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第十六章

死なせない!

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 水を滴らせながら、海面上数メートルの空中に浮いているクリームイエローの機動服ロボットスーツは、間違えなく矢部の九十九式!

 しかし、なぜここに?

 矢部の九十九式は《海龍》甲板上に下りると、ミーチャの身体をそっと横たえた。

 ミーチャに意識はないようだが、身体に外傷は見られない。助かったのだろうか?

「パージ」

 その場で矢部は九十九式を脱着した。

 パーツが甲板上に散らばり、中から小太りの若い男が現れる。

「説明は後でする! 先にこの子の蘇生処置を! 息をしていないんだ!」

 そうだった! まだミーチャは助かったわけじゃない。

 僕を含めて甲板にいた全員が、ミーチャの周囲に駆けつける。

 最初に駆けつけたのはキラ。

「ミーチャ! 目を開けてくれ!」

 そう言ってからキラは、横たわるミーチャの胸に耳を当てた。

「心臓が動いていない」

 キラはミーチャの鼻を摘まむと、大きく息を吸い込んでからミーチャに口づけをする。

 口から息を吹き込むとキラは一度口を放し、上半身の衣服を脱がしてから心臓マッサージを始めた。

 その間もミーチャに呼びかけ続ける。

「ミーチャ! 帰って来い! ミーチャ!」

 だが、ミーチャは意識を取り戻さない。

 再びキラは、ミーチャの肺に口移しで空気を送り込む。

「死なせない! 死なせるものか! ミーチャは、私と一緒にリトル東京へ行くんだあ!」

 心臓マッサージをしながら、キラは叫ぶ。

 だが、ミーチャの心臓はまだ止まったまま。

 そうだ! AEDを……しかし、艦内に取りに行く余裕は……

「ご主人様!」

 司令塔からPちゃんが出てきたのはその時……

 その手に握られているのはAED!

「Pちゃん! 良い物を持ってきてくれた。さっそくミーチャに使ってくれ」

 キラが人工呼吸をしている間に、Pちゃんがミーチャの身体にAEDのパットを張り付けた。

「電気ショックを行います」

 ミーチャの身体が一瞬大きく動く。

 電気ショックの後、キラは心臓マッサージを再開。

「ケホ!」

 しばらくして、ミーチャは息を吹き返した。
 
「ミーチャ!」「ミーチャ君!」「良かった。生き返ったのね」

 ミーチャはすぐに状況が飲み込めなかったのか、キョトンとした顔で周囲を見回す。

 程なくして、状況が飲み込めたのか、目に涙を浮かべた。
 
「ごめんなさい! 僕が、レム神のスパイだったなんて……」

 そんなミーチャをキラは優しく抱きしめる。

「ミーチャは、何も悪くない」
「でも……」
「おまえは犠牲者なんだ。何も悪くはない」
「キラさん。どうして、いつも僕にそんなに優しくしてくれるのです?」
「初めてだったんだ」
「え? なにが?」
「私は今まで、自分の事しか考えていなかった。誰かのために、何かをしてあげたい。私がこんな気持ちになれたのは、初めてだったんだ」
「キラさん?」
「ミーチャ。一緒にリトル東京に行こう。私と一緒に幸せになろう」

 おいおい……これってプロポーズ?

「でも、僕は今も、レム神とつながっているのです。みなさんと一緒にいたら、迷惑をかけてしまいます」

 大丈夫だ。そんなもん断ち切ってやる。

 と、言おうとしたとき、矢部が僕の前に進み出た。

 なんのつもりだ?

「その心配はないよ。ミーチャ君と言ったね。君はもう、レム神とのつながりは切れているはずだ」
「え?」

 どういう事だ?

「一度仮死状態になると、脳間通信機能は強制終了するのだよ。だから、君はもう自由だ」

 なんだって?

「俺も、芽依ちゃんが殺してくれたおかげで、レム神の呪縛から逃れる事ができたんだ」

 矢部は芽依ちゃんの方を向いて頭を下げた。

「芽依ちゃん。君のおかげだよ」

 いや、それって礼を言うのおかしくね? いやまあ、結果良ければすべて良しとも言うが……

 しかし、礼を言われた芽依ちゃんも、リアクションに戸惑っているな。

「いえ……どういたしまして……て、いうか矢部さん! どうやって助かったのですか?」
「川底に沈んでいた俺を、タウリ族が拾い上げて蘇生してくれたのだよ。その時に、レム神との脳間通信が切れている事に気がついたんだ」

 タウリ族?

「矢部さん。タウリ族に会えたのですか?」
「ああ。さっきまで、その船にいた。そして」

 矢部は僕の方を振り向く。

「隊長。いや、北村さん。俺は彼からあなたへのメッセージを持ってきたのですよ」
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