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第七章

女の子を、馬で追い回す奴なんて、悪に決まってる

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 大気圏突入体は、僕が乗って来たシャトルよりも遥かに単純な作りだった。
 直径三メートルほどの金属製の円盤。はやぶさの大気圏突入カプセルを大きくしたような形状だ。
 しかし、中の人間はもう降りた後らしい。
 カプセルの蓋はすでに開いていて、その中には無人のGシートがあるだけだった。
「どなたが乗って来たのか知りませんが、迂闊な人ですね」
 Pちゃんは、カプセルの中から黄色い手提げカバンを取り出す。
「サバイバルキットを忘れて行っています」
 
「昨夜の流れ星の正体は、これだったのか」

「ええ!? じゃあ、お願いは、叶えてもらえないのですか? せっかく三回唱えたのに……」

 ミールが残念そうな顔をしていた。

 ガサ!

 背後で草をかき分ける音。
 
 振り向くと、白いウサギがいた。
 
 ウサギ? この惑星にウサギがいるのか?

「あら? 可愛い」
 ミールがウサギの前にかがみこむ。
 これだけ、人間が近づいているのに、逃げようとしない。
 飼われていたのか?
「ミール。その動物を、見たことあるかい?」
「え? いえ、初めて見る動物ですね」
 やはり、この惑星にはウサギなんて元々いないんだ。
 では、このウサギが大気圏突入体でやって来たのか?
 
 不意にウサギは後ろを向くと、飛び跳ねてどこかへ行ってしまった。
「カイトさん。今の動物」
「ああ、あれは……」
「誰かが操っている分身体です」
「ええ!? 分身?」
「術者は誰か分かりませんが、あの分身体を通じて、あたし達を見ていたようですね」

 いったい何者が?
 
 不意にPちゃんのアンテナがピコピコと動いた。
「ご主人様。こっちへ向う熱源を、ドローンが捉えました」
「こっちへ?」
 ちなみに今、僕達がいる場所は街道から数百メートル離れた草原の中。車で草原の中を走るのは大変だったので、車は街道から少し離れたところに止めて、僕たちはバイクでここまで来た。
 そんな所へ向ってくるという事は、わざわざ街道から離れて草原の中に入り込んだという事だ。
 僕は、大気圏突入体を指差した。
「これに乗って来た人が、帰ってきたのかな?」
「それにしては、人数が多いです」
 映像を見た方が早いな。
 ウェアラブル端末に映像を出した。
 草原を走る竜車が見える。
 竜車にしては、かなりのスピードだ。
 まるで、何かから追いかけられているみたい……あ! 追いかけられていた。 
 数十頭の馬に追いかけられていた。
 馬に乗っている奴らの身なりを見ると、鎧とかは着ていない。
 騎兵隊というより、馬賊と言った風体だ。
「ミール。ちょっと見てくれ」
 屈みこんで、ミールに映像を見せた。
「君の本体が町で見かけた、ガラの悪い帝国人って、こんなの?」
「そうそう。ちょうど、こんな感じです」
「で、こいつら何をしているのかな? まるで、盗賊みたいだが」
「みたい、じゃなくて盗賊そのものですね」
 映像の中で、竜車が転倒した。
 竜車の中から、十代半ばぐらいの女の子が転がり出る。
 ナーモ族じゃない?
 髪も黒いし、帝国人でもない。
 僕と同じ東洋系の地球人だ。
 馬賊たちは、女の子を取り囲んだ。
 瞬時にして、僕の脳内善悪判定アプリは馬賊を悪と認定する。
「ご主人様。何をするのです」
 Pちゃんの問に答えず、僕はドローンのコントロールを手動に切り替えた。
 馬賊の一人に狙いを定めて銃撃。
 延髄を撃ち抜かれた男は、馬から転げ落ちた。
「ご主人様。まだ、馬の方が悪いと決まったわけでは……」
「何を言ってる。か弱い女の子を、馬で追い回す奴なんて、悪に決まってるだろう」
「カイトさん。あまりか弱くないみたいですよ」
「え?」
 女の子は、突然高々と跳躍した。
 そのまま近づいてきた馬上の男に、何かを叩きつける。

 ヌンチャク?

 ヌンチャクを叩きつけられた男は、馬から転げ落ちた。

 功夫カンフーだ!             

 背後から馬が近づいてきた。
 彼女は高々と跳躍すると、空中で一回転して、馬上の男に蹴りを浴びせた。
 馬上の男は落馬する。

 しかし、いくら彼女が強くたって多勢に無勢、このままではやられる。

 馬上から銃で彼女を狙っている男がいた。その男に対地ミサイルを撃ち込む。

 男は、たちまちのうちに炎に包まれた。

 馬賊たちは、ようやく功夫少女以外に、自分達を攻撃している者がいる事に気が付いたらしい。
 周囲をキョロキョロと見回している。
 その男たちを、次々と銃撃で倒していく。
 あかん。六人倒したところで弾切れ。
 このまま逃げては……くれそうにないな。
 馬賊の一人がこっちを指差す。
 ドローンが見つかったか。
 馬賊たちは、ドローンに向かって銃を撃ってきた。
 旧式銃とはいえ、気嚢に当たれば落とされる。
 ドローンを上昇させて射程外に逃がした。
「よし、行くか」
 僕はバイクにまたがった。
 ロボットスーツは車においてきてしまったが、この程度の人数ならバイクに積んであるショットガンと拳銃で何とかなるだろう。
「あたしも行きます」
 ダンデムシートに、ミールが飛び乗る。
「ご主人様。置いてかないで下さい」
 サイドカーに、Pちゃんが飛び乗った。
 二人を乗せて僕はバイクを走らせた。
 草原の上を一気に駆け抜ける。
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