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・15-2.夢幻②
しおりを挟む気づけば、クロエは暗闇の中に佇んでいた。
右を向いても左を向いても、上も下も、どこにいるかも分からない。
(ここは……どこ?)
まるで現実味の無いこの空間にいることに、少しばかり不安に駆られたクロエだったが、これは夢なのだろうとぼんやりと思った。
だが、何故このような夢を見ているのか?
夢なのだからそこに意味を見出すこと自体がおかしな話なのだが、クロエはこの空間に〝呼ばれた〟という感覚があった。
闇に目を凝らしていると、不意に人が現れた。
ぼんやりとした光を纏った人物は、緋色の髪に金の瞳を持つ青年だった。
金と群青色の布を肩から掛けた服装は、どこか異国の者を思わせた。
クロエは突然現れた人物を認め、小さく息を呑んだが、理由はそれだけではなかった。
青年の纏う空気は明らかに人間のものでは無いように感じたからだ。
「貴方は、誰?」
クロエは青年にそう尋ねたが、青年はそれには答えなかった。
「お前は何度も同じ時を繰り返している。それが何故か、思い出せ」
「同じ時を繰り返す?」
青年の言っている言葉の意味が分からず、クロエは訝し気に眉を顰めた。
その時スッと青年が腕を上げ、一か所を指さした。
クロエがその方向を振り返ってみると、そこに横たわっている人がいることに気づいた。
よく見ると、それは血の気の失せた顔をした金髪の男性だった。
だが、視界が霞んで、誰なのかはっきりとは分からない。
ただ、不意に思ったのだ。
(この人が、私が救いたい『誰か』なのだわ)
クロエがこれまで焦燥感に駆られるように、我武者羅に医療魔術の知識を身に着ける理由となっている『誰か』。
それがこの男性であることを思い出したのだ。
『ええ。XXXのことも、XXXを助けるということも絶対に思い出す』
いつかどこかで、クロエは確かにそう言っていた。
だが、その名前をどうしても思い出せない。
必死で記憶を辿るが、いつものように砂が落ちるように崩れていく感覚しかなかった。
その時、緋色の髪の青年が静かに言葉を発した。
「もう時間だ。早く思い出せ。そして彼を救うんだ」
青年の声が耳に入ると共に、クロエの周囲が光り輝き出した。
視界が白に包まれ始めたことで、クロエはこの夢が終わることを悟った。
だから最後に男性に向かって叫んでいた。
「絶対にあなたを助けるから、待っていてください」
そして小鳥の囀りが聞こえ始め、クロエはゆっくりと目を覚ました。
(ここは?)
視界に入るのは見慣れた天蓋。
窓からはレースのカーテンが揺れ、朝日が差し込んでいる。
「おはようございます、お嬢様」
侍女のナンシーに声を掛けられても、クロエはすぐに答えることができなかった。
頭がぼうっとして働かない。
まだ夢の続きを見ているようで、自分が現実に戻ったのか、実感が湧かなかった。
「お嬢様?」
「あ……ナンシーおはよう」
「どうされたんですか? ぼうっとしてますけど、また遅くまで論文をお読みになっていたのですか?」
「そんなわけじゃないけど、ちょっと不思議な夢を見たから……」
そう、あれは夢だ。だけど妙にリアルな夢だった。
クロエは夢の内容を思い出そうとして、ふとあることに気づいた。
夢で必死に見ようとしていた男性の顔。夢の中ではよく見えなかったが、あの金糸のように美しい髪と、高い鼻梁には見覚えがあった。
(あれは……お兄様?)
だがクロエはすぐに頭を振ってその考えを否定した。
クロエが必死に医療魔術を身に着けようとしている『誰か』とフレッドがまるで紐づかない。
フレッドは健康で、クロエの医療魔術とは無縁の存在だ。
(きっと、お兄様の事を考えて眠ってしまったからだわ)
クロエはそう結論付けると、ベッドから起き上がり、仕事に向かう準備を始めたのだった。
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