795 / 897
第十六章

スーホの頼み(矢部の事情)

しおりを挟む
 一抹の不安を覚えたが、それならリトル東京には戻らないで、この惑星のどこかでひっそりと暮らして行けばいいのではないかと矢部は考えた。

 しかし、死ぬまで一人でいるのは辛い。いや、そもそもこの惑星で一人だけで生きていける自信などない。

 ナーモ族の町か村で暮らすか、あるいはスーホの船で下働きでもさせてもらおうか? とも考えたが、そもそもこの船に下働きなど必要なさそうだ。

 スーホ以外のタウリ族すら見かけないし……

「ん? そういえばスーホさん。この惑星にはタウリ族は他に六名いるのですよね? この船に乗ってからスーホさんの姿しか見ていないのですが、他の方はどうされたのですか?」
「実は、その事なのだが……」

 少しだけスーホの表情が曇った。

「すでに三人の仲間が死んでいる」
「それは……レム神に殺されたという事ですか?」

 スーホは頷いた。

「殺されたのではなく自決したのだが、奴に殺されたのも同然だ。そして私を含めて残りの四人はバラバラに潜伏していたのだが、先日三人の仲間がレム神に捕らえられていた事が分かった」
「ええ! 捕まって殺されたのですか?」

 スーホは首を横に振る。

「レム神が欲しがっているのは、我々の命ではなく知識だ。奴はせっかくベイス島の施設を手に入れたのに、そこの設備を使う事ができないでいた。そこで奴は、我々を捕らえて設備の使用法を聞き出そうとしていたのだ」
「じゃあ最初に死んだ三人は、レム神に情報を渡さないために自ら命を断ったというのですか?」
「そうだ。だから、捕まえても自決されてしまうのでは、我々を捕まえても無駄だと思ったのか、レム神はしばらくのあいだ我々に手を出してはこなかった。状況が変わったのは二ヶ月前。突然、仲間が次々と拉致された。私一人だけが、この船に逃げ込んで隠れていたのだ」
「大変でしたね。しかし、奴はなんで急にタウリ族を拉致するようになったのでしょう? 自決されてしまっては、意味がないのに」
「奴は方法を変えてきたのだよ。我々に自決をさせないために、君達がブレインレターと呼ぶ機械を使ったのだ」
「ええ! じゃあレム神に、接続されちゃったのですか?」
「そうだ。さっきも言ったが、我々と地球人の脳は同じ構造をしている。あの機械を使って、我々の脳を操ることは可能なのだよ」
「なんと惨い事を……」
「そこで矢部、君に頼みたいことがある」
「なんでしょう?」
「私は仲間を助けたい。それには、地球人の協力が必要だ。リトル東京の地球人と渡りをつけてほしい」

 矢部としては、命の恩人であるスーホの頼みを断りたくはない。

 しかし、それにはリトル東京へ行く必要がある。

 そこへ行けば、矢部は裏切り者として処罰を受ける恐れがあった。

 そしてスーホと協議した結果、北村海斗の艦隊とコンタクトを取り、彼を通じてリトル東京と渡りを付けることになったのだ。

 そのために、スーホの船は海斗の艦隊を追って内海まで来たのだが、ちょうどその時は戦闘の真っ最中。

 迂闊に近づけば敵と見なされ攻撃を受けかねないため、戦闘が収まるまで水中で待機して情報を集めていた。

 ようやく戦闘が収まったようなので、海斗に会いに行こうと応急修理した九十九式を矢部が装着した矢先、イリーナ率いる帝国軍が海斗の艦隊を襲撃してきた。

 出ていく機会を逸した矢部は、水上での戦いの様子を見ながらスーホに質問した。

「スーホさん。何も無いところから帝国兵が現れていますが、これはタウリ族の技術では?」
「そうだ。拙い事になったぞ。奴ら、ワームホールを使いこなせるようになってしまったのか」
「どうしましょう? 今出て行ったら、俺も敵と見なされて攻撃されかねません」
「もう少し様子を見よう」

 しばらくして戦闘が収まりかけた時、一人の少年が水中へ飛び込む様子が見えた。

 矢部は決して善人ではない。

 しかし、溺れている子供を見殺しにできるほど冷酷でも無かった。

 考える間もなく矢部は船から水中へ飛び出すと、沈んでいく少年を抱き上げて海斗達の前に降り立ったのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...