749 / 893
第十六章
天才でも不可能だと思うが、変態なら可能なような気がする。
しおりを挟む
「やはり、ダメだったか」
と、僕が呟くように言ったのは、マテリアル・カートリッジが入っている倉庫の前まで移動してきた時のこと。
倉庫の扉には、張り紙が貼ってあった。
それには日本語でこう書かれている。
『北村海斗殿
この扉の向こうに貴殿の欲するカートリッジがある。この扉はエラ・アレンスキーNo.3(以後エラ)の体内に打ち込んだチップが、心臓停止を感知すると開く。エラが逃亡した場合でも、地下施設内部で補足して始末すれば開くが、施設外まで逃亡した場合は、お手数だが遺体をこの扉の前まで運んで来てもらいたい。なお、エラが取引を持ちかけて来ても話には乗らないように。もしエラを逃がしてから、扉を無理矢理こじ開けた場合、内部に仕掛けた爆薬が爆発する』
やはりね。こういう事になっていたか。しかし、レム神はなぜ、ここまでしてエラを始末したいのだろうか?
「北村さん。仕方ありませんね。エラを追いかけましょう」
芽依ちゃんの方を振り向く。
「ああ。では、傾斜路に戻ろう」
「しかし、そうなると中央広場を通らなければなりませんね。そうすると帝国軍兵士と戦闘になって、エラ・アレンスキーが私たちの接近に気が付いて逃げられるかもしれません」
「ううむ……そうなると、中央広場を通らず迂回してエラの背後を突くか……」
テントウムシのガルウイングが開いてミクが顔を出したのはその時。
「お兄ちゃん。もっといい方法があるよ」
「どんな?」
「あたし達も、エレベーターで第六層へ行くのよ」
「しかし、僕達に動かせるのか?」
「あの子達が、使い方を知っているって」
あの子達? どうやら少年兵達の事らしいな。
よし!
芽依ちゃんの方を振り向く。
芽依ちゃんは、意識を失った子ヤギを抱き抱えていた。
この子ヤギも、エラが中継機を破壊した時にレム神との接続が切れて倒れてしまっていたのだ。
傾斜路に一頭だけで残してはかわいそうと言って、芽依ちゃんがここまで抱き抱えてきたのだが……
「芽依ちゃん。僕達はこれからエラを追いかけて第六層へ向かう。その子ヤギは、ここに置いて行こう」
「どうしてですか? せっかくレム神とユキちゃんの接続が切れたのに……」
「だからだよ。このまま第六層に連れて行ったら、再接続されてしまうだろう。後で迎えにくればいい」
「そうでした。でも……目を覚ました時に近くに誰もいなかったら……」
芽依ちゃん、すっかり子ヤギに情が移ってしまったようだな。
ん? ジジイが芽依ちゃんの前に進み出た。
「メガネっ娘や。その子ヤギは、わしがここで面倒見ていてやるから、安心して第六層へ行ってこい」
「博士。よろしいのですか?」
「ああ。どうせわしが第六層に行ってもやる事はないし、ここで倉庫が開くのを待っておった方がよいじゃろう」
「でも……」
「遠慮することはないぞ」
「いいえ、遠慮しているのではなくて不安なのです」
「何が不安なのじゃ?」
「博士が、ユキちゃんにおかしな事を教えるのではないかと……」
「なんじゃと! わしが子ヤギに、女の子の下着を食べるように調教するような事をするとでも思っているのか!?」
「はい。思っています」
実は僕も思っていた。
「ぐぬぬ……鋭い読みじゃ」
図星かい!
「じゃが安心しろ。いくらわしが天才でも、そんな事は不可能じゃ」
確かに天才でも不可能だと思うが、変態なら可能なような気がする。
「安心して第六層へ行ってこい」
あまり、安心はできないがこれ以上時間はかけられない。
一抹の不安を残しつつ、僕達はジジイと子ヤギを残してエレベーターホールへ向かった。
と、僕が呟くように言ったのは、マテリアル・カートリッジが入っている倉庫の前まで移動してきた時のこと。
倉庫の扉には、張り紙が貼ってあった。
それには日本語でこう書かれている。
『北村海斗殿
この扉の向こうに貴殿の欲するカートリッジがある。この扉はエラ・アレンスキーNo.3(以後エラ)の体内に打ち込んだチップが、心臓停止を感知すると開く。エラが逃亡した場合でも、地下施設内部で補足して始末すれば開くが、施設外まで逃亡した場合は、お手数だが遺体をこの扉の前まで運んで来てもらいたい。なお、エラが取引を持ちかけて来ても話には乗らないように。もしエラを逃がしてから、扉を無理矢理こじ開けた場合、内部に仕掛けた爆薬が爆発する』
やはりね。こういう事になっていたか。しかし、レム神はなぜ、ここまでしてエラを始末したいのだろうか?
「北村さん。仕方ありませんね。エラを追いかけましょう」
芽依ちゃんの方を振り向く。
「ああ。では、傾斜路に戻ろう」
「しかし、そうなると中央広場を通らなければなりませんね。そうすると帝国軍兵士と戦闘になって、エラ・アレンスキーが私たちの接近に気が付いて逃げられるかもしれません」
「ううむ……そうなると、中央広場を通らず迂回してエラの背後を突くか……」
テントウムシのガルウイングが開いてミクが顔を出したのはその時。
「お兄ちゃん。もっといい方法があるよ」
「どんな?」
「あたし達も、エレベーターで第六層へ行くのよ」
「しかし、僕達に動かせるのか?」
「あの子達が、使い方を知っているって」
あの子達? どうやら少年兵達の事らしいな。
よし!
芽依ちゃんの方を振り向く。
芽依ちゃんは、意識を失った子ヤギを抱き抱えていた。
この子ヤギも、エラが中継機を破壊した時にレム神との接続が切れて倒れてしまっていたのだ。
傾斜路に一頭だけで残してはかわいそうと言って、芽依ちゃんがここまで抱き抱えてきたのだが……
「芽依ちゃん。僕達はこれからエラを追いかけて第六層へ向かう。その子ヤギは、ここに置いて行こう」
「どうしてですか? せっかくレム神とユキちゃんの接続が切れたのに……」
「だからだよ。このまま第六層に連れて行ったら、再接続されてしまうだろう。後で迎えにくればいい」
「そうでした。でも……目を覚ました時に近くに誰もいなかったら……」
芽依ちゃん、すっかり子ヤギに情が移ってしまったようだな。
ん? ジジイが芽依ちゃんの前に進み出た。
「メガネっ娘や。その子ヤギは、わしがここで面倒見ていてやるから、安心して第六層へ行ってこい」
「博士。よろしいのですか?」
「ああ。どうせわしが第六層に行ってもやる事はないし、ここで倉庫が開くのを待っておった方がよいじゃろう」
「でも……」
「遠慮することはないぞ」
「いいえ、遠慮しているのではなくて不安なのです」
「何が不安なのじゃ?」
「博士が、ユキちゃんにおかしな事を教えるのではないかと……」
「なんじゃと! わしが子ヤギに、女の子の下着を食べるように調教するような事をするとでも思っているのか!?」
「はい。思っています」
実は僕も思っていた。
「ぐぬぬ……鋭い読みじゃ」
図星かい!
「じゃが安心しろ。いくらわしが天才でも、そんな事は不可能じゃ」
確かに天才でも不可能だと思うが、変態なら可能なような気がする。
「安心して第六層へ行ってこい」
あまり、安心はできないがこれ以上時間はかけられない。
一抹の不安を残しつつ、僕達はジジイと子ヤギを残してエレベーターホールへ向かった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる