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さらわれたミル
*〈ネフェリット〉*〈ショコラ〉2
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「なんや? そのヌイグルミ」
「ヌイグルミとは失敬な! 僕は知的生命体だぞ!! それも、君達地球人にとっては、教師とも言うべきアヌンナキ族だ」
ヌイグルミ呼ばわりされたのが、よっぽど気にいらなかったのか、モルは高飛車に出た。
「ショコラ。なんやそいつ?」
「あのねえ……」
あたしは、経緯をたっぷり十分かけて説明した。
「つまり、これがアヌンナキだって?」
タルトは、モルを指先でツンと突っついた。
「失礼な奴だな!! 君は」
「あ! ごめん」
タルトは慌てて指をひっ込めた。
「なんで、うちらに紹介せんかったんや?」
「じゃあ仮に、あたしがこの子をテーブルの上に置いて『アヌンナキのモル君でぇーす』と言ってみなさい。二人とも、どういうリアクションする?」
「そりゃあ、やっぱり……」
タルトとミルは少し考えてから言った。
「ショコラの額に手を当てて熱を計る」
「とりあえず爆笑する」
「だからあたしも、どうやって紹介するか悩んでたのよ」
まあ、これで紹介の手間が省けたからよしとするか。
「紹介が済んだところで、説明してもらえるかい?」
タルトが言った。
「何を?」
「ワープ機関のせいで時間がおかしくなったって僕が言った時、君が違うって言ったね」
「ああ、その事か。それは簡単だよ。まず、ワープ機関は時間の流れを加速したりはしない。そういう機能なんてないからね」
「そうなの?」
「そうだよ。ワープ航法は、時間圧縮航法とはまるっきり違うんだ。確かに空間を歪曲することにより、時間の流れに多少の影響は出るが、それでもここまでは大きな狂いはない。また、仮にこれが時間圧縮フィールドだとすると、ドップラー効果があるはずだ。ところがこの写真を見る限りそんな様子はない。あるいは写真を撮った時点で、フィールドが解除されていた可能性もある。しかし、それにしてもこの場所でフィールドを発生させるのはあまりにも危険すぎる。下手をすると軌道リングそのものが崩壊しかねない」
「どうして?」
「軌道リングを支えているのは、人工大地の下にある液体金属が流れているパイプだ。この液体金属が、互い違いの方向に高速回転する事によって遠心力を生み出しているわけだけど、このパイプに時間圧縮フィールドがかかったらどうなる?」
「なるほど」
タルトは納得したがあたしには分からない。
「どうなるの?」
あたしはタルトに質問した。
「つまりだな。軌道リングの人工大地には、常に木星の重力がかかっているわけだ。だから、それを丁度打ち消すだけの遠心力を、人工大地全体に掛けている。その力は強すぎても弱すぎてもいけない。また、力にばらつきがあってもいけない。常に一定一様でなければ、人工大地が歪むか、下手をすると崩壊する。もし、液体金属を流しているパイプの一部が、時間圧縮フィールドに包まれると、その部分に流れ込む液体金属の量にばらつきが生じる。その結果、その部分が陥没したり隆起したりするわけだ」
「森の中心に岩山があるけど、隆起してできたんじゃない?」
「いや、あの岩山は最初からあったんだ。もともと、軌道リングには地形に起伏を持たせるために、ああいう岩山がかなりあるんだよ」
「というより、衛星〈イオ〉のかけらを砕いて土にするより、岩のまま人工大地の上に定着させた方が、安く上がるっちゅうこっちゃな」
ミルが付け加えた。
「それに、あの船にはワープ機関はあったけど、時間圧縮フィールドジュネレーターは装備してなかった」
「そうか………え!? ……おい……あの船って……」
タルトがテーブル越しにモルににじり寄った。
「『オフィーリアの船』の事か?」
「そうだよ。君達がそう呼んでいる船の事さ。正式な名前は〈ト・ポロ〉という」
「お前! なんでそんな事、分かるんだ!?」
「だって、僕はあの船に乗ってたんだから」
「なんやて!」「なんだって!」
その説明は、さっきあたしも聞いた。〈ト・ポロ〉はアヌンナキと交易のある異星人の建造した船だという。
だからカプセルの文字が、あたしに読めなかったのだ。
アヌンナキですら使いこなせなかったワープ機関の技術を学ぶため、モルは彼等の星に留学していたのだ。
留学を終えたモルは、政府の買い取った船〈ト・ポロ〉を操縦して、意気揚々と五連星世界への帰途についた。
事故が起きたのは、五連星世界を守っている力場障壁を越えようとした時だった。
ワープアウトの地点をほんの少し間違えたために、船はシールドに激突したのである。その後、モルは脱出ポットで船から逃れ、あの彗星でずっと救援を待っていた。
船の方は、数千年間漂い続け、やがて天王星の小さな衛星に漂着したらしい。
「つまり……」タルトが、ジト目をモルに向けた。「お前のドジで船が遭難したと」
ああ! タルトって容赦ない。あたしが思っても言わなかった事を、ズバリと……
「う……ち……違う! 僕が悪いんじゃない! あの事故は僕のせいじゃない。僕だって最初はシールドから、十分離れた位置にワープアウトのするように設定したんだ。ところが、いっしょに乗り合わせた貴族達が、『それでは遅い。シールドギリギリの地点にワープアウトしろ』なんて言い出したんだ」
「それで変更したの?」
「そんな事するもんか!! あいつら、僕が寝てる間に、勝手に装置をいじくったんだ。気が付いた時には手遅れさ」
「ふうん」
タルトはまだ、疑わしそうな目をしていたが、話がそれると思ったのか、それ以上突っ込むのはやめた。
「とにかく、時間の流れがおかしくなったわけじゃないのは分かったけど……」
タルトは森が映っているディスプレーに目を向けた。
「それじゃあ、この森は、この事と関係ないのかな?」
「それは分からない。だけど、君の言った通り、CFCの船がある位置に、こんな怪しげな森があるというのが、ただの偶然とは思えない」
「じゃあ、どう関係があるんだ?」
「データ不足」
「なぜ、潔く分からんと言わん」
「じゃあ君なら分かるのかい?」
「地球人にとっての教師に分からん事が、地球人に分かる分けないだろう」
「いばるな!」
な……なんか、この二人って、相性悪そう。
あたしはどっちに味方すればいいんだろう。
「まあ、何にせよ。現地に行って見れば分かるっちゅうこっちゃ」
ミルはコントローラーを操作して、地図を消した。
ディスプレーはニュース番組に戻る。
『……地球を訪問中の、第二太陽系のレイピア王女一行は、迎賓館にて……』
「あれ? 〈エル・ドラド〉のお姫様なんて、いつの間に来てたの?」
ハーブ茶を入れながら、タルトは言った。
「あたしに聞かれても……あたしだって、冷凍睡眠してたから、その間の情報には疎いし……タルト。お姫様に興味でもあるの?」
「まっさか! たださ、今時、王族なんて時代錯誤なもんがいるって事態が意外だから」
まあ、普段のあたし達の認識では、王族なんてのは、ファンタジーの世界にのみ生息する生き物なのよね。もちろん、現実に王族と称する人達はいるが、それは王族と名があるだけで、実際には権力などない単なる生ける文化財だ。ただし、それは地球人の常識であって〈エル・ドラド〉では、今でも王家が実権を持っている。まあ近々、立憲君主制に移行するって話だけど……
あたしは、タルトの入れてくれたハーブ茶を口に含んだ。目を戻すと、レイピア王女のアップがディスプレー一杯に映っている。
「ブビュー!」
思わずあたしが吹き出したハーブ茶は放物線を描き、ミルの顔を直撃する軌道に乗った。ミルは寸前で躱したけど、その代わり背後にいたパイが被害を被る。
「フギャー!」
パイは慌てて部屋から逃げ出した。
「なんやねん! バッチイ子やな」
ミルの抗議を無視して、あたしはタルトの方を向いた。
「タ……タルト。あれ見て」
あ! ヤバ。タルトも口にお茶を含んでいた。
「ブッ!!」
タルトの吹き出したお茶はそのまま、モルを直撃する。かわいそう。
「うわあ! きたない!!」
「なんやねん! あんたら、行儀悪いで!!」
ミルもかなり頭にきたみたい。
「ミ……ミル……」「あ……あの人……」
あたし達は、ディスプレーのレイピア王女を指差した。
「ん?」ミルは、怪訝な顔で、ディスプレーを振り返った。「レイちゃんが、どないしてん?」
レ……レイちゃんて……あんた、仮にも王族を捕まえて……と、そんな事より……
「あの女よ!」
「〈シャングリラ〉のショッピングセンターで、僕らを襲った奴ですよ」
「レイピア王女が?」
ミルは首をかしげた。
「顔が似てるだけかもしれないけど……本当にクリソツよ。あの時の女と。ねえタルト」「ああ、間違えない。僕は一度見た人の顔は、まず忘れないからね」
「なるほど、レイピア王女ならありうるな」
「え?」
ミルの反応には、あたしの方が驚いた。てっきり『そんなアホな』とか『あんたらの見間違いやないか』とかいうと思っていたのに。
「ネメシス事件があった時、〈エル・ドラド〉から大量の宝物が、CFCによって持ち出された事を知っとるか?」
「うん。知ってる」
持ち出されたと言うより、略奪されたと言った方が正解ね。
事件の後で〈エル・ドラド〉からは宝物の返還要求が出て、地球連邦では今でも、連邦内に眠るお宝を捜し出しては、〈エル・ドラド〉に返している。
それでも全体の七割は、まだ行方不明のまま。
ほとんどはマリネリス連邦に流れたらしい。
「その一方で〈エル・ドラド〉の王室でも、独自に宝物の捜索をやっとる。その捜索活動を取り仕切っているのがレイピア王女や」
「じゃ……じゃあ、〈天使の像〉って元々〈エル・ドラド〉王室の物?」
「それは分からんが、レイピア王女が狙っていたという事はそういう事やろう。それにそうだとしたら、鬼頭のじじいが警察には通報せんと、配下の海賊を使って、うちらをしつこく追って来た分けも頷ける。あのじじい、CFCの関係者やな。〈天使の像〉がうちらの手にある間はまだしも、もしあれが公安の手に墜ちたりしたら、自分の素性がばれてまう。そうなったら、〈エル・ドラド〉政府に引き渡されて、一生刑務所行きやな」
「CFCの残党狩りって、まだ続いているの? もう、あれから半世紀も経つのに」
「ナチスの残党狩りかて、半世紀近く続いたで」
「ふうん」
ディスプレーの映像が突然切り替わり、コックピットにいるモンブランの映像が現れた。『姉御。出港準備終わりましたぜ』
「すまへんなあ。一人でやらしてもうて」
『とんでもない。それより、次の行き先は決まりましたか?』
「ほな、木星に向かってんか」
『アイアイサー』
ディスプレーはニュースに切り替わった。
「木星に行けば、分かるのかな? 親父の目的」
「大丈夫。行けば、なんとかなるって」
なんとまあ、アバウトな。
「ヌイグルミとは失敬な! 僕は知的生命体だぞ!! それも、君達地球人にとっては、教師とも言うべきアヌンナキ族だ」
ヌイグルミ呼ばわりされたのが、よっぽど気にいらなかったのか、モルは高飛車に出た。
「ショコラ。なんやそいつ?」
「あのねえ……」
あたしは、経緯をたっぷり十分かけて説明した。
「つまり、これがアヌンナキだって?」
タルトは、モルを指先でツンと突っついた。
「失礼な奴だな!! 君は」
「あ! ごめん」
タルトは慌てて指をひっ込めた。
「なんで、うちらに紹介せんかったんや?」
「じゃあ仮に、あたしがこの子をテーブルの上に置いて『アヌンナキのモル君でぇーす』と言ってみなさい。二人とも、どういうリアクションする?」
「そりゃあ、やっぱり……」
タルトとミルは少し考えてから言った。
「ショコラの額に手を当てて熱を計る」
「とりあえず爆笑する」
「だからあたしも、どうやって紹介するか悩んでたのよ」
まあ、これで紹介の手間が省けたからよしとするか。
「紹介が済んだところで、説明してもらえるかい?」
タルトが言った。
「何を?」
「ワープ機関のせいで時間がおかしくなったって僕が言った時、君が違うって言ったね」
「ああ、その事か。それは簡単だよ。まず、ワープ機関は時間の流れを加速したりはしない。そういう機能なんてないからね」
「そうなの?」
「そうだよ。ワープ航法は、時間圧縮航法とはまるっきり違うんだ。確かに空間を歪曲することにより、時間の流れに多少の影響は出るが、それでもここまでは大きな狂いはない。また、仮にこれが時間圧縮フィールドだとすると、ドップラー効果があるはずだ。ところがこの写真を見る限りそんな様子はない。あるいは写真を撮った時点で、フィールドが解除されていた可能性もある。しかし、それにしてもこの場所でフィールドを発生させるのはあまりにも危険すぎる。下手をすると軌道リングそのものが崩壊しかねない」
「どうして?」
「軌道リングを支えているのは、人工大地の下にある液体金属が流れているパイプだ。この液体金属が、互い違いの方向に高速回転する事によって遠心力を生み出しているわけだけど、このパイプに時間圧縮フィールドがかかったらどうなる?」
「なるほど」
タルトは納得したがあたしには分からない。
「どうなるの?」
あたしはタルトに質問した。
「つまりだな。軌道リングの人工大地には、常に木星の重力がかかっているわけだ。だから、それを丁度打ち消すだけの遠心力を、人工大地全体に掛けている。その力は強すぎても弱すぎてもいけない。また、力にばらつきがあってもいけない。常に一定一様でなければ、人工大地が歪むか、下手をすると崩壊する。もし、液体金属を流しているパイプの一部が、時間圧縮フィールドに包まれると、その部分に流れ込む液体金属の量にばらつきが生じる。その結果、その部分が陥没したり隆起したりするわけだ」
「森の中心に岩山があるけど、隆起してできたんじゃない?」
「いや、あの岩山は最初からあったんだ。もともと、軌道リングには地形に起伏を持たせるために、ああいう岩山がかなりあるんだよ」
「というより、衛星〈イオ〉のかけらを砕いて土にするより、岩のまま人工大地の上に定着させた方が、安く上がるっちゅうこっちゃな」
ミルが付け加えた。
「それに、あの船にはワープ機関はあったけど、時間圧縮フィールドジュネレーターは装備してなかった」
「そうか………え!? ……おい……あの船って……」
タルトがテーブル越しにモルににじり寄った。
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「そうだよ。君達がそう呼んでいる船の事さ。正式な名前は〈ト・ポロ〉という」
「お前! なんでそんな事、分かるんだ!?」
「だって、僕はあの船に乗ってたんだから」
「なんやて!」「なんだって!」
その説明は、さっきあたしも聞いた。〈ト・ポロ〉はアヌンナキと交易のある異星人の建造した船だという。
だからカプセルの文字が、あたしに読めなかったのだ。
アヌンナキですら使いこなせなかったワープ機関の技術を学ぶため、モルは彼等の星に留学していたのだ。
留学を終えたモルは、政府の買い取った船〈ト・ポロ〉を操縦して、意気揚々と五連星世界への帰途についた。
事故が起きたのは、五連星世界を守っている力場障壁を越えようとした時だった。
ワープアウトの地点をほんの少し間違えたために、船はシールドに激突したのである。その後、モルは脱出ポットで船から逃れ、あの彗星でずっと救援を待っていた。
船の方は、数千年間漂い続け、やがて天王星の小さな衛星に漂着したらしい。
「つまり……」タルトが、ジト目をモルに向けた。「お前のドジで船が遭難したと」
ああ! タルトって容赦ない。あたしが思っても言わなかった事を、ズバリと……
「う……ち……違う! 僕が悪いんじゃない! あの事故は僕のせいじゃない。僕だって最初はシールドから、十分離れた位置にワープアウトのするように設定したんだ。ところが、いっしょに乗り合わせた貴族達が、『それでは遅い。シールドギリギリの地点にワープアウトしろ』なんて言い出したんだ」
「それで変更したの?」
「そんな事するもんか!! あいつら、僕が寝てる間に、勝手に装置をいじくったんだ。気が付いた時には手遅れさ」
「ふうん」
タルトはまだ、疑わしそうな目をしていたが、話がそれると思ったのか、それ以上突っ込むのはやめた。
「とにかく、時間の流れがおかしくなったわけじゃないのは分かったけど……」
タルトは森が映っているディスプレーに目を向けた。
「それじゃあ、この森は、この事と関係ないのかな?」
「それは分からない。だけど、君の言った通り、CFCの船がある位置に、こんな怪しげな森があるというのが、ただの偶然とは思えない」
「じゃあ、どう関係があるんだ?」
「データ不足」
「なぜ、潔く分からんと言わん」
「じゃあ君なら分かるのかい?」
「地球人にとっての教師に分からん事が、地球人に分かる分けないだろう」
「いばるな!」
な……なんか、この二人って、相性悪そう。
あたしはどっちに味方すればいいんだろう。
「まあ、何にせよ。現地に行って見れば分かるっちゅうこっちゃ」
ミルはコントローラーを操作して、地図を消した。
ディスプレーはニュース番組に戻る。
『……地球を訪問中の、第二太陽系のレイピア王女一行は、迎賓館にて……』
「あれ? 〈エル・ドラド〉のお姫様なんて、いつの間に来てたの?」
ハーブ茶を入れながら、タルトは言った。
「あたしに聞かれても……あたしだって、冷凍睡眠してたから、その間の情報には疎いし……タルト。お姫様に興味でもあるの?」
「まっさか! たださ、今時、王族なんて時代錯誤なもんがいるって事態が意外だから」
まあ、普段のあたし達の認識では、王族なんてのは、ファンタジーの世界にのみ生息する生き物なのよね。もちろん、現実に王族と称する人達はいるが、それは王族と名があるだけで、実際には権力などない単なる生ける文化財だ。ただし、それは地球人の常識であって〈エル・ドラド〉では、今でも王家が実権を持っている。まあ近々、立憲君主制に移行するって話だけど……
あたしは、タルトの入れてくれたハーブ茶を口に含んだ。目を戻すと、レイピア王女のアップがディスプレー一杯に映っている。
「ブビュー!」
思わずあたしが吹き出したハーブ茶は放物線を描き、ミルの顔を直撃する軌道に乗った。ミルは寸前で躱したけど、その代わり背後にいたパイが被害を被る。
「フギャー!」
パイは慌てて部屋から逃げ出した。
「なんやねん! バッチイ子やな」
ミルの抗議を無視して、あたしはタルトの方を向いた。
「タ……タルト。あれ見て」
あ! ヤバ。タルトも口にお茶を含んでいた。
「ブッ!!」
タルトの吹き出したお茶はそのまま、モルを直撃する。かわいそう。
「うわあ! きたない!!」
「なんやねん! あんたら、行儀悪いで!!」
ミルもかなり頭にきたみたい。
「ミ……ミル……」「あ……あの人……」
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「〈シャングリラ〉のショッピングセンターで、僕らを襲った奴ですよ」
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「なるほど、レイピア王女ならありうるな」
「え?」
ミルの反応には、あたしの方が驚いた。てっきり『そんなアホな』とか『あんたらの見間違いやないか』とかいうと思っていたのに。
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「うん。知ってる」
持ち出されたと言うより、略奪されたと言った方が正解ね。
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それでも全体の七割は、まだ行方不明のまま。
ほとんどはマリネリス連邦に流れたらしい。
「その一方で〈エル・ドラド〉の王室でも、独自に宝物の捜索をやっとる。その捜索活動を取り仕切っているのがレイピア王女や」
「じゃ……じゃあ、〈天使の像〉って元々〈エル・ドラド〉王室の物?」
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「ナチスの残党狩りかて、半世紀近く続いたで」
「ふうん」
ディスプレーの映像が突然切り替わり、コックピットにいるモンブランの映像が現れた。『姉御。出港準備終わりましたぜ』
「すまへんなあ。一人でやらしてもうて」
『とんでもない。それより、次の行き先は決まりましたか?』
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