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第十六章

エレベーター

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 芽依ちゃんは、さらに話を続けた。

「ルスラン・クラスノフ博士の言う中継機ですが、そのほとんどは第六層にあると思うのです」
「芽依ちゃん。そう思う根拠は?」
「簡単です。中継機とは、外部にいるクローン人間がプシトロンパルスを受け取った後、それをBMIで電気信号に変換してから、地下施設内にいるクローン人間にケーブルを通して送っている装置だと思われます。そうなると、ケーブルを通す穴が必要になります」

 なるほど。第六層には、外部へ通じている地下通路がある。あれを通すのが一番楽だな。

「地下通路出入り口に、第三層から逃げてきた帝国軍が布陣しているのは、中継機を守るためではないかと思います。そうなると、中継機はその辺りにあるものと……」

 それを聞いて、橋本晶が日本刀を抜いて掲げた。

 アブねえなあ……

「なるほど。では、今から帝国軍を強襲して、中継機を破壊するというのですね。では、さっそく……」

 君はどうして、そうせっかちなんだ……

「橋本さん。中継機は確かにそこにあると思われますが、今から私たちが攻撃すべきなのは、そこではありません」
「え? では、どこを攻撃するのです?」
「ここにいる帝国軍の武器は、フリントロック銃とか刀剣ではありません。自動小銃の他に、九九式の装甲をも貫く対物ライフルやロケット砲も持っています。第二層では催涙剤を使った奇襲で勝利しましたが、先ほどの偵察で帝国兵がガスマスクを用意しているのが分かりました。同じ手は通用しません」
「しかし……」
「加えて私たちは今、補給を断たれています。中継機を守っている帝国軍を攻撃に行っても、すぐに弾薬が足りなくなります。そんなところへ、背後からカルル・エステス隊の攻撃を受けたら、ひとたまりもありません」
「では……どうするというのです?」
「第五層へ攻撃をかけるのです」
「え? 第五層への攻撃はやめるのでは?」
「私は、動物を殺す必要はないというつもりで言ったのです。いいですか。第五層と第六層の間でも、プシトロンパルスが遮断されます。だから、第五層と第六層の間にも中継機があると思われます。攻撃するなら、守りの手薄な第五層の中継機です。それさえ切断すれば、もうレム神は第五層の動物たちを操れなくなります」
「なるほど。しかし、それには第五層と第六層の間にケーブルを通す必要があるのでしょう。それはどこに……は! まさか、この傾斜路内に……」

 橋本晶は周囲をキョロキョロと見回したが、それらしき物は見つからない。

 まあ、こんな分かりやすいところには無いだろう。

 となると……

「点検用トンネルか?」

 だが、芽依ちゃんは首を横に振った。

「中継機を運用するには、四時間おきにクローン人間を交代する必要があるのですよね?」

 ジジイは無言で頷いた。

「それなら、中継機の近くに交代要員がいるはずです。しかし、ドローンでくまなく探しましたが、人間の姿はありませんでした」

 ヒツジとヤギしかいなかったからな……まさか!?

「おい、ジジイ。ヒツジとかヤギを中継機に使う事はできるのか?」

 ジジイは首を横にふった。

「そんな事できたら、とっくにやっとるわい。レム神が生きている人間を使うと言い出したとき、わしは動物を使ってみてはどうじゃと助言した。しかし、動物実験はことごとく失敗。結局レム君のクローンが、一番相性がいいという事になったのじゃ」
「だとすると第五層には、やはり交代要員がいるのか? しかし、人間はどこにもいなかったぞ」
「北村さん。一カ所だけ私たちから隠れる事ができて、しかも第六層へケーブルを通せる場所があります」
「どこに?」
「エレベーターシャフトです」

 あ! 機能を停止していると聞いていたから、確かにノーマークだったが……

「ジジイ。この施設のエレベーターは、どういう仕組みの物だ?」
「重力制御で、ゴンドラが上下する仕組みだと聞いていたが」
「そのゴンドラは、今どうなっている?」
「わしが三十年前に調べた時から、第五層と第六層の間で止まっているぞ。そこから全く動いていな……あ!」

 そこだ!

 ドローンをエレベーターシャフトへ行かせると、中継機はあっさりと見つかった。

 長い間停止しているゴンドラの屋根の上に置かれたベッドの上に、BMIに接続されたクローン人間が三人寝ていたのだ。
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