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第十六章

エネルギー切れ

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 時空穿孔機の破壊は断念し、僕はワームホールを抜けて《海龍》に戻った。

 それにしても、今のは何だったのだろう?

 自分で神と言っておきながら、次には『神じゃない』と……

 もしかして、レム神の人格融合は実は上手くいっていなくて、多重人格のような状態になっているのでは?

 おっと! 今はそんなことを考えている場合じゃないぞ。

 電力切れを知らせる耳障りな警報は、まだ鳴り続けている。

 早く充電しないとだが、着脱装置も充電装置も《海龍》艦内。入り口は、イリーナたちに押さえられている。

 チラっと《水龍》に視線を向けた。

 あそこなら着脱装置はないが、充電と弾薬の補給はできる。

 距離は約二百メートル。

 これなら、残りのエネルギーで飛べる。 

「イナーシャルコントロール ゼロG」

 重力を打ち消した。

「ジャンプ!」

 増力ブーストジャンプで 《水龍》へ向かって飛ぶ。

 後はホバーで微調整すれば、《水龍》の甲板に降り……

『カイトさん!』『北村さん!』

 突然、通信機からミールと芽依ちゃんの緊迫した声が響いた。

『『ドローンが追ってきます!』』

 まだ残っていた奴がいたのか!?

 レーダーのスイッチを入れると、僕の後方から七つの光点が逆V字陣形で迫ってくる。

 振り向いて映像を拡大すると、先ほどの自爆型カミカゼドローン。

 もうショットガンの残弾はない。

 ならば……

「ワイヤーガンセット ファイヤー!」

 左腕のワイヤーガンを、先頭から二番目を飛行していたドローンに撃ち込んだ。

 そのまま、ワイヤーを掴んで振り回す。

 ドローンは先頭を飛んでいる仲間のドローンと空中衝突。

 そのまま、二機のドローンは爆発した。

 しかし、まだドローンは五機残っている。

 ワイヤーガンは今ので最後。

 しかも、無理をしたせいでコースがずれた。

 このままだと《水龍》に着く前にエネルギーが切れるな。

 ここまでか……と思ったその時……

『ヤッホー! お兄さん、助けにきたよ』

 通信機からレイホーの声が流れた。

 同時にドローンの一機が爆発する。

 レーダーを見ると、急接近する物体が映っていた。

 そっちの方向の映像を拡大すると、現れたのは二機のヘリコプター。

 南ベイス島へ行っていたアーニャとレイホーが戻って来てくれたのか。

 そのうちの一機は、橋本晶がリトル東京から乗って来た機体で、今はレイホーが操作している。

 もう一機は、《海龍》のプリンターから出力した機体でアーニャが操作している。

 そのアーニャ機のキャビンドアが開き、そこから誰かが銃を構えていた。

 さらに映像を拡大。

 キャビンドアにいたのはナージャ・ソコロフ!

 構えているのは、ナージャ愛用のフッ化重水素レーザー銃だ。

 これでドローンを落としてくれたのか。

「レイホー! いいところへ来てくれた。九九式は、もうエネルギーが無い。収容してくれると助かる」
『了解ね。でも、その前に邪魔な害虫を片づけるね。ナージャさん任せた』
『了解! 落ちろ! カトンボ!』

 ナージャのレーザーを食らってドローンの一機が爆発!

 残るは四機。

 それはいいけど、なんでこの惑星で生まれ育ったナージャが、蚊蜻蛉カトンボなんて地球の昆虫を知っているんだ?

 翻訳機のミスか、それともナージャが少女時代を過ごした南ベイス島のライブラリーに『機○戦士Z○ンダム』のデータでもあるのか?

 なんて事を考えている間に、カトンボ……じゃなくてドローンは次々と撃墜されていく。

 最後のドローンを落とすと、ナージャはキャビンドアを閉めた。

 そのままヘリは《海龍》へと向かう。

 もう一機のヘリは僕に近づくと、キャビンドアを開いて僕を収容してくれた。

「レイホー。ありがとう。助かったよ」
「どういたしまして」
「ところで、状況はどこまで把握できている?」
「大まかな事は、芽依ちゃんから通信機で聞いたね。奴らがワームホールを開いて攻めてきて、ミーチャを人質にとられ《海龍》司令塔の上を押さえられた事。奴らの誰かを殺すと対人地雷が爆発する事も聞いているから、アーニャさんが奴らを攻撃する事はないので安心してね。で、お兄さん。この後は、どうするね?」
「とりあえず《水龍》に降りてくれ。充電しないとどうにもならん」
「了解ね。その後は?」
「敵が次の手を打ってこなければ、充電が終わり次第ワームホールへ再攻撃をかけるが、その前に向こうが何か手を打ってくるだろう」

 事実そうなった。

「お兄さん。触手大魔王が出てきたね」

 レイホーがそう言ったのは《水龍》甲板上で僕が充電を始めた直後の事。

 レイホーの指さす先を見ると、《海龍》後甲板のワームホールから、赤いスパイダーが這い出してくるところだった。
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