滅霊の空を想う

ゆずぽん

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あの日

喪失、そして

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 通夜が終わり、僕は会場の外に出た。
 全く星が見えない。
 空を見上げると、雨が頬を伝う。
 暖かい雨が。


 病院に辿りついた後、実はほとんど覚えていない。
 空が学校を早退し病院に着いた時、僕は亮が横たわるベッドの横で、目を見開きただただ涙を流していたそうだ。
 空はベッドに駆け寄り、名前を何度も叫びながら大声で泣いていたそうだ。
 綺麗な顔をぐしゃぐしゃにしながら亮に縋り付いて。
 そして空も、亮の母親に随分と責められたようだ。
 やり場のない悲しみをどうすれば良いか分からなかったのだろう。
 悔しくて悲しくて仕方なかったのだと思う。
 多分僕も同じ事をするだろう。
 誰かのせいに出来れば、どんなに楽なことか。
 その後、どうやって帰ったのかわからない。玄関を開け、リビングを横切ると母さんが泣いていた。
 昔から自分の子供のように接して来たから、喪失感は相当だろう。
 滅多に涙を見せない母親が目を真っ赤に晴らしている。
 声を出さないよう肩を震わせうなだれている。
 親の泣いている姿がこれほどまでに心に刺さるなんて、出来れば二度と見たくないと思った。
 僕はリビングに寄らず、真っ直ぐ自分の部屋へ向かい鍵をかけた。

 ガチャ

 その瞬間急にたかが外れたかのように涙が溢れ出し、僕は大声で泣いた。



 後でスマホを見て知った。
 空や友達からのメールが大量に来ていた。どうやら心配してくれてたらしい。
 みんなからの話をまとめると。


 亮は僕らと別れた後、コンビニに立ち寄り帰る途中だった。
 その道中、男女の争う声が聞こえ見にいくと、男が女の顔を何度も殴っていたそうだ。
 亮はとっさに駆け寄り男を殴り飛ばした。
 ぶっ飛ばされた男は、驚き暴言を吐きながら逃げていったそうだ。
 亮は女性の安否を確認しようと近寄ったところ、何とその女性に、いきなり胸を刺されたらしい。
 亮はその場に倒れた。
 抵抗する暇さえもなくオンナに馬乗りにされた。
 そして何度も何度も何度も何度も彼の体の至る所に刃を突き刺したようだ。
 苦しそうにもがいた跡があり、爪には砂や小石が入っていたらしい。
 吐血し、あたりは血の海だったそうだ。
 それを見た通行人が通報した。
 血だらけの女性は警察が来るまで、じっと意識を失うのをニヤニヤしながら眺めていたらしい。
 そして複数の警官に取り押さえられた。
 女性は意味不明な事を叫んで暴れていたらしい。
 なぜ刺したのか、理由はまだわからないらしい。



 女性のあまりの理不尽さに怒りが込み上げた。
 なぜ助けようとした相手を刺すのんだ!なぜあんないい奴をッ!

 ドンッ

 僕は壁を思いっきり殴りつけた。

 黒い感情が湧き上がる。
 女性への殺意と自分への怒りが混同して訳がわからなくなった。
 でも僕には亮の仇を打つことも出来ない。
 物に当たり叫び散らすしかできない自分の情けなさに、本当に絶望した。




 葬式が終わり、亮の両親に声をかけられ謝られた。
 あの時はどうかしていた。あなたのせいではないと、そして今まで友達でいてくれてありがとうと。
 正直僕は責めて欲しかった。
 まだ自分せいだと思っていた方が気持ちが楽だから。
 空とは一言も話せなかった。
 立てないくらい震え、声を上げて泣き崩れていた。
 写真の亮は無邪気に笑っていた。
 修学旅行の時の写真だった。そしてもうあの時には戻れないんだ。
 葬儀には本当に多くの人が来てくれた。それだけ彼は慕われていたのだろう。
 すると人混みの中に、二人組が手帳を片手に話を聞いているのを見つけた。
 直感的に刑事だと悟った僕はその二人組に向かい駆け出した。
 そして若い方の胸ぐらを掴んで叫んだ。

「あの女は!!
 何で亮を殺したんだ!

 助けたんだよあいつは!
 いい事をしたんだ‼︎
 なのになんで……なんでなんだァ‼︎」

 周りの目も気にせず一心不乱に叫んだ。
 今思えばやり場のない怒りをぶつけていただけだ。

「なんだお前は!?」

 と無理やり抑えられた僕はそれでも叫んだ。
 知りたかったんだ。
 何で亮が殺されないと行けなかったのか。
 すると壮年の男がまあまあと若い方を嗜めた。

 若い方はチッと舌打ちをし僕を離した。

「君は彼が亡くなる前に会っていた子だね?」

 男はそう言うとニコッと笑い話しかけてきた。

「あんまり捜査内容については教えられないんだが、君には知る権利があるのかもね。
 真田輝くん」

 僕の名前を知っていた。
 もう君についてはよく知ってると言わんばかりの話し方だった。

「ちょっと吉田さん! まずいっすよ?」

 焦る若い刑事には目もくれず、僕の目をじっと見ながら言った。

「まあ落ち着いて。
 まずは御冥福をお祈りします」

 そういうと彼は頭を下げた。

「あの女が彼を襲ったのは恐らく、彼女が薬物による錯乱状態だったからだと私たちは思っている。

 現に男の方も女に手を挙げていたのは、いきなり彼女が刃物を持って暴れたからだと証言してる」

 僕は唖然とした。
 頭が混乱する。

「えっ……じゃあ亮は勘違いで死んだんですか?」

 それを聞くと吉田は顎を手でジョリジョリとなぞりながら言った。

「結果的に男性を助けたんだから、彼はヒーローだよ。
 普通の人じゃそうはできないよねぇ。
 きっと正義感が強いとてもいい子だったんだなと私は思うよ」

 それを聞いて少し安心した。
 亮の死が無駄ではなかった。
 それだけで少し報われた気がした。

「だけどおかしいですよね」

 若い刑事が手帳を見ながら言った。

「何がだ新田」

 それを聞くと若い刑事は手帳をペラペラとめくり出した。

「あの女、これまで薬物を使用したことは一度もなく、犯罪歴もない。
 あの男とも結婚間近だったと。
 犯行に及ぶ理由がないんです。
 それどころか確保したあの女、最初は暴れてましたが、今は憑物が落ちたように大人しい。
 犯行時のことも覚えないと言ってるんです」

 それを聞いた吉田は、新田のネクタイを掴み引っ張りった。

「言い過ぎだ新田!
 しかも俺がまだ聞いてない情報をペラペラしゃべんじゃねぇ!」

 そういうと、ぞんざいにネクタイを離した。
 新田たは咳き込みながらネクタイをなおしていた。
 そして僕に向き直り。

「今の話はまだ取り調べ段階だ。
 確証もないし。他言無用だぞ?」

 とウィンクをしながら言った。
 おっさんのウィンクがこれほどきつい物だとは思わなかった。

「わかりました。
 お忙しいのにありがとうございました」

 僕はこれ以上聞けることは無いと思い彼らに背を向けた。
 すると「おい」と新田に呼び止められた。

「少し話を聞けるか?」

 僕はうなずいた。
 やっぱりタダじゃ帰してくれないよな。

「亮君は何故一人でコンビニに居たんだ?
 君たちの家とは逆方向じゃないのか?
 花火の後一緒に帰ったんだろう?」

 捲し立てられるように質問され困惑していると、吉田が新田を小突いた。

「おい!
 まだそんなに一度に聞いちゃ頭こんがらがるだろ!」

 どうやら気を使ってくれたらしい。
 僕は花火大会の日の出来事を二人に話した。
 そして納得したように二人は顔を見合わせて目配せをしていた。
 そしてうんうんと頷くと僕を見た。

「ありがとう。
 辛いところ悪いね!」

 そう言うと軽くお辞儀をして二人は去っていった。
 僕の気持ちは全く晴れなかった。結局、亮が死んだと言う事実は覆らないのだから。



 その後はバスで火葬場に向かった。バスの中で僕はまた少し泣いた。
 亮の顔は見れなかった。
 亮の両親に見ない方がいいと言われたから。
 空はずっと泣いていた。



 そしてみんな炉の前に集まり、亮の、親父さんが点火スイッチを押した。
 その瞬間亮の母親が泣き崩れた。

「なんで…………なんで死んじゃったのぉお!
 私が変わってあげれればぁあああ」

 親父さんも唇を噛み締めて目をギュッと瞑っていた。

「亮ッ!馬鹿野郎!
 親に見送られる息子がどこにいるッ!」

 自分の息子を燃やす、本来なら絶対あってはならないことなのだ。
 子供の死と言うのはどれほど親不孝な事か、まざまざと見せられた。
 残された彼らはきっと死ぬまで背負い続けるだろう。
 立ち昇る煙を見ながらら僕は祈った。
 もしも天国があるのであれば、きっと幸せになれるから安心して逝きなと。



 あれから空とは少し疎遠になってしまった。
 お互いの亮に対する罪悪感が少なからずあったのだろう。
 何もかもが変わってしまい。
 ずっと続くと思っていた僕らの関係が、あっさりと終わりを告げた。
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