魔王殺しのフリーター、覚醒し〝闇の力〟で現代ダンジョンを蹂躙す

七弦

文字の大きさ
32 / 54

31 黒き嵐

しおりを挟む
 ダンジョン内に解き放った〝闇人形〟は、あらゆる情報を弔木とむらぎに送り続けた。
 ダンジョン内の隠し部屋、モンスターの配置、ボスの数。
 そしてダンジョンにいる人間の会話。

「本当に……嫌になるな。知りたくもなかった。あんまりだ」
 〝闇人形〟を通して弔木とむらぎは、この世の地獄を知ってしまった。

 大泉は、建設会社の社長だった。
 ダンジョン不況で会社が傾き、借金に借金を重ねた。
 闇金に手を出した。
 出さざるを得なかった。
 大泉はダンジョンで稼ぐ決意をした。
 返済の目処が立った矢先に、千葉という邪悪に目をつけられた。

 そして今、大泉はボロボロになっていた。
 最悪な気分だ。
「こんなひどいこと、魔王だってしないだろ。……しかも俺のアイテム盗みやがって。お前らはここで潰す」

「ガキが、イキがってんじゃねえ! おい、成田! あいつを殺せ!」
「え……でも」
「うるせえ! 殺しちまえばこっちのもんだ! 金金金! 金が手に入るんだぞ! やれよ! 殺したら一千万くらいはくれてやるよ!」
「は……はいっ! 殺します! 俺、殺します! うおおおお!!!!」
 命令を受けた成田が、盾とメイスを装備して突撃してくる。
 
 弔木とむらぎは誰に言うでもなく、独り言を続ける。
「真面目な人が、まっとうな人が……普通に生きていけないっておかしくないか。そいや俺も、けっこうひどい目に遭ってたな……別にいいけど」

「死ねぇええッッ!」
「〝魔弾〟」
 弔木とむらぎが指を弾いた。
 ビッ!
 重く鋭い音がして、成田が持っていたメイスが飛ばされた。

「死ねええええあ!!!! ああ? あれ?」
 成田が自らの手元を確かめる。
 遅い。
 メイスは既に、遥か後方の壁にめり込んでいる。
 弔木とむらぎの追撃。
「〝魔弾〟」
 鼻っ柱に直撃。
 成田は激痛にうずくまる。
「うあああああ! うああああ! いてええええ!」

「痛いのか? それは残念だったな」
 成田の痛みなど、弔木とむらぎの知ったことではない。
 少なくとも井桐いきりの時ほど威力を弱めるつもりはなかった。

「ぎゃぁッ! いてええええ!」

 超高速で撃ち出される魔力の塊を、成田は認識すらできずにいた。何が何だか分からぬまま、全身を貫く痛みに襲われているのだ。

 ゆらりと弔木とむらぎが近づく。
「ひっ……何なんだ、こいつ……!!」
「何してんだ、成田ぁ! 早く殺れよ!!!」
 千葉が叫ぶ。
「で、でも千葉さん」
「あーうるせえよ! 言い訳はもう聞き飽きた! 最後まで使えねえ奴だなぁ!!!!」

 千葉が〝邪竜の爪〟を発動させ、竜を召喚した。
「もうめんどくせえ! まとめて焼き殺せ!」
 虚空から竜が現れ、口から高温の炎を吐き出す。
「ち、千葉さ――ギャッ!」
 成田は一瞬にして灰になった。
 邪竜の炎の範囲は広く、弔木とむらぎと大泉をも巻き込んでいく。

「〝絶壁〟」
 唱えた直後、魔力の壁が展開された。
 高温に晒された石畳は赤熱し、〝牢獄墓所〟は赤く染まる。
 プスプスと黒い煙が巻き上がる。
 煙の向こう側に弔木とむらぎは立っていた。
 大泉は腰を抜かし、唖然としていた。
 
「なん……だと!? あの炎が効かない!? 馬鹿な、そんなはずなない! もう一度やれ!」
 千葉が再び邪竜をけしかける。

「〝薄刃〟」

 弔木とむらぎの詠唱と同時に、薄い魔力の刃が空を切った。
 ぼとり、と千葉の足元に巨大な塊が落ちた。
 邪竜の頭部だった。
 召喚された邪竜は、魔力の霧となって消えていった。
「うああああ! な、何だ、てめえは……! 邪竜召喚!」

 異界の竜が再び現れる。
 しかし即座に弔木とむらぎに屠られ、消える。

「な、な……うああああ! 〝燃えろ、爆ぜろ、燃え尽きろ!〟」
 青ざめた顔で、千葉が魔法を詠唱する。
 ごく初歩的な火炎魔法だった。

 ――シュボッ

 炎は弔木とむらぎの目の前で消滅する。
 肉眼では見えないが、弔木とむらぎからは〝闇の魔力〟が嵐のように渦巻いている。
 千葉の炎は、吹き荒れる魔力にかき消されてしまったのだ。
「う、嘘だろっ! 俺の魔法が……! お前、何なんだよ!?」


「だから、言っただろ。通りすがりのフリーターだ」


 弔木とむらぎは最大限に魔力を弱めて、拳を繰り出した。
「ゴベッ」
 千葉の体が十メートルほど吹き飛ばされた。
「ふむ。自分の体に近いほど魔力は強くなるのか。加減が難しいな」

「ぐはっ! 何なんだ! 何なんだよこれ!」
 千葉は混乱し、逃げようとする。
 目の前には既に、弔木とむらぎがいた。

 千葉は恐怖で顔を歪ませ、懐柔かいじゅうしようとする。
「……な、なあ。あんた。強いな。金ならある。俺と組まな……ブバッ!」
「いちいち殴らせないでくれ。暴力は好きじゃない」
「グアーッ! じゃ、じゃあ何が目的だ!」

「〝呪縛〟」
 弔木とむらぎは答えず、かわりに魔なることばを唱えた。
 魔力で編まれた黒い紐が、千葉の首に巻きついた。
「げほっ! な、なんだ!? 苦しい……!」

「心配するな。ただの呪いだ。
 具体的には、俺の命令に従わなければ死ぬ呪いだ。
 これ以降の俺の呼びかけには全て『はい』と答えろ。それ以外の言動をしたら死ぬぞ。分かったか」

「はい」
「まず、お前が俺から盗んだアイテムを全て換金しろ。ダンジョン管理機構を通して、合法的な金にしろ」
「はい」

「その金は、全てそこにいる大泉さんに渡せ。借金は全部チャラにしろ」
「は!? は、はい……」
「俺の存在は誰にも言うな。今日のことも誰にも言うな」
「はい」
「分かったら消え失せろ。今すぐにだ」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 〝牢獄墓所〟は、再び静寂に包まれる。
 何もかもが焼き尽くされ、弔木とむらぎと大泉だけがその場にいた。

「あ……あ、あ……」
 大泉は恐怖で動けずにいた。
 弔木とむらぎは明らかに「探索者」と呼べるようなものではない。人の形をした、バケモノだ。

 対する弔木とむらぎは、後悔していた。
 〝闇の魔力〟を見られてしまった。
 力を使いすぎてしまった。
 もはや大泉と取引をし続けることは、できないだろう。

 だが、これで良いとも思った。
 この世から一つ、理不尽な暴力を排除できた。
 それだけで十分だった。

 弔木とむらぎは大泉に背中を向け、立ち去ろうとする。
「と、弔木とむらぎ君……! 待ってくれ! き、君は……!」
 声を震わせながら、大泉が引き止める。
 弔木とむらぎは振り返ることもなく、応えた。
「俺のことは、誰にも言わないでくれ」

 弔木とむらぎはダンジョンの暗がりに消えていった。
 大泉の弔木とむらぎを呼ぶ声だけが、ダンジョンにこだましていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...