霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)

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通りすがりの巫女

能力者

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 その家は、街道沿いに面したごく普通の木造二階建ての一軒家だった。
 築四~五十年ぐらい経過していそうな建物だが、特に傷んでいる様子はなく大きな問題はないみたいだ。

 家の中から、ゴン! ゴン! という音が聞こえてくる以外は……

「まだ、現象は治まっていないみたいね」

 そう言っている母さんの背後に、樒のバイクが停止する。

「あなた達、霊の気配は感じる?」

 樒もミクさんも、母さんの問いかけに無言で首を横にふる。
 僕も霊の気配を感じていなかった。しかし、件の家からは相変わらず、大きな音が聞こえてきている。
 現象はまだ収まっていない。

「母さん。やはり心霊現象じゃないのでは?」
「まだ、家の中に入って霊視してみないと」

 その時、母さんのスマホから呼び出し音が鳴った。

「もしもし。あら、芙蓉ちゃん。現象はまだ治まっていないわ。え? 分かったわ」

 母さんは電話を切ると、ミクさんの耳元に何か囁いた。

「分かりました」

 ミクさんは車の中に戻っていく。

「綾小路さんには車の中から、式神で周囲を探ってもらうわ。それじゃあ、優樹、樒ちゃん。行くわよ」

 母さんに先導されて僕達は家に入って行った。

 出迎えてくれたのは老夫婦。突然襲ってきた怪奇現象にすっかりおびえ切っていた。

「現象が起きているのは、東側の居間だけなのですが……」

 居間以外の部屋では、現象は起きていない。なので現象が始まってから一週間、この夫婦は居間を閉鎖して他の部屋で過ごしていた。

 協会から霊能者が派遣されてきた時だけ居間に入ったのだが、扉を開くと酷い惨状だと言う。

「念のためにも他の部屋も見ますので、居間にはこの二人を連れて行って下さい」

 母さんはそう言って、爺さんと二階へ向かった。
 僕と樒は、婆さんに案内されて居間に向かう。

「中は割れたガラスが散らばっているので、スリッパをお履き下さい」

 お婆さんが用意してくれたスリッパを履いて僕達は居間に入った。
 
 これは!?

 異様な現象が目の前で起きていた。

「一日に何度か、こんな事が起きているのです。今日は落ち着いていたのですが、一時間ほど前に突然始まりました」

 婆さん話だと、現象が始まったのは僕がオフ会の会場でエラに対戦を仕掛けた頃のようだ。

 それにして酷いな。

 部屋の中では、空中を物が飛び交っていた。

 花瓶が、スプーンが、フォークが、灰皿が……

 それらが一斉に壁にぶつかると、そのまま壁に張り付いてしまった。

 しばらく、壁に張り付いていた物体は再び飛んで、反対側の壁にぶつかって張り付く。

 壁には物がぶつかった痕が無数にできていた。

 しかし、騒霊ポルターガイスト現象にしては何かおかしい。

 ここで飛び交っている物体は一方の壁にぶつかってしばらく張り付いていては、今度は反対側の壁に飛んでいくという事を繰り返している。

 それに、悪霊の姿がまったく見えない。

 以前に騒霊ポルターガイスト現象の現場に直接行って見たことがある。飛び交う物体を操っている霊の姿を……

 一般人が見ると何もない空中を物体が浮かんでいるように見える騒霊ポルターガイスト現象も、霊能者の目には浮かんでいる物体を支えている霊の姿が見えているものだ。

 しかし、ここでは何も見えない。

「樒。霊の姿見える?」
 
 樒は首を横ふった。

 不意に樒は髪を止めていたヘアピンを外して放り投げた。

「樒。何のつもりだ?」
「まあ、見ていて」

 ヘアピンは床には落ちないで飛び交う物体と一緒に動き出した。

「優樹。小銭入れある?」
「え? あるけど」
「ちょっと貸して」

 樒は僕から受け取った小銭入れから、一円玉を飛び交っている物体の中に放り投げた。
 一円玉は何事もなく床に落ちる。
 続いて五百円玉を放り投げた。
 五百円玉も床に落ちる。

「樒。さっきのヘアピンは何でできているの?」
「鉄製よ」

 アルミニウムの一円玉と銅・亜鉛・ニッケル合金の五百円玉は何ともなくて、鉄製のヘアピンが現象に巻き込まれた。という事は……

「まさか!」

 僕はポケットからコンパスを取り出した。
 コンパスの磁針は、出鱈目な動きをしている。

「優樹も分かったのね。誰かが磁石で悪戯しているのよ。これは、心霊現象じゃないわ」
「壁に電磁石でも埋め込んであるのかな?」
「さあ?」
 
 その時、突然白い物が壁を抜けてきた。
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