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第十六章

サイバーテロロボット

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 人質は手放したものの、エラはすぐに起きあがった。

 どうやら、オボロは体当たりをしただけで、エラにはたいしたダメージはなかったらしい。

「うわ!」

 起きあがったエラを、オボロは尻尾で叩いて人質から大きく引き離す。

「人質さえいなければ、こっちのものだもんね。おばちゃん」
「待て! 式神使い!」
「いや! 待たない」

 オボロは一度エラから離れると、角を輝かせてプラズマボールを放つ。

 しかし、プラズマボールはエラから五メートル手前で消滅してしまった。

 やはりプラズマボールでは、高周波磁場を越えられないか。

 ん? 人質にされていた少年兵が起きあがり、エラの方へ駆け寄っていく。

 せっかく、エラから引き離したというのに……

「君! そっちへ行っちゃだめ!」

 ミクが声をかけるが、少年兵はかまわずエラの方へ向かっていく。

 手の届く距離まで近づいた時、少年兵はミクが乗っているテントウムシの方を振り向いた。

「大尉を殺さないでくれ」
「えええ!? 何言っているの? そいつは君に、非道ひどいことをしたのでしょ?」
「そうだよ。だけど、大尉が君に殺されるのを、黙って見てはいられないんだ」
「そんなあ」

 少年兵はエラの方を振り向く。

「おまえ……私をかばってくれるのか?」

 エラの問いに、少年兵はコクっとうなずくと自分より頭一つ分背の高いエラに抱きついた。

「おまえ……私の事を……?」

 少年兵の両手がエラの後で交差する。

 ……これは!

「アレンスキー大尉。実は僕……」
「ん? どうした?」

 少年兵は、左腕の袖に隠していた物を右手で抜き取ると、エラのヘルメットの隙間からそれを射し込んだ。

「ぐわわぁぁ! 貴様……なにを……?」
「実は僕達、広場で帝国兵に捕まっていたのですよ」
「なに?」
「その時に、あなたの高周波磁場に反応しないプラスチックのナイフを渡されました。これであなたを刺せと言われて……」
「なん……だと……」
「ナイフには、毒が塗ってあるのでもう助かりませんよ」
「よくも……裏切りおったな……」
「ごめんなさい。友達も一緒に捕まっているので、言うことを聞くしかなくて……それに、ここに送り込まれてから、大尉には散々虐められた。助ける義理なんかない!」
「貴様……」
「ようやく大尉から解放されて、リトル東京へ行けると思っていたのに……なんで僕達だけ、あんたに付いて行かなきゃならないんだ! 付いていったら、死ぬまであんたにイビられる。そんなのまっぴらだ!」

 当然だな。

 エラはガクッと膝を付いた。

 少年兵はミクの方を振り向く。

「君に殺されるのを黙って見ていられないと言ったのは、こういう事だよ。こいつだけは、僕の手で殺さなければ気が済まなかった」
「そういう事だったの」
「さあ、これで僕はリトル東京へ行けるんだね」

 少年兵がテントウムシの方へ歩み寄ろうとしたその時、突然ミクが叫んだ。

「避けて! 危ない!」
「え?」

 見ると、少年兵の背後で床に腹這いになったままのエラが、少年兵に向かって右の掌を向けていた。

 掌の前に出現したプラズマボールが、少年兵に向かって突き進む。

「うぎぁあああぁぁ!」

 一万度のプラズマボールが、少年の身体を包み込む。

 名前も知らなかった少年兵が、物言わぬむくろと化していく様を、僕達は為すすべもなく見守っていた。

 黒こげになった躯の向こうで、エラはヘルメットを外すと、憤怒ふんぬの表情で僕達をにらみつける。

「私は……もう死ぬ。その時になって……後悔するがいい。私と、取引しなかったことを……」

 そのままエラNo.3は事切れた。

 通信機の呼び出しコール音が鳴ったのはその時。

 ジジイからだ。

 エラが死んだ事によって、倉庫の扉が開いた事の報告だろうか?

 それにしては少し早いような。

「ジジイ。扉が開いたのか?」
『それどころではない! 若造、直ちに嬢ちゃんをテントウムシから降ろせ!』

 え? なぜエラと同じ事をジジイが……

『子ヤギの毛の中に、小型ロボットが隠れていた。わしの記憶が正しければ、これはネットから遮断されたコンピューターに、ウイルスを送り込むのに使われていたサイバーテロロボットじゃ! テントウムシには、ウイルスが感染しているぞ!』

 なんだってえ!?
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