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第十七章

敵はどこから?

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 落とされたのは、要塞上空にいたドローンではなかった。

 それは今も、情報を送り続けている。

 落とされたのは、後方に配置していた一機。

 航空ドローン六機の内五機は二人よりも前方に配置、一機だけが二人の後方を警戒していたのだ。

 落とされる前のドローンから送られてきたレーダーのデータを見ると、何も無い海上に突然数十機のドローンが現れて急接近してきた様子が分かる。

 その中の一機が、こちらのドローンに体当たりしてきたらしい。

「いったい、敵はどこから?」
「古淵君。ここへくる途中の海上に船がいたけど、そこから飛び立ったのではないかい?」
「いや、それにしては数が多過ぎませんか?」

 レーダーが捉えたドローンの数は、三十機を越えていた。

 暗視装置による映像を拡大したところ、ドローンはすべて自爆ドローンS131。

「古淵君、作戦はどうするの?」
「矢部さん。あのドローン群の中を突っ切って《はくげい》へ戻れる自信はありますか?」
「あんましないかな」
「そうなると、これしかありませんね」

 古淵は要塞の方を指さした。

「まさか、突っ込むのか? 無茶だよ」
「突っ込むように見せかけるだけです。途中で高度を落として、地上走行ドローンを解き放った後、我々は地上すれすれを飛んでドローン群をやり過ごします」
「なるほど。それなら問題ないな」

 二人は、要塞に向かって加速した。

 要塞の対空機関砲が火を噴いたのはその時。

 上空にいたドローンが落とされる。

 古淵は、残りのドローンに後退命令を出したが、逃げる前にドローン一機がミサイルの餌食となった。

「奴ら、スティンガーミサイルまで持っていたのか」
「矢部さん。高度を下げましょう」
「え? もう下げるの?」
「このままだと、我々もミサイルの餌食になります」

 ニャガンの建物は、石造りの四~五階建てが多い。

 二人は、それよりも高度を下げて飛び続けた。

 これで要塞からの攻撃は防げる。

 しかし、夜間とは言え通行人の目を引いた。

「古淵君、どこまで行くんだ? 要塞から五百メートル以内でドローンを放てば、要塞には到達できるのだろう?」
「五百メートルはぎりぎりの距離です。確実を期すためにもっと近づきます」
「あんまり欲張らない方がいいと思うのだけどなあ」

 やがて二人は、人気の無い路地へと入り込んだ。

 そこにコンテナを降ろしてから、古淵は路地の先へ歩いていく。

 そこに、高さ二メートルほどの壁があった。

 その壁は実は堤防で、その向こうでは川が流れている。

 古淵は堤防にワイヤーガンを撃ち込み、その上に登った。

 川を挟んで三十メートル先の中州に、要塞の城壁が聳え立っている。

「これはいい。ここからドローンを放ちましょう」
「ここまで近づかなくても……」

 ブツクサ言いながら、矢部はコンテナのテンキーに暗証番号を打ち込んだ。

 コンテナの蓋がゆっくりと開いていく。

 蓋が開き切ったところで、矢部は次のコードを打ち込んだ。

 コンテナに収納されていた地上走行ドローンが、蛇の様に蠢きながらぞろぞろと出てくる。

 その数三十機。

 この機体は光学迷彩機能がある他、水中も進める水陸両用ドローン。

 ドローン群は堤防をよじ登って、堤防上に集結した。
 
「光学迷彩作動」

 古淵の命令で、ドローンはすべて姿を隠す。

「全機出撃せよ」

 姿は見えないが、川面に現れた波紋によってドローンが水中に入って行くのが分かった。

 古淵は空中に浮かび、水中にいるドローンが視認できないか確認する。

 水中には何も見えない。光学迷彩は完璧に機能しているようだ。

「矢部さん。成功しました。引き上げましょう」

 古淵がそう言った時だった。

「古淵君! 危ない!」

「え?」

 声の方へ視線を向けると、矢部が肉薄している。

「矢部さん。何を?」

 矢部は質問に答えることなく、古淵の傍らを猛スピードで通り過ぎて行った。

 矢部が向かう先にあるのは、一機のS131。

 古淵の背後から接近していたS131を、矢部は蹴り飛ばす。

 直後に周囲は爆炎に包まれた。
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