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第十六章
メッセンジャー
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クローン人間は、さらに話しを続けた。
「ワームホールが閉じた今、もはや君にはどうすることもできない。あきらめて帰るが良い」
「あんたを捕まえて、もう一度ワームホールを開かせると言ったらどうする?」
「私が、脅迫に屈するとでも思っているのか?」
「脅迫? そんな事はしない。こちらの魔法使いに、分身体を作ってもらえば済むことだ」
「なるほど、そっちには分身魔法使いのカ・モ・ミールがいたな。だが無駄だ。もう、分かっていると思うが、この身体を通して君と話をしている私は、レム神によって作られた疑似人格。私を捕らえて魔法使いに分身体を作らせる前に、私は自決するということは分かっているだろう」
やはりそうくるか。
「そうだな。ところで、ここには帝国兵が六人いたはずだが、後の五人はどうした?」
「すでに、スパイダーによって陣地へ戻ったよ。私だけが、君へのメッセンジャーとして残ったのだ」
「レム神からのメッセージがあるのか?」
クローンは頷いた。
「エラNo.3が死んだことを確認したので、倉庫の鍵は開けた。中にあるカートリッジは、好きなだけ持って行ってくれ」
好きなだけ……?
「こっちとしては一つだけで良かったのだが、そこまで言うなら遠慮なくすべて持って行くけどいいのかい?」
「かまわないさ。元々カートリッジは、リトル東京から盗み出したもの」
「あんたたちが、プリンターを使えなくなるぞ」
クローンは首を横にふった。
「問題はない。リトル東京ではカートリッジの再充填をやっているようだね。私の方でもそれができる目処が立ったので、今更盗んだカートリッジなど必要なくなったのだよ」
なに?
「もっとも、レアメタルやレアアースなどはまだ無理なので、それを渡すのは惜しいのだが約束では仕方がない。カートリッジを持って行くがいい。カルカに着いたら、我が宿敵章 白龍によろしく伝えてくれ。私からのプレゼントだと」
「章白龍は、あんたにとって敵だろう」
「敵だ。だが死なせるには惜しい男だ」
一見良いことを言っているが、大方章白龍を融合したいとでも考えているのだろうな。
そうだとすると、いろいろと説明が付く。
レム神としては、融合する前に章白龍に死なれては困る。
だから、本当はカートリッジをさっさと渡して治療してもらいたかった。
だが、あっさりカートリッジを渡すと何か裏があると警戒される。
だから仕方なく渡したように見せかけるために、こんな手の込んだ事をしたのだろう。
「もう一つ疑問なのだが、なぜあんたはエラをそこまで執拗に殺したがる?」
するとクローンは顔をしかめた。
「トラウマだよ」
トラウマ?
「あの女が再生された三十年前から、私は時折原因不明の恐怖心がわき上がってきて、正常な判断ができなくなる事が度々あった。その原因が分かったのは、つい最近のこと」
なんだろう?
「あの女……エラ・アレンスキーのオリジナル体はレム・ベルキナのオリジナル体に、深刻な心的外傷を刻みつけていたのだ。これを解消するには、あの女を殺すしかない。しかし、帝国の英雄を死刑にするわけには行かない。だから戦場で死ぬように仕向けることにしたのだ」
「あのレム神さん。疑問なのですけど……」
「何かね? メイ・モリタ」
「帝国という大きな国を指導していくのに、エラさんという英雄がいた方が都合良いというのは分かります。でも、それってあなたがすべての国民を接続すれば、何も問題ないのでは?」
「メイ・モリタ。あなたは温和なように見えて、なかなか意地が悪い。知っていて聞いているな」
「あ! 分かっちゃいました」
「常時接続状態にできる人数には限界がある。その限界数を明かす気はないが、帝国国民全員を接続するなど不可能だ」
やはりそうなのか。
「話を戻したいのだが、レム・ベルキナのオリジナル体とエラ・アレンスキーのオリジナル体の間に何があったのだ?」
「私の口からは言いたくない。潜水艦に帰ったら、エラNo.1に聞くがいい。あいつがミーチャ・アリエフという私のクローンを見たとき、何を思ったのか」
帰ったら聞いておくか。
「それとすまないが、ミクという娘はいただいた。丁重に扱うから、心配する事はないぞ。では、再見の日まで健在であれ」
そのままクローンは、広場から立ち去って行った。
「行ったな」
確認するように僕は言った。
「行きましたね」
芽依ちゃんがそれに答える。
「あの様子だと、まだ気が付いていないな」
「ええ。テントウムシの中にいるのが、実はミクちゃんの替え玉アンドロイドだという事には。でも、気づかれるのは時間の問題ですね」
「気づかれる前に逃げよう。そろそろ橋本君達の作業も、終わっている頃だろう」
「ワームホールが閉じた今、もはや君にはどうすることもできない。あきらめて帰るが良い」
「あんたを捕まえて、もう一度ワームホールを開かせると言ったらどうする?」
「私が、脅迫に屈するとでも思っているのか?」
「脅迫? そんな事はしない。こちらの魔法使いに、分身体を作ってもらえば済むことだ」
「なるほど、そっちには分身魔法使いのカ・モ・ミールがいたな。だが無駄だ。もう、分かっていると思うが、この身体を通して君と話をしている私は、レム神によって作られた疑似人格。私を捕らえて魔法使いに分身体を作らせる前に、私は自決するということは分かっているだろう」
やはりそうくるか。
「そうだな。ところで、ここには帝国兵が六人いたはずだが、後の五人はどうした?」
「すでに、スパイダーによって陣地へ戻ったよ。私だけが、君へのメッセンジャーとして残ったのだ」
「レム神からのメッセージがあるのか?」
クローンは頷いた。
「エラNo.3が死んだことを確認したので、倉庫の鍵は開けた。中にあるカートリッジは、好きなだけ持って行ってくれ」
好きなだけ……?
「こっちとしては一つだけで良かったのだが、そこまで言うなら遠慮なくすべて持って行くけどいいのかい?」
「かまわないさ。元々カートリッジは、リトル東京から盗み出したもの」
「あんたたちが、プリンターを使えなくなるぞ」
クローンは首を横にふった。
「問題はない。リトル東京ではカートリッジの再充填をやっているようだね。私の方でもそれができる目処が立ったので、今更盗んだカートリッジなど必要なくなったのだよ」
なに?
「もっとも、レアメタルやレアアースなどはまだ無理なので、それを渡すのは惜しいのだが約束では仕方がない。カートリッジを持って行くがいい。カルカに着いたら、我が宿敵章 白龍によろしく伝えてくれ。私からのプレゼントだと」
「章白龍は、あんたにとって敵だろう」
「敵だ。だが死なせるには惜しい男だ」
一見良いことを言っているが、大方章白龍を融合したいとでも考えているのだろうな。
そうだとすると、いろいろと説明が付く。
レム神としては、融合する前に章白龍に死なれては困る。
だから、本当はカートリッジをさっさと渡して治療してもらいたかった。
だが、あっさりカートリッジを渡すと何か裏があると警戒される。
だから仕方なく渡したように見せかけるために、こんな手の込んだ事をしたのだろう。
「もう一つ疑問なのだが、なぜあんたはエラをそこまで執拗に殺したがる?」
するとクローンは顔をしかめた。
「トラウマだよ」
トラウマ?
「あの女が再生された三十年前から、私は時折原因不明の恐怖心がわき上がってきて、正常な判断ができなくなる事が度々あった。その原因が分かったのは、つい最近のこと」
なんだろう?
「あの女……エラ・アレンスキーのオリジナル体はレム・ベルキナのオリジナル体に、深刻な心的外傷を刻みつけていたのだ。これを解消するには、あの女を殺すしかない。しかし、帝国の英雄を死刑にするわけには行かない。だから戦場で死ぬように仕向けることにしたのだ」
「あのレム神さん。疑問なのですけど……」
「何かね? メイ・モリタ」
「帝国という大きな国を指導していくのに、エラさんという英雄がいた方が都合良いというのは分かります。でも、それってあなたがすべての国民を接続すれば、何も問題ないのでは?」
「メイ・モリタ。あなたは温和なように見えて、なかなか意地が悪い。知っていて聞いているな」
「あ! 分かっちゃいました」
「常時接続状態にできる人数には限界がある。その限界数を明かす気はないが、帝国国民全員を接続するなど不可能だ」
やはりそうなのか。
「話を戻したいのだが、レム・ベルキナのオリジナル体とエラ・アレンスキーのオリジナル体の間に何があったのだ?」
「私の口からは言いたくない。潜水艦に帰ったら、エラNo.1に聞くがいい。あいつがミーチャ・アリエフという私のクローンを見たとき、何を思ったのか」
帰ったら聞いておくか。
「それとすまないが、ミクという娘はいただいた。丁重に扱うから、心配する事はないぞ。では、再見の日まで健在であれ」
そのままクローンは、広場から立ち去って行った。
「行ったな」
確認するように僕は言った。
「行きましたね」
芽依ちゃんがそれに答える。
「あの様子だと、まだ気が付いていないな」
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「気づかれる前に逃げよう。そろそろ橋本君達の作業も、終わっている頃だろう」
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