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傷と絆
晴天
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騒がしい朝食の後、俺は一足先に正装へと着替え門の前に出ていた。
朝の澄んだ空気を肺に入れ、大きく吐き出した。
「いい日和だ」
俺はポツリと呟いた。
なぜ俺が、似合いもしない紋付袴を着ているのかと言うと。今日は次男の宗光の成人の日だからである。
天鬼家の男は十歳を迎えると同時に一人前の滅霊士として認められる為の儀式をしなければならない。その儀式を乗り越え、晴れて認められれば一人前の滅霊士となれるのだそうだ。
そして今日が、次男の宗光の十歳の誕生日なのである。
我が息子達は幼少の頃より、うたの親父に武芸の稽古を受けていた。
うたの親父は俺の息子達を跡取りにしたがっている。
それは何故か、理由は簡単だ。婿入りしたはずの俺に滅霊士としての才能が皆無だったからだ。
滅霊士は自分自身の特性に合った武器、衣を具現化し身に纏う事で戦うのだが、何度教えられても武器どころか衣も現れず、それどころか全身火だるまになるばかりだった。
うたの親父はこの現状に頭を抱えたが、息子が生まれた事で俺への期待は全て息子達へ持ってかれたのである。
なんとも悲しい現実だが、俺はこれで良かったと思っている。息子達には悪いが、堅苦しい家の掟やらに縛られないで澄んだことに内心安堵したからである。
うたの親父に鍛えられた息子達はメキメキと腕を上げ、今では長男の宗貞は、剣筋が見えないこともあるぐらい素早く刀を抜ける様にまでなっていた。
「あらあなた。
お待たせしました」
俺が物思いに耽っていると、後ろから声がし振り向くとそこには紅の着物を身に纏い刹那の手を引いたうたが立っていた。
俺は思わずあまりの美しさに息を呑んだ。
朝日に照らされ、白い肌がより一層美しくみえ、何より髪の簪がキラキラと輝きより美しさを引き立てている。
「おぉ……」
思わず見惚れていると、脛にコツンと痛みが走った。
「いっ、つぅ……」
脛をこすりながらふと足元を見るとケタケタと笑う宗光と、その隣で弟を諌める宗貞がいた。
「何ボーッとしたんだよ父上!」
「おい光!
父上になんて事を!」
「へへーん!
良いんだよ、今日の主役は俺なんだから」
そう言うと宗光は、尻を叩きながら走っていった。
「あっこらまちなさい!」
うたは手を前に出し呼び止めようとしたが、既に宗光の姿は見えなくなっていた。
「母上、俺が行きます。
先に行ってあいつを縛り上げておきます」
宗貞はそう言うと宗貞を追って走っていった。
「もう、二人とも団体行動ができないの?
はぁーっ誰に似たんだか……」
視線を感じる。
だが、敢えて俺は何も言わなかった。
多分、いや絶対俺に似たのだろう。
「まあ、いいじゃないか。
三人でゆっくり行こう」
そう言うと俺は二人に向かい微笑んだ。
「そうですね。
じゃあ行きましょうか」
そう言い彼女も微笑み返してきた。
「ちちうえー!
肩車ー!」
刹那はそう言うと、俺の返事を待たずに体をよじ登り俺の肩に飛び乗ってきた。
「うあっと……。
はははっお天馬だな刹那は」
俺は困った風に笑ったが、内心嬉しかった。刹那を肩に乗せれるのは後何年もないだろうから。
うたはそれを見て口に手を当て笑っていた。
「まあ、刹那ったら」
俺はそんなうたを見て、また心臓が高鳴るのを感じた。出会って二十年以上経つが、俺は未だに彼女に恋をしている。
歳を重ねても、年相応に美しくなっていく彼女に俺は飽きもせず少年の様に胸を高鳴らせている。
「あ、あの……なんだ……」
俺は言葉を詰まらせた。
恥ずかしさのあまり喉が閉まる。
「ん?
なんです?」
俺は大きくため息をつき、心臓の鼓動を落ち着かせた。そして今度はしっかりと彼女の目を見た。
「き、綺麗だ……ぞ?」
それを聞いた彼女は一瞬目を見開き驚いた表情をしたが、すぐに頬を赤らめ明後日の方向を向いた。
「……もう」
彼女はそう呟くと、俯いた。口元が緩んでいるのが見える。
良かった……喜んでもらえた。
そう胸を撫で下ろしていると、肩に乗せている刹那がいきなり髪を引っ張った。
「いだだっ……な、なんだ刹那」
「ちちうえ。
わたしは?」
どうやら刹那も言って欲しいらしい。
「刹那も、可愛いぞ」
そう言うと刹那は嬉しそうに笑い、俺の頭を撫でた。
「うふふ、刹那も女の子なのね」
うたもそれを見て笑った。
ああ、幸せだ。
俺には勿体ないぐらいに。
俺そう噛み締めると、三人で笑い合いながら、降りしきる桜の花を浴び天鬼本家へ向かった。
朝の澄んだ空気を肺に入れ、大きく吐き出した。
「いい日和だ」
俺はポツリと呟いた。
なぜ俺が、似合いもしない紋付袴を着ているのかと言うと。今日は次男の宗光の成人の日だからである。
天鬼家の男は十歳を迎えると同時に一人前の滅霊士として認められる為の儀式をしなければならない。その儀式を乗り越え、晴れて認められれば一人前の滅霊士となれるのだそうだ。
そして今日が、次男の宗光の十歳の誕生日なのである。
我が息子達は幼少の頃より、うたの親父に武芸の稽古を受けていた。
うたの親父は俺の息子達を跡取りにしたがっている。
それは何故か、理由は簡単だ。婿入りしたはずの俺に滅霊士としての才能が皆無だったからだ。
滅霊士は自分自身の特性に合った武器、衣を具現化し身に纏う事で戦うのだが、何度教えられても武器どころか衣も現れず、それどころか全身火だるまになるばかりだった。
うたの親父はこの現状に頭を抱えたが、息子が生まれた事で俺への期待は全て息子達へ持ってかれたのである。
なんとも悲しい現実だが、俺はこれで良かったと思っている。息子達には悪いが、堅苦しい家の掟やらに縛られないで澄んだことに内心安堵したからである。
うたの親父に鍛えられた息子達はメキメキと腕を上げ、今では長男の宗貞は、剣筋が見えないこともあるぐらい素早く刀を抜ける様にまでなっていた。
「あらあなた。
お待たせしました」
俺が物思いに耽っていると、後ろから声がし振り向くとそこには紅の着物を身に纏い刹那の手を引いたうたが立っていた。
俺は思わずあまりの美しさに息を呑んだ。
朝日に照らされ、白い肌がより一層美しくみえ、何より髪の簪がキラキラと輝きより美しさを引き立てている。
「おぉ……」
思わず見惚れていると、脛にコツンと痛みが走った。
「いっ、つぅ……」
脛をこすりながらふと足元を見るとケタケタと笑う宗光と、その隣で弟を諌める宗貞がいた。
「何ボーッとしたんだよ父上!」
「おい光!
父上になんて事を!」
「へへーん!
良いんだよ、今日の主役は俺なんだから」
そう言うと宗光は、尻を叩きながら走っていった。
「あっこらまちなさい!」
うたは手を前に出し呼び止めようとしたが、既に宗光の姿は見えなくなっていた。
「母上、俺が行きます。
先に行ってあいつを縛り上げておきます」
宗貞はそう言うと宗貞を追って走っていった。
「もう、二人とも団体行動ができないの?
はぁーっ誰に似たんだか……」
視線を感じる。
だが、敢えて俺は何も言わなかった。
多分、いや絶対俺に似たのだろう。
「まあ、いいじゃないか。
三人でゆっくり行こう」
そう言うと俺は二人に向かい微笑んだ。
「そうですね。
じゃあ行きましょうか」
そう言い彼女も微笑み返してきた。
「ちちうえー!
肩車ー!」
刹那はそう言うと、俺の返事を待たずに体をよじ登り俺の肩に飛び乗ってきた。
「うあっと……。
はははっお天馬だな刹那は」
俺は困った風に笑ったが、内心嬉しかった。刹那を肩に乗せれるのは後何年もないだろうから。
うたはそれを見て口に手を当て笑っていた。
「まあ、刹那ったら」
俺はそんなうたを見て、また心臓が高鳴るのを感じた。出会って二十年以上経つが、俺は未だに彼女に恋をしている。
歳を重ねても、年相応に美しくなっていく彼女に俺は飽きもせず少年の様に胸を高鳴らせている。
「あ、あの……なんだ……」
俺は言葉を詰まらせた。
恥ずかしさのあまり喉が閉まる。
「ん?
なんです?」
俺は大きくため息をつき、心臓の鼓動を落ち着かせた。そして今度はしっかりと彼女の目を見た。
「き、綺麗だ……ぞ?」
それを聞いた彼女は一瞬目を見開き驚いた表情をしたが、すぐに頬を赤らめ明後日の方向を向いた。
「……もう」
彼女はそう呟くと、俯いた。口元が緩んでいるのが見える。
良かった……喜んでもらえた。
そう胸を撫で下ろしていると、肩に乗せている刹那がいきなり髪を引っ張った。
「いだだっ……な、なんだ刹那」
「ちちうえ。
わたしは?」
どうやら刹那も言って欲しいらしい。
「刹那も、可愛いぞ」
そう言うと刹那は嬉しそうに笑い、俺の頭を撫でた。
「うふふ、刹那も女の子なのね」
うたもそれを見て笑った。
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俺には勿体ないぐらいに。
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