滅霊の空を想う

ゆずぽん

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無責任の答え

遊戯

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「空、どうしたの?
 久しぶりだよね、家きたの」

 清志に振り回された空はフラフラしていたが、僕の言葉を聞いて意識を取り戻したようだった。

「あ、そだ。
 これ、この間のお土産のお礼なんだけど……お邪魔だったかな?」

 空はまた周りを見渡して申し訳なさそうな顔をした。

「そんな事無いわよ~。
 私ずっと会いたいと思ってたのぉ~。
 アキちゃんからしつこいほど話聞いてるわよぉ~?」

「お、おい! 余計なことを……」

「本当にそれだけですかね?
 私にはそれはついでに見えるんですけどーっ」

 咲ちゃんは不機嫌そうに言った。言葉にとげがあるな。やっぱ会わせるべきでは無かったか?

「ご、ごめんね。
 友達と一緒な所邪魔して……私、帰るね?」

 空はそそくさと帰ろうとしたが、清志に手を掴まれ止まった。

「いいのよ気にしないで!
 そうだ! 私たちと今から遊びましょ?」

「え、でも……迷惑じゃ……」

 空は咲ちゃんをチラッと見て言った。どうやら彼女の態度が気になるみたいだ。

「いいのいいのっ!
 さっ入った入った!」

 空は半ば無理やり部屋に引き摺り込まれた。

「悪いな空、覚悟決めろよ?」

「ううん。あっくんの友達と話せて嬉しいよ?」

「そう? 良かった。ゆっくりしてけよ」

 僕は空と笑い合った。

「おほん。いちゃつかないで貰います?」

 咲ちゃんの厳しい言葉が突き刺さる。空が来てからすんごい不機嫌だ。

「ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃ……」

「あ、あの俺さっ……わたしは沢村秀樹と申します。以後お見知り置きを……」

 ヒデは片膝をついて空の手を取りキスしようとした。僕はすかさずヒデの手を払い除けた。

「てめぇ、なにしやがる!!
 俺様とこの子の運命の出会いを邪魔すんじゃねぇ」

「うるせぇよ空にさわんな!
 悪い病気にでもなったらどうしてくれんだ?」

 僕はヒデと掴み合った。

「や、やめてあっくんいいよ大丈夫だから!
 沢村さんよろしくね?
 私は天鬼空です」

「空さん……ああ、素晴らしい名前だ。
 まるでカブトムシの様に美しく気品に満ち溢れたお名前だ」

 例えがおかしいだろ……なんでここでカブトムシで例えんだよ。空の顔が引きつってるのが分かる。
 すると清志は咲ちゃんを見えない様に小突いて挨拶を促した。

「……結城咲です。
 先輩の大切な後輩ですよろしくお願いします」

 空気が一瞬で凍りついた。てか、結城って名字だったのだな……結構長く一緒にいたと思ったが知らなかった。

「あら、よろしくお願いしますね?
 私はあっくんの大切な幼馴染みです。
 あっくんがいつもお世話になっております。
 うふふふふっ」

 え……空なに言って……。
 もしかして張り合ってる?
 二人は口角が上がっているが目が笑っていない。二人は視線で火花を散らしていた。

「私は先輩と学校やバイトでずっと一緒だったんです。
 それに下着も選んでくれるような仲なんですよ?
 ただ一緒に育ったぐらいで果たして絆は生まれるのかしら?」

「なっ!? さ、咲ちゃんなに言ってんの?」

「私はあっくんとお風呂も入ったことあるんです。つい最近会ったような方にあっくんを語って欲しくないですね」

 あれ、空ってこんな交戦的だったの!?
 すると、いきなり胸ぐらを掴まれた。

「おまえ!!
 空さんと風呂に入ったのか!!!
 ふざけんなっどんなだったか詳しく教えろっ」

 さらっと自分の欲望をさらけ出すとはとんだ変態だな!
 だがお前には絶対教えない。てか風呂入ったのは三歳ぐらいの時だ、覚えてない。

「知らねえよ!
 ちっさい頃だから覚えてないわ!」

 僕とヒデ、空と咲ちゃんで揉めに揉めているそれを見かねた清志は大きなため息をついて手をバシンと叩いた。
 僕らは大きな音に驚き固まった。

「あんたたちいい加減にしなさいよ?
 それよりもお茶にしない?
 サッキー、私たちでお菓子買ってきましょう?
 アキちゃんはお茶とか準備して」

 清志は気を遣って空と咲ちゃんを離そうとしてくれたみたいだ。本当に空気が読めるやつだ。

「いえ、私と空さんで行きます。
 空さん行こう?」

「え? あっうん……」

 空は凄く戸惑っていたが咲ちゃんは構わず空の手を引き出て行った。

「さっきまで喧嘩してたのに……なんだったんだ?」

「さぁ……流石の俺様でも分からん」

 僕とヒデは首を傾げた。するとそれを見た清志はまたため息をついた。

「アキちゃん、ヒデちゃん……あんたたちまだまだ乙女の気持ちが分かってないわね……。
 さっ、準備して二人を待つわよ?」

 清志には乙女の気持ちが分かると言うのか。まだまだ『恋花』を読み足りないようだ。
 僕とヒデは清志に引きずられるように部屋から連れ出された。



 人数分のカップと飲み物を用意して戻ってきたが、意外に早く終わってしまい僕達は時間を持て余していた。

「あー……空まだかなぁ」

「そうだアキちゃん。
 私たちの寮で流行ってるゲームしない?」

「ゲーム?なんだそれ」

「おお、あれか!?
 軍曹! それいいな!」

 僕がいた頃はそんなものなかったから最近できたのだろう。
 するとヒデは将棋のコマを取り出した。

「なんだ将棋かよ。
 いいよ、将棋得意だし」

 それを聞いた清志はニヤリと不適な笑みを浮かべた。そしてポケットに手を突っ込むとカードの束を取り出した。
 それは僕が小さい頃に流行っていたモンスターズデュエルと言うカードゲームだ。
 怪物カード、超能力カード、罠カードの三種類をうまく使い相手の命をゼロにすると勝利というシンプルながらに奥深いゲームだ。
 僕も昔はいっぱい集めていたが、いつのまにか無くなっていた。

「なんだそれ、将棋すんじゃないの?
 カードゲームならもう一個デッキいるだろ?」

「ふふふ、甘いわね。
 私たちが唯のカードゲームで満足すると思うの?ねぇヒデちゃん?」

「ああ、輝!
 炭酸抜いて温めたコーラより甘いぜ」

 そんなに甘いの!?
 口の中に粘りつくような甘さってことだろ?
 ヤバすぎるだろ……。

「てことはまさか……将棋とモンデュエで勝負するのか?
 お前ら……馬鹿なの?」

「あら、アキちゃん馬鹿にしてると痛い目みるわよ?
 結構奥深いのよ?
 最初に私とヒデちゃんがやってみるから見てらっしゃい」

 そう言うとヒデはカードを、清志は将棋の駒を持って向き合った。
 なんだこの光景……凄く間抜けだ。

「行くわよヒデちゃん。
 お互いの命は四千ずつね?」

「ああ、いつでもこいよ。
 俺様はいつでも準備万端だぜ」

 ヒデはそう言うとカードを切って右端に置き、五枚カードを引いた。

「行くわよ」

「「デュエッ!」」

 デュエってなんだ……。その掛け声必要なのか?
 取り敢えず戦いが始まったようだ。

「俺様のターン!
 ドローっ!
 俺様は『小太りリーマン』を攻撃表示で産み落としてターン終了だっ!」

「産み落としてってなんだよ?」

 しかも小太りリーマンて……すげぇ弱そう。

「このカードの設定はプレイヤーが身を削って怪物を産みだす設定なの。口からね」

「口から!?」

 ピッ○ロ大魔王かよ……。

「私のターン。
 ドローっ」

 清志は高々と積まれた将棋の山の一番上を取った。

「私は歩を攻撃表示で産み落として、香車をセットしてターン終了よ」

「ふははは……歩だと?
 軍曹、そんな雑魚怪物で俺様に挑もうとは舐められたものだな」

「ふふっヒデちゃん。
 雑魚も使い方次第では化けるのよ?」

「ふん、世迷言を……
 俺様のターン、ドローだっ!」

 ヒデは引いたカードを見てニヤッと笑った。

「ふはっ……ははははは」

「何がおかしいのかしら?」

 清志は少し眉を潜めた。

「俺様の勝ちだ軍曹。
 俺様は『小太りリーマン』に超能力カード、『健康診断』を使用する。
 このカードの効果により『小太りリーマン』は絶望、ダイエットを決意し『激痩せリーマン』に生まれ変わる。
 そしてもう一枚、『定時は終電過ぎてから』を発動!
 これにより『激痩せリーマン』は『社畜奴隷戦士』に昇格する。
 攻撃力三千のもう何も怖くない、ただただ会社に足を運ぶだけの意思のないマリオネットと化す、無敵モンスターだ。
 いけぇ!『社畜奴隷戦士』雑魚怪物を蹴散らせ!」

 社畜奴隷戦士ってなんだ?
 寧ろそれって退化してないか?

「三千ですって?」

「そうだ、しかも軍曹の怪物の攻撃力は全てゼロだ。
 まともに食らったらあっという間にお陀仏だぜ?」

「ゼロ?
 それ勝てないじゃん!?」

 僕は清志を見た。すると彼も気づいたのか余裕そうに微笑んでウインクしてきた。
 その瞬間全身を悪寒が駆け巡ったのは言うまでもない。

「私は手札にあるもう一枚の『歩』を身代わりに地獄に送り、うけるダメージを半分にするわ!
 しかも、私駒は攻撃力がない代わりに打首にされないわ!」

 打首ってなんだよ……。
 てかそんな効果があるのか……てかそれって結局なんでもありなんじゃ……と思ったがめんどくさいので言わない。

「だが、ダメージは受けてもらう」

「ああんっ!!!」

 清志は喘ぎ声を出しながら大袈裟に吹っ飛んだ。なにそれ現実にもダメージ喰らう感じなの!?

「へへへ、俺様はターン終了だ」

「……っ
 やるわね、でも私をこのターンで仕留められなかったことを後悔するわよ?」

「へん、負け惜しみを」

 ヒデは鼻高々だ。ゲームでここまでのめり込めるのは少し羨ましく思う。

「私のターン……きて、私の運命の駒……。
 ディスティニードローッ!!」

 念を込めて引けるなら誰でも勝てると思うが……。

「……おーっほっほっほ。
 来たわ来たわ!
 私は地獄の『歩』を二度殺し、手札から桂馬を産みだすわ!」

「いいのか軍曹、そんな事したらその『歩』は二度と使えないぞ?」

「ええ、分かっているわ。
 そして伏せてあった香車の効果発動!!
 相手の命を千削るわ!」

 すると清志は香車を掴み取ると、ヒデに向かってぶん投げた。

「いって!!」

 あっ普通にマジで痛いやつだ。

「小癪な真似をっ!」

「そして、場に出ている『歩』を晒し首にして『飛車』を産みだすわ!」

 晒し首!?
 どんないじめだよ歩がなにしたって言うんだ。

「はははっ、軍曹冗談はよしてくれよ。
 攻撃力たった千のゴミが俺様の『社畜奴隷戦士』に勝てるとでも?」

「まだよ!」

「なにぃ!?」

 ヒデは大袈裟に驚いて見せた。ほんと楽しそうだなこいつら。

「私の桂馬の効果発動、高飛びして相手の命を削るわ!
 いけ私の可愛い桂馬ちゃん!
 千五百のダメージよ!」

 そう言うと清志はまた桂馬を掴み上げると、大きくふりかぶりヒデに向かって投げつけた。

「……って、あいたっ!!」

 だからマジのリアクションやめろよ……。

「だ、だが俺様はまだ後千五百の命が残っているぜ。終わりだな! 確かその『飛車』は打ち首されない代わりにダイレクトアタックが禁止されているはず」

 すると清志は一度俯くと、笑いながら顔を上げ恐ろしく悪い表情を浮かべた。

「ヒデちゃん、私の最初の言葉、覚えてるかしら?」

 ヒデは清志の威圧に気圧され、表情に恐怖を滲ませた。

「ななな、何のことだよ?」

「雑魚も使い方次第では化けるの!
 私が意味もなく『飛車』を出したと思う?」

「な、なんだ?
 もうなにしたって、む、無駄だからな?」

「私がやりたかったことは『歩』を地獄に送ることよ。
 いくわよ! 私は手札からさっき引いた運命の駒、最後の『桂馬』を産みだすわ!」

「な、なんだと!?」

 そうか、清志は最初から歩を地獄に落とすことが目的だったのか!

「行くわよ!
 私の桂馬ちゃんの千五百ダメージのダイレクトアタックよ!」

 清志は桂馬を思いっきりヒデに投げつけた。

「ってぇ……あっ……う、うわああああああ」

 こいつ一瞬演技忘れたよな。

「ふふん。私の勝ちね」

 清志は腕を組み項垂れるヒデを見下ろした。
 ヒデは悔しそうに床を叩いた。

「くそっなぜ俺様は勝てないんだ」

 そりゃ将棋の方が自分で駒の効果を決めれるからな。勝てるわけないだろ。

「まっこんな感じ、どう?
 アキちゃんもやってみる?」

「いや、やめとく」

 僕は適当に返事すると、寝転がり漫画を開いた。これ以上やってると頭おかしくなりそうだったので。
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