治療と称していただきます

茜菫

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第一部

心を支える言葉(6)

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「…享楽の魔女の幻は、上手く消せたのか?」

 深い憎悪がこもった言葉だ。彼が望む答えは、魔女の幻を酷い目に遭わせて消したというものだろう。エレノーラがどう答えるべきかわからず言葉に詰まると、レイモンドは一歩前に出る。

「消しましたよ。手に入れられなかったエレノーラの心を私が得ていることに怒り、手を伸ばしたものの届かず、とても悔しそうにしながら消えました」

「…はは、そりゃあいいな!」

 レイモンドの言葉に、王は纏う剣呑な雰囲気を消して、実に楽しそうに笑った。

(あの状況、うまい言い方で表現したわね…)

 実際、エレノーラがレイモンドといちゃついて、魔女が怒り、止めようとした。言い得て妙だ。

「…それが聞きたかっただけですか」

「ああ。俺は見ることができないんだから、少しくらい、スカッとするいい報告が聞きたいだろう?」

 レイモンドの呆れたような声に、王は悪びれもなく頷く。魔女本人が既に死亡し、幻が出たとしても己の手で始末できる立場でもない彼の、享楽の魔女に対する恨み辛みは強烈だ。エレノーラは心臓に悪いからやめて欲しいとも言えず、ただ成り行きを見守るしかない。

「死んでも手離したくない女が奪われていると知れば、それはさぞかし滑稽な姿だっただろうなあ。…ああ、見たかった」

「死んでも…とは、言い過ぎかと思いますが…」

 エレノーラはとても執着されていたことは感じていたが、だからといって死んでもとまでとは言えるとは思わなかった。彼女の言葉に、王は目を細めて軽く指を振る。

「手離したくない女がいたから、享楽の魔女はあの場に残り、レイモンドに殺られた。まさに、死んでも手離したくない…だろう?魔女の討伐はレイモンドと、そなたと功績ともいえるな?」

「…恐れ多いです」

 エレノーラは人払いをした理由がわかった。こんなことは、人前で言えることではない。

(…まさか、本当に?)

 彼女も、少し不思議には思っていた。何故あの日、あの男は隠れ家を放棄しなかったのか、と。隠れ家を腐るほど持つ魔女は、常ならば隠れ家を放棄して別の隠れ家に移動していたのに、あの日だけは違った。

(確かに、あの日…私は動けない状態だったわ)

 今思い返せば、いつもと違ったのは彼女が動けない状態であったことだ。そんな状態にしたのも、あの男だったけれども。
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