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第十七章

古淵の予感

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 《はくげい》が異変を察知したのは、ちょうどカルルがニャガン基地から連れ去られた時の事だった。

 救難信号を受けて、古淵と矢部を基地に送り込んだのだが、その時には基地はすでにもぬけから

「データはすべて消されている。メモリーカードも徹底的に。カルル・エステスさんが連れ去られる前にやったのでしょうね。さすがと言いたいですが、これでは我々にもここで起きた事が分からないですね」

 コンピューターを調べていた古淵がそう言った時……

「いや分かるよ」

 矢部の方を見ると、天井の当たりで何かを調べていた。

「矢部さん。何かありましたか?」
「監視カメラだよ」
「監視カメラのデータもメインコンピューターに送られているので、一緒に消されていますよ」
「いや。こいつの内部メモリーに、直近二十四時間分の映像と音声のデータが残っている。カルルもこれを消すのは忘れたようだ」
「なるほど」
「カルルも、完璧な仕事しているように見えて、どこかで抜けているところがあるからね。だから、隊長からうっかりカルルと呼ばれているんだよ」
「しかし、矢部さんはよく気がつきましたね」
「なあに、女の子の部屋に隠しカメラ仕掛けるのが俺の趣味なのでね」
「……リトル東京に戻ったら、矢部さんは尋問の必要がありそうですね」
 
 古淵がつぶやくように言ったセリフは、矢部の耳には届かなかった。

 こうして二人が回収した監視カメラによって、基地内で起きていたことが《はくげい》に伝わったのである。
 
 カルルが連れ去られたのは、川の中州に建てられた小要塞である事が分かったのも程なくしての事。

 それは上空を通っていた監視衛星によって判明した。

 さっそく《はくげい》からは、カルル・エステス救出のために、矢部と古淵が地上走行ドローンを入れたコンテナを持って飛び立った。

 二人を援護するため、六機の航空ドローンも出撃したのだが……

「イヤな予感がしますね」

 夜の海面上空を飛ぶ古淵がそう言ったのは、ニャガンの灯りが見えてきた時の事。

「イヤな予感? すでにカルル・エステスはブレインレターをかけられてしまったとか?」
「いえ、矢部さん。それは最初から憂慮ゆうりょしていました。そうではなく、敵も衛星から見られていることは分かっているはずです。それなのになんの偽装カモフラージュもしないで要塞内に入っていきました」
「つまり、陽動って事?」
「ええ」
「だとすると、要塞に強力な防空システムがありそうだね」

 先行していたドローン一機が、要塞上空に到達したのはその時。

「攻撃してこないね」
「でしょうね。ドローン一機程度で攻撃して、手の内を晒す気はないという事でしょう」

 そうしている間に、ドローンから情報が送られてくる。

 中州の城塞は、高い塀に囲まれた中にある。石造り三階建てで、東西二十メートル、南北百メートル。

 赤外線観測の結果、兵士の数は推定五十。

 外で警戒している兵士は、自動小銃やロケット砲で武装していた。

 要塞各所に対空砲らしき物体も確認できる。

「やはり、今までの帝国軍のように、フリントロック銃というわけではないようだね」
「当然です。プリンターが使えるようになった以上、敵も近代装備を持っていますよ」
「こんなところへ強襲をかけたら、返り討ちに逢うだけだ。でも、君だっていきなり要塞に強襲をかける気はないだろ? もしそういう作戦なら、俺は下ろさせてもらうが」
「もちろん、そんな事はしません。作戦は打ち合わせ通り、航空ドローンのみで攻撃を仕掛け、敵の注意を引きつけている間に、地上走行ドローンを要塞内へ送り込むというものです。ただ……」
「ただ?」
「敵は何か、我々の思いもよらない方法で攻撃を仕掛けてくる。そんな気がするのですよ」
「考えすぎだよ」

 矢部がまさにそう言った時、最初の航空ドローンが落とされた。  
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