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第十六章
中継機
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レム神に余裕がない?
「どういう事だ? ジジイ」
「どうもこうもないじゃろう。この地下施設には、プシトロンパルスが届かんのじゃ」
「そんな事は分かっているよ。どうせレム神は、プシトロンパルスを中継するような装置でも使っているのだろう」
「そうじゃ。ではその中継機とは、どのようなものじゃと思う?」
「どのようなって? そんなの……!」
どんな装置を使っているのだ?
「前にも言ったと思うが、プシトロンパルスを機械的に発生させる事はできなかった。だから、レム・ベルキナのクローン人間を、プシトロンパルスの送受信機に使っているのじゃ」
「という事は中継機にも……」
ジジイは頷いた。
「二人一組のクローン人間をBMIで接続して、それぞれを地下施設の中と外に配置し、ケーブルで繋いで中継機として使っているはずじゃ」
やはり、生きている人間を中継機に使っているのか。
想像するだけでも悍ましい。
「若造よ。レムの中央コンピューターでは、意識のないクローンを培養液に入れた状態で使っているという話は覚えているか?」
「ああ、覚えている」
「そうか覚えていたか。ただ、人間一人を何十年も生かしておくとなると、かなり大がかりな装置が必要となるのじゃ」
まあ、そうだろうな。
意識のないクローンでも腹は減るし排尿排便だってある。体の向きも時々変えてやらないと鬱血する。
「じゃが、そんな大がかりな装置を、この地下施設で運用するのはかなり大変じゃ」
だろうな。ただ装置を用意すればいいというものではない。クローンを培養するための栄養や酸素を補給しなきゃならないわけだし、温度管理や衛生維持その他諸々のために電源も必要、メンテナンスも必要となる。
「だから、わしもずっと疑問に思っておったのじゃ。レム神は、この地下施設で使う中継機をどうやって用意したのか? もちろん、三十年前にわしらがレム神に接続されていた時にあった中継機は、電磁パルス攻撃で破壊された」
「修理できないのか?」
「修理も何も、あの時は地下施設にあった壊れた機械は、すべてわしらが部品を取り出すために解体したので残っておらん。レム神としては新たに中継機を持ち込むしかないわけじゃが、そんな物をどうやって用意したのか? 先ほどの傾斜路での戦闘でそれが分かった」
「さっきの戦闘で、何が分かったのだ?」
「先ほどのクローン兵士達の死体を調べたが、ほとんどタコなどない綺麗な手をしていた」
「それが、なにか?」
「綺麗な手をしているという事は、普段は重い武器は持っていない。過酷な労働にも従事していないということじゃ」
まあ、そうなるな。
「わしはクローン兵士を見たときに、二つの可能性を考えたのじゃ。中継機として連れてきたクローンを投入したのか? それとも、端末として使う以外にレム神直属の兵士としてクローン兵士を用意していたのか? 手を見て直属の兵士という可能性はなくなった。あいつらはすべて、中継機として連れてきたクローンじゃ」
「それは分かるが、中継機に繋がれているはずのクローンが、なぜ自由に動き回っているんだい? 予備にしても、数が多いような……」
「理由は二つ考えられる。クローンを大量に連れてきたのはいいが、中継機の数が少なくてクローンが余ってしまった」
「なるほど。で、もう一つは?」
「簡易型の中継機を使っているのじゃ」
「簡易型?」
「培養装置のない簡易型じゃ。意識のない状態で培養装置の中に入れられているクローンは、ほぼ二十四時間BMIと接続していられる。しかし、意識のある状態でBMIと接続していられるのは精々五~六時間」
「という事は……意識のあるクローンを、ローテーションして使っているというのか?」
「そうじゃ。意識のあるクローンなら、大がかりな培養装置はいらん。ただし、一日に五~六時間しか接続できないので、五時間おき……実際には安全を考慮して四時間おきじゃな。そのぐらいの時間に交代する必要がある。そしてその後は健康維持のために一日休ませる必要がある。その分、交代要員として多くのクローン人間が必要になるのじゃ」
つまり、さっき傾斜路で待ち伏せしていたのは、本日の中継業務が終わって手の空いているクローン人間だったという事か?
「多くのクローン人間が必要となるが、クローンにも飯を食わせなきゃならん。人数にも限りがある」
そりゃそうだ。
「一機の中継機を二十四時間運用するのに必要なクローン人間は十二人。北ベイス島駐留帝国軍の規模から、養えるクローン人間は精々二百人。ここで使っている中継機は推定十六機ぐらいじゃろう」
そんなに少ないのか?
「その十六機で人間の接続者を操り、余力でヤギやヒツジを操っているのじゃろうな」
「じゃあ、今レム神が操れるのは、第五層の入り口前に集結している動物が精一杯で、あれを片づければこれ以上の増援はないという事か?」
「そうじゃ。ちなみに中継機一機あたりで操れる動物は、二~三十頭ぐらいじゃな。だから、さっきすべての動物を接続しているような事を言ったが、あれは間違えじゃ。あの時は、中継機がこんなに少ないとは思わなかったのでな」
ううむ……ジジイの言っている事は理にかなっていると思うが……
「よし! 今から、第五層へ行こう。可哀想だが、扉前に陣取っている動物は始末する」
全員が第五層へ向かおうと立ち上がったとき、芽依ちゃんが突然僕の前に回り込んだ。
「待って下さい。北村さん」
「芽依ちゃん。動物を殺すのがイヤなら、ここで待っていてくれても……」
「そうじゃありません。もっと簡単な方法を思いついたのです」
なんだって?
「どういう事だ? ジジイ」
「どうもこうもないじゃろう。この地下施設には、プシトロンパルスが届かんのじゃ」
「そんな事は分かっているよ。どうせレム神は、プシトロンパルスを中継するような装置でも使っているのだろう」
「そうじゃ。ではその中継機とは、どのようなものじゃと思う?」
「どのようなって? そんなの……!」
どんな装置を使っているのだ?
「前にも言ったと思うが、プシトロンパルスを機械的に発生させる事はできなかった。だから、レム・ベルキナのクローン人間を、プシトロンパルスの送受信機に使っているのじゃ」
「という事は中継機にも……」
ジジイは頷いた。
「二人一組のクローン人間をBMIで接続して、それぞれを地下施設の中と外に配置し、ケーブルで繋いで中継機として使っているはずじゃ」
やはり、生きている人間を中継機に使っているのか。
想像するだけでも悍ましい。
「若造よ。レムの中央コンピューターでは、意識のないクローンを培養液に入れた状態で使っているという話は覚えているか?」
「ああ、覚えている」
「そうか覚えていたか。ただ、人間一人を何十年も生かしておくとなると、かなり大がかりな装置が必要となるのじゃ」
まあ、そうだろうな。
意識のないクローンでも腹は減るし排尿排便だってある。体の向きも時々変えてやらないと鬱血する。
「じゃが、そんな大がかりな装置を、この地下施設で運用するのはかなり大変じゃ」
だろうな。ただ装置を用意すればいいというものではない。クローンを培養するための栄養や酸素を補給しなきゃならないわけだし、温度管理や衛生維持その他諸々のために電源も必要、メンテナンスも必要となる。
「だから、わしもずっと疑問に思っておったのじゃ。レム神は、この地下施設で使う中継機をどうやって用意したのか? もちろん、三十年前にわしらがレム神に接続されていた時にあった中継機は、電磁パルス攻撃で破壊された」
「修理できないのか?」
「修理も何も、あの時は地下施設にあった壊れた機械は、すべてわしらが部品を取り出すために解体したので残っておらん。レム神としては新たに中継機を持ち込むしかないわけじゃが、そんな物をどうやって用意したのか? 先ほどの傾斜路での戦闘でそれが分かった」
「さっきの戦闘で、何が分かったのだ?」
「先ほどのクローン兵士達の死体を調べたが、ほとんどタコなどない綺麗な手をしていた」
「それが、なにか?」
「綺麗な手をしているという事は、普段は重い武器は持っていない。過酷な労働にも従事していないということじゃ」
まあ、そうなるな。
「わしはクローン兵士を見たときに、二つの可能性を考えたのじゃ。中継機として連れてきたクローンを投入したのか? それとも、端末として使う以外にレム神直属の兵士としてクローン兵士を用意していたのか? 手を見て直属の兵士という可能性はなくなった。あいつらはすべて、中継機として連れてきたクローンじゃ」
「それは分かるが、中継機に繋がれているはずのクローンが、なぜ自由に動き回っているんだい? 予備にしても、数が多いような……」
「理由は二つ考えられる。クローンを大量に連れてきたのはいいが、中継機の数が少なくてクローンが余ってしまった」
「なるほど。で、もう一つは?」
「簡易型の中継機を使っているのじゃ」
「簡易型?」
「培養装置のない簡易型じゃ。意識のない状態で培養装置の中に入れられているクローンは、ほぼ二十四時間BMIと接続していられる。しかし、意識のある状態でBMIと接続していられるのは精々五~六時間」
「という事は……意識のあるクローンを、ローテーションして使っているというのか?」
「そうじゃ。意識のあるクローンなら、大がかりな培養装置はいらん。ただし、一日に五~六時間しか接続できないので、五時間おき……実際には安全を考慮して四時間おきじゃな。そのぐらいの時間に交代する必要がある。そしてその後は健康維持のために一日休ませる必要がある。その分、交代要員として多くのクローン人間が必要になるのじゃ」
つまり、さっき傾斜路で待ち伏せしていたのは、本日の中継業務が終わって手の空いているクローン人間だったという事か?
「多くのクローン人間が必要となるが、クローンにも飯を食わせなきゃならん。人数にも限りがある」
そりゃそうだ。
「一機の中継機を二十四時間運用するのに必要なクローン人間は十二人。北ベイス島駐留帝国軍の規模から、養えるクローン人間は精々二百人。ここで使っている中継機は推定十六機ぐらいじゃろう」
そんなに少ないのか?
「その十六機で人間の接続者を操り、余力でヤギやヒツジを操っているのじゃろうな」
「じゃあ、今レム神が操れるのは、第五層の入り口前に集結している動物が精一杯で、あれを片づければこれ以上の増援はないという事か?」
「そうじゃ。ちなみに中継機一機あたりで操れる動物は、二~三十頭ぐらいじゃな。だから、さっきすべての動物を接続しているような事を言ったが、あれは間違えじゃ。あの時は、中継機がこんなに少ないとは思わなかったのでな」
ううむ……ジジイの言っている事は理にかなっていると思うが……
「よし! 今から、第五層へ行こう。可哀想だが、扉前に陣取っている動物は始末する」
全員が第五層へ向かおうと立ち上がったとき、芽依ちゃんが突然僕の前に回り込んだ。
「待って下さい。北村さん」
「芽依ちゃん。動物を殺すのがイヤなら、ここで待っていてくれても……」
「そうじゃありません。もっと簡単な方法を思いついたのです」
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