治療と称していただきます

茜菫

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第一部

そばにいるから(3)

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 そのため、こうしてあの男の死後に出てきた遺物については、しっかりと国で回収して役立てられている。それに複雑な想いを抱いているものは、王をはじめとして多くいるだろうが、知識自体は悪ではないのだから。

「その問題が享楽の魔女絡みだから、私が呼ばれたのですね」

「そうだ。そなたが一番、あの男の身近に長くいて、あの男が扱う魔法をよく知っている」

 エレノーラがちらりと横目でレイモンドを見ると、彼は顔を顰めていた。

(…これは相当、機嫌が悪そうね)

 顔に出てしまっているものの、レイモンドもちゃんと弁えているため、何も言わずに堪えている。

「事は急を要するのです。その報告を最後に、魔道士たちからの連絡が途絶えました。一名、確認に向かわせた魔道士の通信報告によると、封印を解除したはずの扉が、再び閉ざされているとのことです」

 魔道士長の言葉に、エレノーラは確かに悠長にしていられる状況ではなさそうだと息をのんだ。調査の際には二時間毎に魔法での通信報告が決められているが、今は十二時近く、つまり約三時間、彼らは中に閉じ込められていることになる。

「その、宮廷魔道士二名は…?」

 宮廷魔道士は数が少ない。エレノーラは知った名前が出て来るかもしれないと言葉を待っていると、魔道士長は少しバツが悪そうに眉尻を下げた。

「マシューと…アグネスの二名です」

 思った以上に、よく知った名前が出てきた。マシューは宮廷魔道士の中でも次期魔道士長の名に上がる程、非常に優秀な魔道士だ。アグネスも、言動に多少の問題はあるものの、魔道士としての実力なら相当なものだ。アグネスがエレノーラにしたことを知っているから、魔道士長はあの表情になってしまったのだろう。

 エレノーラは気にしていないとは言えないものの、実力者の二人が何の連絡もできなくなる程の状況だ。命の危険すらあるこの状況で、そのことをとやかく言うつもりはなかった。

「エレノーラ殿…申し訳ございませんが、お二人をお助け頂きたく…」

「わかりました、直ぐに向かいます」

 エレノーラがレイモンドに目配せすると、彼は頷いて応えた。彼女はこれからの行動を考え、魔道士長に声をかけた。

「念のため、その二名の私物を何かひとつずつ用意していただけますか」

「わかりました、後で届けさせましょう」

「では、先に向かいます」

 エレノーラは享楽の魔女の性格を考えると、今回もろくでもない目に合いそうだとため息をついた。

(…本当はあの魔女に絡むものには近づきたくないけれど…)

 連絡の取れなくなった魔道士のことを考えると、エレノーラはそうも言えなかった。
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