【完結】天才令嬢は時戻りを繰り返す~溺愛してくる幼馴染の年上伯爵に伝えたいこと~

イトカワジンカイ

文字の大きさ
21 / 46

・15-2.夢幻②

しおりを挟む

気づけば、クロエは暗闇の中に佇んでいた。
右を向いても左を向いても、上も下も、どこにいるかも分からない。

(ここは……どこ?)

まるで現実味の無いこの空間にいることに、少しばかり不安に駆られたクロエだったが、これは夢なのだろうとぼんやりと思った。

だが、何故このような夢を見ているのか?

夢なのだからそこに意味を見出すこと自体がおかしな話なのだが、クロエはこの空間に〝呼ばれた〟という感覚があった。

闇に目を凝らしていると、不意に人が現れた。

ぼんやりとした光を纏った人物は、緋色の髪に金の瞳を持つ青年だった。

金と群青色の布を肩から掛けた服装は、どこか異国の者を思わせた。

クロエは突然現れた人物を認め、小さく息を呑んだが、理由はそれだけではなかった。
青年の纏う空気は明らかに人間のものでは無いように感じたからだ。

「貴方は、誰?」

クロエは青年にそう尋ねたが、青年はそれには答えなかった。

「お前は何度も同じ時を繰り返している。それが何故か、思い出せ」
「同じ時を繰り返す?」

青年の言っている言葉の意味が分からず、クロエは訝し気に眉を顰めた。

その時スッと青年が腕を上げ、一か所を指さした。
クロエがその方向を振り返ってみると、そこに横たわっている人がいることに気づいた。

よく見ると、それは血の気の失せた顔をした金髪の男性だった。

だが、視界が霞んで、誰なのかはっきりとは分からない。
ただ、不意に思ったのだ。

(この人が、私が救いたい『誰か』なのだわ)

クロエがこれまで焦燥感に駆られるように、我武者羅に医療魔術の知識を身に着ける理由となっている『誰か』。

それがこの男性であることを思い出したのだ。

『ええ。XXXのことも、XXXを助けるということも絶対に思い出す』

いつかどこかで、クロエは確かにそう言っていた。

だが、その名前をどうしても思い出せない。
必死で記憶を辿るが、いつものように砂が落ちるように崩れていく感覚しかなかった。

その時、緋色の髪の青年が静かに言葉を発した。

「もう時間だ。早く思い出せ。そして彼を救うんだ」

青年の声が耳に入ると共に、クロエの周囲が光り輝き出した。
視界が白に包まれ始めたことで、クロエはこの夢が終わることを悟った。

だから最後に男性に向かって叫んでいた。

「絶対にあなたを助けるから、待っていてください」

そして小鳥の囀りが聞こえ始め、クロエはゆっくりと目を覚ました。

(ここは?)

視界に入るのは見慣れた天蓋。
窓からはレースのカーテンが揺れ、朝日が差し込んでいる。

「おはようございます、お嬢様」

侍女のナンシーに声を掛けられても、クロエはすぐに答えることができなかった。
頭がぼうっとして働かない。

まだ夢の続きを見ているようで、自分が現実に戻ったのか、実感が湧かなかった。

「お嬢様?」
「あ……ナンシーおはよう」
「どうされたんですか? ぼうっとしてますけど、また遅くまで論文をお読みになっていたのですか?」
「そんなわけじゃないけど、ちょっと不思議な夢を見たから……」

そう、あれは夢だ。だけど妙にリアルな夢だった。

クロエは夢の内容を思い出そうとして、ふとあることに気づいた。

夢で必死に見ようとしていた男性の顔。夢の中ではよく見えなかったが、あの金糸のように美しい髪と、高い鼻梁には見覚えがあった。

(あれは……お兄様?)

だがクロエはすぐに頭を振ってその考えを否定した。

クロエが必死に医療魔術を身に着けようとしている『誰か』とフレッドがまるで紐づかない。

フレッドは健康で、クロエの医療魔術とは無縁の存在だ。

(きっと、お兄様の事を考えて眠ってしまったからだわ)

クロエはそう結論付けると、ベッドから起き上がり、仕事に向かう準備を始めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】姫将軍の政略結婚

ユリーカ
恋愛
 姫将軍ことハイランド王国第四王女エレノアの嫁ぎ先が決まった。そこは和平が成立したアドラール帝国、相手は黒太子フリードリヒ。  姫将軍として帝国と戦ったエレノアが和平の条件で嫁ぐ政略結婚であった。  人質同然で嫁いだつもりのエレノアだったが、帝国側にはある事情があって‥‥。  自国で不遇だった姫将軍が帝国で幸せになるお話です。  不遇な姫が優しい王子に溺愛されるシンデレラストーリーのはずが、なぜか姫が武装し皇太子がオレ様になりました。ごめんなさい。  スピンオフ「盲目な魔法使いのお気に入り」も宜しくお願いします。 ※ 全話完結済み。7時20時更新します。 ※ ファンタジー要素多め。魔法なし物理のみです。 ※ 第四章で魔物との戦闘があります。 ※ 短編と長編の違いがよくわかっておりません!すみません!十万字以上が長編と解釈してます。文字数で判断ください。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも
恋愛
「好きです。付き合ってください!」  大きな桜の木に花が咲き始めた頃、その木の下で、彼は真っ赤な顔をして告げてきた。  嬉しさに胸が熱くなり、なかなか返事ができなかった。その間、彼はまっすぐ緊張した面持ちで私を見ていた。そして、私が「はい」と答えると、お互い花が咲いたような笑顔で笑い合った。  中学校の卒業式の日だった……。  あ~……。くだらない。  脳味噌花畑の学生の恋愛ごっこだったわ。  全ての情熱を学生時代に置いてきた立花美咲(24)の前に、突然音信不通になった元カレ橘蓮(24)が現れた。  なぜ何も言わずに姿を消したのか。  蓮に起こったことを知り、美咲はあの頃に置き去りにした心を徐々に取り戻していく。 ──────────────────── 現時点でプロローグ+20話まで執筆ができていますが、まだ完結していません。 20話以降は不定期になると思います。 初の現代版の恋愛ストーリーなので、遅い執筆がさらに遅くなっていますが、必ず最後まで書き上げます! 少しでも楽しんでいただければ幸いです。

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

処理中です...