713 / 893
第十六章

中継機

しおりを挟む
 レム神に余裕がない?

「どういう事だ? ジジイ」
「どうもこうもないじゃろう。この地下施設には、プシトロンパルスが届かんのじゃ」
「そんな事は分かっているよ。どうせレム神は、プシトロンパルスを中継するような装置でも使っているのだろう」
「そうじゃ。ではその中継機とは、どのようなものじゃと思う?」
「どのようなって? そんなの……!」

 どんな装置を使っているのだ?

「前にも言ったと思うが、プシトロンパルスを機械的に発生させる事はできなかった。だから、レム・ベルキナのクローン人間を、プシトロンパルスの送受信機に使っているのじゃ」
「という事は中継機にも……」

 ジジイはうなずいた。

「二人一組のクローン人間をBMIで接続して、それぞれを地下施設の中と外に配置し、ケーブルでつないで中継機として使っているはずじゃ」

 やはり、生きている人間を中継機に使っているのか。

 想像するだけでもおぞましい。

「若造よ。レムの中央コンピューターでは、意識のないクローンを培養液に入れた状態で使っているという話は覚えているか?」
「ああ、覚えている」
「そうか覚えていたか。ただ、人間一人を何十年も生かしておくとなると、かなり大がかりな装置が必要となるのじゃ」

 まあ、そうだろうな。

 意識のないクローンでも腹は減るし排尿排便だってある。体の向きも時々変えてやらないと鬱血うっけつする。

「じゃが、そんな大がかりな装置を、この地下施設で運用するのはかなり大変じゃ」

 だろうな。ただ装置を用意すればいいというものではない。クローンを培養するための栄養や酸素を補給しなきゃならないわけだし、温度管理や衛生維持その他諸々のために電源も必要、メンテナンスも必要となる。

「だから、わしもずっと疑問に思っておったのじゃ。レム神は、この地下施設で使う中継機をどうやって用意したのか? もちろん、三十年前にわしらがレム神に接続されていた時にあった中継機は、電磁パルスE  M  P攻撃で破壊された」
「修理できないのか?」
「修理も何も、あの時は地下施設にあった壊れた機械は、すべてわしらが部品を取り出すために解体したので残っておらん。レム神としては新たに中継機を持ち込むしかないわけじゃが、そんな物をどうやって用意したのか? 先ほどの傾斜路での戦闘でそれが分かった」
「さっきの戦闘で、何が分かったのだ?」
「先ほどのクローン兵士達の死体を調べたが、ほとんどタコなどない綺麗な手をしていた」
「それが、なにか?」
「綺麗な手をしているという事は、普段は重い武器は持っていない。過酷な労働にも従事していないということじゃ」

 まあ、そうなるな。

「わしはクローン兵士を見たときに、二つの可能性を考えたのじゃ。中継機として連れてきたクローンを投入したのか? それとも、端末として使う以外にレム神直属の兵士としてクローン兵士を用意していたのか? 手を見て直属の兵士という可能性はなくなった。あいつらはすべて、中継機として連れてきたクローンじゃ」
「それは分かるが、中継機に繋がれているはずのクローンが、なぜ自由に動き回っているんだい? 予備にしても、数が多いような……」
「理由は二つ考えられる。クローンを大量に連れてきたのはいいが、中継機の数が少なくてクローンが余ってしまった」
「なるほど。で、もう一つは?」
「簡易型の中継機を使っているのじゃ」
「簡易型?」
「培養装置のない簡易型じゃ。意識のない状態で培養装置の中に入れられているクローンは、ほぼ二十四時間BMIと接続していられる。しかし、意識のある状態でBMIと接続していられるのは精々五~六時間」
「という事は……意識のあるクローンを、ローテーションして使っているというのか?」
「そうじゃ。意識のあるクローンなら、大がかりな培養装置はいらん。ただし、一日に五~六時間しか接続できないので、五時間おき……実際には安全を考慮して四時間おきじゃな。そのぐらいの時間に交代する必要がある。そしてその後は健康維持のために一日休ませる必要がある。その分、交代要員として多くのクローン人間が必要になるのじゃ」

 つまり、さっき傾斜路で待ち伏せしていたのは、本日の中継業務が終わって手の空いているクローン人間だったという事か?

「多くのクローン人間が必要となるが、クローンにも飯を食わせなきゃならん。人数にも限りがある」

 そりゃそうだ。

「一機の中継機を二十四時間運用するのに必要なクローン人間は十二人。北ベイス島駐留帝国軍の規模から、養えるクローン人間は精々二百人。ここで使っている中継機は推定十六機ぐらいじゃろう」

 そんなに少ないのか?

「その十六機で人間の接続者を操り、余力でヤギやヒツジを操っているのじゃろうな」
「じゃあ、今レム神が操れるのは、第五層の入り口前に集結している動物が精一杯で、あれを片づければこれ以上の増援はないという事か?」
「そうじゃ。ちなみに中継機一機あたりで操れる動物は、二~三十頭ぐらいじゃな。だから、さっきすべての動物を接続しているような事を言ったが、あれは間違えじゃ。あの時は、中継機がこんなに少ないとは思わなかったのでな」

 ううむ……ジジイの言っている事は理にかなっていると思うが……

「よし! 今から、第五層へ行こう。可哀想だが、扉前に陣取っている動物は始末する」

 全員が第五層へ向かおうと立ち上がったとき、芽依ちゃんが突然僕の前に回り込んだ。

「待って下さい。北村さん」
「芽依ちゃん。動物を殺すのがイヤなら、ここで待っていてくれても……」
「そうじゃありません。もっと簡単な方法を思いついたのです」

 なんだって?
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...