騎士様のアレが気になります!

茜菫

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本編

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「……騎士さま、私が魔法で上に連れていけるよ」

「えっ、ほ、本当ですか!?」

「うん、行ってみる?」

 ヴィヴィアンヌの提案にオリヴィエは驚きの声を上げる。オリヴィエにとっては闇夜の灯火、先行きが不安な中で見えた希望の光だろう。
_
「その……」

 しかし、オリヴィエはすぐには答えず、少し考え込む様子を見せた。

「どうしたの?」

「ヴィヴィアンヌに負担ばかりを掛けていては……」

 オリヴィエは食料、寝床、介抱に治療魔法と、さまざまなことでヴィヴィアンヌの世話になっている。その上でさらに協力までさせてしまうことを心苦しく思っているのだろう。

「でも、行ってみたいでしょ?」

「そう……ですね。ですが……いや、負担を解消するためにも、早く終わらせた方が……」

 長くいればいる分、ヴィヴィアンヌに負担をかけ続けることになる。これからのことを考えれば、協力を得てできるだけ早く調査を進め、続く負担を終える方が良いと考えたのだろう。

「……では、申し訳ありませんが、お願いできますか?」

「うん!」

 ヴィヴィアンヌは頼られたことがうれしくて、満面の笑みを浮かべた。オリヴィエはヴィヴィアンヌの笑顔を見て、胸を押さえる。

「ちょっと待ってね!」

「はい」

 ヴィヴィアンヌは小さな声で、魔法を成すための呪文を詠唱しはじめた。それが終わると、二人、ではなくヴィヴィアンヌだけがふわりと宙に浮く。

「あっ、あれ?」

「……ヴィヴィアンヌ?」

「ちょっとまってね、騎士さま。もう一回、やり直すから」

 ヴィヴィアンヌは魔法を解除して地に降りた。再び呪文を詠唱して魔法をなすと、次こそ二人、ではなくオリヴィエだけが宙に浮く。

「……あれえ?」

「運ぶのは私だけでも……」

「この魔法、私から離れると切れちゃうから……それだとたぶん、騎士さまが途中で落ちちゃう」

「……それは、かなり困りますね」

 オリヴィエはぶるりと体を震わせた。仕方なくヴィヴィアンヌはオリヴィエを地に下ろし、魔法を解除する。

「どうしよう……」

 ヴィヴィアンヌは二人同時に魔法をかけることができなかった。かといって、オリヴィエを一人上げようとして途中で落としてしまってはたいへんだ。

 ヴィヴィアンヌは腕を組み、どうすればよいのか必死で頭を悩ませる。

「ヴィヴィアンヌ、ありがとう。難しければ無理に……」

「あっ、いいこと思いついた!」

 オリヴィエが断りを入れる前に、ヴィヴィアンヌはひらめいた。編みかごの持ち手に腕を通すと、両腕を広げてオリヴィエに抱きつく。

「えっ!?」

 突然の抱擁に、オリヴィエは驚きの声を上げて顔を赤くした。

「これならいけそうな気がするの」

 ヴィヴィアンヌはオリヴィエの背に腕を回してぴったりと体を寄せ、顔を上げて笑顔で声をかける。

「ね、騎士さまも腕を回して?」

「えっ、あっ……あぁ」

 オリヴィエは恐る恐るといったように右腕を回した。それを確認し、ヴィヴィアンヌはオリヴィエの胸に自分の頬をぴったりとくっつける。

「やっぱり、小さくて……細いな……」

「え?」

「い、いえ、なんでも」

 ヴィヴィアンヌは元々食が細く、食べるものは小さな畑で育てている繁殖力の強い根菜か、森で採れる木の実や山菜ばかり。鳥の卵や樹液から作ったシロップをよろこんで食べることもあるが、それもまれだ。

 ヴィヴィアンヌの食環境は良いとは言えない。そんな食環境もあって、ヴィヴィアンヌは細かった。

「じゃあ、行くね」

「……お願いします」

 ヴィヴィアンヌが再び魔法を使うと、遂に二人は共に宙へと浮きあがる。支えとなっていた地がなくなり、ヴィヴィアンヌはオリヴィエに回した腕に力を入れてさらに密着した。

「やった! できたよ、騎士さま! よーし、このまま上まで行くね」

「っ、はい」

 ヴィヴィアンヌははしゃいでいるが、オリヴィエは真っ赤でそれどころではないようだ。しかし、ヴィヴィアンヌはオリヴィエの様子など気にせずに魔法に集中している。

 おかげで、二人は途中で落ちることもなく、無事に崖の上まで移動した。

(よかった、ちゃんとできた!)

 ヴィヴィアンヌは両足を地につけると、浮遊の魔法を解いた。オリヴィエも無事に両足を地に下ろし、ほっと胸をなでおろす。

 ヴィヴィアンヌは集中を解いて体の力を抜いたところで、ふとあることに気づいた。

(……わ。騎士さまの中、どきどきしている!)

 魔法の維持に全神経を向けていた間は気づかなかったが、密着させた耳からオリヴィエの心音を聞き取る。ヴィヴィアンヌはとくとくと響くその音を聞いていると、不思議と安心感を得た。

 鼓動の音に好奇心が湧いたヴィヴィアンヌは、もうくっつく必要がなくなったというのに、ぴったりと体を寄せたまま離れなかった。

「……あの、ヴィヴィアンヌ?」

 オリヴィエが戸惑ったように声をかける。ヴィヴィアンヌは声をかけられても離れず、じっとオリヴィエの心音を聞いていた。

「……騎士さまの中、どきどきしているね」

「えっ、それは……その……ヴィヴィアンヌがくっついているから……」

「私がくっつくと、どきどきするの?」

 ヴィヴィアンヌはオリヴィエに抱きついたまま、彼を見上げて問いかける。オリヴィエはそれにどう答えるべきか悩んでいるようだ。

 オリヴィエはしばらく黙り込んでいたが、なにかを決心したように真剣な表情となり、ゆっくりと口を開く。

「……そうです。僕が、きみを好きだから。こうしていると、もっと先のことを考えて、どきどきするんだ」

 オリヴィエは自分の気持ちをはっきりと伝える。しかし、ヴィヴィアンヌは理解できずに首をかしげた。

「……先のこと?」

 ヴィヴィアンヌも好きや嫌いといった感情は知っている。しかし、その感情の先のことは知らなかった。
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