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第十六章

スーホの頼み(矢部の事情)

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 一抹の不安を覚えたが、それならリトル東京には戻らないで、この惑星のどこかでひっそりと暮らして行けばいいのではないかと矢部は考えた。

 しかし、死ぬまで一人でいるのは辛い。いや、そもそもこの惑星で一人だけで生きていける自信などない。

 ナーモ族の町か村で暮らすか、あるいはスーホの船で下働きでもさせてもらおうか? とも考えたが、そもそもこの船に下働きなど必要なさそうだ。

 スーホ以外のタウリ族すら見かけないし……

「ん? そういえばスーホさん。この惑星にはタウリ族は他に六名いるのですよね? この船に乗ってからスーホさんの姿しか見ていないのですが、他の方はどうされたのですか?」
「実は、その事なのだが……」

 少しだけスーホの表情が曇った。

「すでに三人の仲間が死んでいる」
「それは……レム神に殺されたという事ですか?」

 スーホは頷いた。

「殺されたのではなく自決したのだが、奴に殺されたのも同然だ。そして私を含めて残りの四人はバラバラに潜伏していたのだが、先日三人の仲間がレム神に捕らえられていた事が分かった」
「ええ! 捕まって殺されたのですか?」

 スーホは首を横に振る。

「レム神が欲しがっているのは、我々の命ではなく知識だ。奴はせっかくベイス島の施設を手に入れたのに、そこの設備を使う事ができないでいた。そこで奴は、我々を捕らえて設備の使用法を聞き出そうとしていたのだ」
「じゃあ最初に死んだ三人は、レム神に情報を渡さないために自ら命を断ったというのですか?」
「そうだ。だから、捕まえても自決されてしまうのでは、我々を捕まえても無駄だと思ったのか、レム神はしばらくのあいだ我々に手を出してはこなかった。状況が変わったのは二ヶ月前。突然、仲間が次々と拉致された。私一人だけが、この船に逃げ込んで隠れていたのだ」
「大変でしたね。しかし、奴はなんで急にタウリ族を拉致するようになったのでしょう? 自決されてしまっては、意味がないのに」
「奴は方法を変えてきたのだよ。我々に自決をさせないために、君達がブレインレターと呼ぶ機械を使ったのだ」
「ええ! じゃあレム神に、接続されちゃったのですか?」
「そうだ。さっきも言ったが、我々と地球人の脳は同じ構造をしている。あの機械を使って、我々の脳を操ることは可能なのだよ」
「なんと惨い事を……」
「そこで矢部、君に頼みたいことがある」
「なんでしょう?」
「私は仲間を助けたい。それには、地球人の協力が必要だ。リトル東京の地球人と渡りをつけてほしい」

 矢部としては、命の恩人であるスーホの頼みを断りたくはない。

 しかし、それにはリトル東京へ行く必要がある。

 そこへ行けば、矢部は裏切り者として処罰を受ける恐れがあった。

 そしてスーホと協議した結果、北村海斗の艦隊とコンタクトを取り、彼を通じてリトル東京と渡りを付けることになったのだ。

 そのために、スーホの船は海斗の艦隊を追って内海まで来たのだが、ちょうどその時は戦闘の真っ最中。

 迂闊に近づけば敵と見なされ攻撃を受けかねないため、戦闘が収まるまで水中で待機して情報を集めていた。

 ようやく戦闘が収まったようなので、海斗に会いに行こうと応急修理した九十九式を矢部が装着した矢先、イリーナ率いる帝国軍が海斗の艦隊を襲撃してきた。

 出ていく機会を逸した矢部は、水上での戦いの様子を見ながらスーホに質問した。

「スーホさん。何も無いところから帝国兵が現れていますが、これはタウリ族の技術では?」
「そうだ。拙い事になったぞ。奴ら、ワームホールを使いこなせるようになってしまったのか」
「どうしましょう? 今出て行ったら、俺も敵と見なされて攻撃されかねません」
「もう少し様子を見よう」

 しばらくして戦闘が収まりかけた時、一人の少年が水中へ飛び込む様子が見えた。

 矢部は決して善人ではない。

 しかし、溺れている子供を見殺しにできるほど冷酷でも無かった。

 考える間もなく矢部は船から水中へ飛び出すと、沈んでいく少年を抱き上げて海斗達の前に降り立ったのだった。
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