Dear my...

E.L.L

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40章

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照史から電話がかかってきた

「何よ」

2年前に別れたこの男は未だに時折連絡してきては私を振り回す

「俺さ、英司に協力することにしたわ」

「あっそ」

人の良いこの男のことだ
きっと色々板挟みになっていたのだろう
そしてもう決めたのだ

自由な照史が大好きだけど、そんな男と一緒にいるのは辛かった
悩むくせに相談もせずに1人でどんどん決めて先に進んで言ってしまう
気づいたら私だけが置いていかれているような気がした

「あいつちゃんと言ったぞ
結子ちゃんと一緒にいたいって」

本当に嬉しそうだ

「そっか」

私にとってもあの二人はどちらも可愛い後輩で大切な人だった
あんなにお互いを思い合っているのだからどうにかしたいという照史の気持ちはすごくよくわかった
同時に、お互いがなくてはならないというような二人の関係が羨ましかった
自分にとっての照史の存在と、照史にとっての自分の存在は同じなのかと思い始めたらそこに囚われて動けなくなってしまった
私から離したはずのその手を未だに忘れられないでいる

「お前のおかげだよ凛花」

「…私は何もしてないわよ」

「いや、また俺がどうしたらいいかわかんない時にさ助けてくれたじゃんか」

「別に話を聞いていただけよ」

「凛花って本当にたまに鈍いっていうかさ」

「は?!」

「ごめんごめん、何でもない
とにかくありがとうって言いたいんだよ」

名前で呼ばれただけでちょっとだけ
本当にちょっとだけ嬉しくなるのよ
別れてしばらく小笠原って呼んでいたのに、いつの間にかまた私を名前で呼んでいる
ただそれだけの事なのに
まるで子供のようなことに喜ぶ自分に呆れる
無駄と分かっていても少しでもこの男のことを吹っ切る要素を作ろうと意識して呼び方を変えている私はバカみたいだ

「高梨」

「ん?」

「どうせまた悩むんだから」

人のことを放っておけないあんただから

「何かあったら…2人のために私に何か出来るなら協力するからちゃんと言うのよ」

「ん」

じゃあね
と電話を切ろうとすると照史に止められる

「凛花!
あのさ…お礼したいから今度飯とか…あー…時間あったらさ…」

「高梨の奢りね」

「ん」

振り回されると分かっていても
この男にとっての自分という存在がどういうものか分からなくても
私は気付かないふりをする
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