魔王殺しのフリーター、覚醒し〝闇の力〟で現代ダンジョンを蹂躙す

七弦

文字の大きさ
21 / 54

20 チュートリアルはラスボスで

しおりを挟む
 新宿ダンジョンの最終階層。
 巨大な洞窟の中で二体の強敵ボスが攻略者を待ち構えていた。

 〝闇底の複眼竜、ウドゥール〟
 〝盲目の竜騎士、リガンディヌス〟

 対峙するは、格安スーツをまとった青年。弔木とむらぎだ。
「せっかく今日のために新調したのに……もうボロボロになってしまった……」
 元々新宿には、採用面接のために来た。
 しかし何の因果かダンジョン化現象に巻き込まれ、ダンジョンボスと戦うことになってしまった。スーツはダンジョン攻略に適した服装とは言い難い。

「仕方ない……さっさと終わらせるか」

 弔木とむらぎは特に戦闘の構えを取るでもなく、ポケットに手を突っ込んでいた。
 勇者時代の記憶と今の魔力量を天秤に計り、既に答えは出ていた。
 「俺の相手じゃないな」と。

 二体のボスもまた、臨戦態勢に入ってはいなかった。
 ダンジョンの上から降ってきた弔木とむらぎを、敵として認識するのが遅れている。
 もちろん敵が動くのを待つ弔木とむらぎではない。
「いよっ……と。こんな感じかな?」

 拳に暗き力が満ちる。弔木とむらぎは敢えて何の工夫もせず、拳を繰り出した。
 高密度に圧縮された魔力が解き放たれる。しかし、二体のボスは無傷のままだった。

「うーむ。さすがにワンパンは無理だったか」

 だがその代わり、洞窟の壁が消し飛んでいた。
 もしも狙いが正確だったら、二体のボスは一瞬で消滅していただろう。

「ちゃんと狙わないとな」

 今の一撃で、二体が同時に弔木とむらぎに反応する。

「よし、今度こそ」

 ――どぱっ!

 弔木とむらぎの拳から、闇の塊が放たれる。
 〝闇底の複眼竜、ウドゥール〟にはその攻撃が見えていた。
 見えていたのに、回避も迎撃もできなかった。
 弔木とむらぎの攻撃は、速く、鋭く、重かった。

 巨大な魔力の塊。
 通常のモンスターには持ち得ない、闇に染まりし力。
 嵐のように、ただ荒れ狂う暴力。
 蹂躙する邪悪。
 それが、弔木とむらぎが目覚めた力だった。

『ギギュァアアアアアアア……!!!』

 断末魔の叫びとともに闇底の複眼竜は絶命した。
 その様子を見た弔木とむらぎもまた、戦慄した。
 あまりにも強すぎる己の力に。

「……や、やばいな。闇の魔力。マジ何なんだよこれ。ちゃんと練習しないといつか人を殺すぞ」

 ちょっと本気を出すだけでダンジョン丸ごと吹き飛ばしかねない。
 あまりにも危険すぎる。
 これは魔力制御の練習が必要だ。

「どこかに練習相手はいないかな……あ。ちょうどいいところに」

 〝盲目の竜騎士、リガンディヌス〟が第二形態に移行しようとしていた。
 弔木とむらぎは勇者であった頃を思い出す。
 元々、二体は一組の竜騎兵ドラグーンとして攻略者を迎え撃つボスだった。
 たが竜を倒した後、盲目の竜騎兵は竜の目をくり抜き、自らの額に竜の目を移植するのだ。
 いわゆる第二形態である。

 盲目の竜騎士は視力を取り戻し、さらには複眼竜の力を手に入れる。
 第二形態の名は確か、〝邪眼の竜騎士、リガンディヌス〟だった。
 かつて勇者だった時は、十人以上の手練れの戦士達と攻略をしたのだった。
 敵はそれほどまでに強い。

「まあでも、これ位強くなってもらわないとな。練習にならないし」

 そうして弔木とむらぎは、新宿ダンジョンのラスボスで魔力操作の基礎練習を開始した。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「おっかしいなあ……もう少し奥か?」

 勇者時代に使っていた魔法は、呪文を詠唱することで狙い通りの効果が発動する。
 しかし闇の力は、弔木とむらぎが狙ったとおりに動かすのが難しい。
 闇の魔力はただ〝純粋な力〟として弔木とむらぎの肉体に溢れているのだ。

「ううむ、こうも扱いづらいと困るなあ」

 とは言え、莫大な量の魔力があるのは確かだった。
 「殴る」「身を守る」などの極端にシンプルな動きをすると、魔力が乗ってくる。

 それ故弔木とむらぎは、竜騎士の猛攻を難なく凌げている。
 魔力を扱う技術はないが、それを補って余りある魔力量で弾き返しているのだ。
 その状況は、まるで少年マンガの「気」だとか「呪力」のようでもあった。

「ただ殴るだけってのも芸がない……もっと細かいコントロールをしたいんだよなあ」

 こうしている今も、弔木とむらぎは出来る限りの力加減をしていた。
 うっかり少しでも本気を出してしまったら、相手は消し炭になってしまうからだ。

 弔木とむらぎの脳裏に、ふと勇者時代の記憶が蘇った。
 魔法の師、ルストールとの会話だ。


『原初魔法には名前がなかった。先人が名前を付けたことで、その魔力は形を得たのだ。故に勇者よ。魔法を詠唱する時は、先人への敬意を忘れぬことじゃ』


「そういえば師匠、言ってたなあ」

 魔法の詠唱とは、魔力という〝形のない力に〟形を与える行為だ。
 想像イメージ言葉ワード
 魔法の発動には、その二つの要素が必要なのだ。

「だったら……こんな感じか?」

 竜騎士が特大剣に灼熱の魔力を付与させ、振り下ろしてくる。
 タイミングを見計らい、弔木とむらぎは掌を突き出した。
「〝絶壁ぜっぺき〟!」

 ズアッ!
 と異様な音とともに、魔力の壁が展開された。
 四方八方に魔力の奔流が溢れる。
 明らかにオーバーキルな防御魔法だった。

 竜騎士の攻撃は弾き返され、ダンジョンの遥か反対方向に飛ばされていく。
 弔木とむらぎはさらに詠唱し、竜騎士を追いかける。

「〝 縮地しゅくち〟!」

 魔力が下半身に集中する。
 地面を蹴った次の瞬間には、弔木とむらぎは竜騎士の前に立っていた。

「なるほど……だいたい分かったぞ。魔力の色は違っても、基本的なところは同じみたいだ。――想像イメージ言葉ワード。師匠の教えは覚えておくもんだな」

 とは言え、弔木とむらぎは一つだけ魔法の命名にルールを設けることにした。
 それは、出来るだけ渋めの日本語にすることだ。

 火炎弾ファイヤーバレッド、だとか氷結の刃フロストエッジみたいなネーミングは格好いいが、少し恥ずかしい。

 他の探索者とは違い、弔木とむらぎは自分で魔法の命名をしている。
 万が一、技名を叫んでいるところを誰かに見られでもしたら、軽く死ねるからだ。
 弔木とむらぎはもう良い年の大人だ。
 格好いい魔法の詠唱は、異世界だけに留めておこう。
 と、弔木とむらぎはそんなことを思った。

 その後も弔木とむらぎは、闇の魔力でトレーニングを行った。
 魔力の塊を弾き出す〝魔弾まだん
 鋭い魔力の刃を飛ばす〝薄刃うすば
 敵の動きを一時的に封じる〝牢獄ろうごく

 その他にも弔木とむらぎはラスボスを実験台にしながら、多くの技を編み出した。
「うーん。……どっちかつうと、魔法というよりは、魔技? 魔操術? みたいな感じかなあ、名付けるなら。まあいいか。他の探索者に見られる前に、ボスを倒してしまうか」

 弔木とむらぎが新たな技名を何にしようかと思ったその時だった。
 竜騎士が奇妙な動きをした。
 倒される寸前だと言うのに、なぜか上を見上げたのだ。

「……何だ?」

 弔木とむらぎは軽く腕を振り、魔力の奔流で竜騎士を飛ばした。安全な距離を取ったところで、ちらりと上を見た。
 すると、弔木とむらぎが開けたダンジョンの穴から、誰かが落ちてくる。

「うあああああああああああ!」

 男の叫び声がダンジョンに響く。

「……ん? 何か見たことあるような。〝凝視〟」

 弔木とむらぎは目に魔力を集中させ、視力を強化した。
 井桐いきりだった。 

 弔木とむらぎの強化した視力には、はっきりと見えていた。
 泣き叫び、涙とよだれをだらしなく垂らし、失禁し、死の恐怖に怯えた――自称エリートの姿が。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...