん、ヤギから攻撃を受けるわけではないが、ヤギの目を通して僕の動きはレム神に見張られている。

 このままエレベーターシャフトへ向かえば、こちらの目的が中継機破壊だと悟られてしまい、ゴンドラ内部で待機している交代要員が対物アンチマテリアルライフルを持って上がってきてしまう。

 そうなると厄介だ。なんとか悟られないようにしないと……

 第五層の中を飛び回り、ヤギの追跡を振り切った僕は適当な小部屋に隠れた。

 この中でミールに、ロボットスーツを装着した僕の分身体を作ってもらい、敵を攪乱するのが今回の目的。
 
「それじゃあミール。頼むよ」
「はーい」

 床に座り込んだ僕に、ミールは木札を手渡す。

「ミール、寝そべっていなくてもいいのかい? ロボットスーツのままだと、バックパックが邪魔で仰向けになれないのだが」
「じっと座っているだけでも大丈夫ですよ。憑代を手に持っていただければ」
「そうか」
「あ! そうだ。ヘルメットを取っていただけますか」
「え? なんで」
「素顔を晒していた方が、レム神も本物のカイトさんだと思うでしょう」

 そうかな? 

 まあ、分身体は囮に使うのだから、ヘルメットがあってもなくてもどうでもいいのだが……

 ミールに言われるがままに、僕はヘルメットに手をかけた。

 ヘルメットを外す途中、一瞬視界が遮られたその時……

「カイトさん。素直過ぎですよ。こういう話は、ウラがあると考えないと……」

 え? ウラ? うわ!

 ヘルメットが持ち上がって視界が開けたとき、ミールの顔が僕の眼前に迫っていた。

 むにゅ!

 ミールの唇が僕の唇と重なる。

 ウラって、こういうことか。

 ………

 ……

 …

 ミールは僕から唇を離した。

「ここしばらく、二人切りになれるチャンスが無かったですからね。こういう時でないと」
「そ……そうだね」

 ミールは周囲を見回した。

「ミニPちゃんはいませんよね」
「いや、今回は連れてこなかったし、連絡は通信機で取れるし……」
「でも、メイさんなら隙を見て、カイトさんの背中にミニPちゃんを張り付けるぐらいやりそうなので」
「そんな事は……」

 ないとは言えんな。

「あたし、心配なのです。カイトさんの心がメイさんに移ってしまわないかと……」
「そんな事は……ないぞ。ミール、僕は君が好きだ」
「本当ですね? カイトさん」
「ああ」
「では、分身体を作る前にもう一度」

 ミールは目を閉じて、唇をつきだしてきた。

 これは言えないな。

 オリジナル体の僕と芽依ちゃんが夫婦だったなんて……コピーの僕と関係ないと言ったって、ミールには面白くないだろう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...