【完結】天才令嬢は時戻りを繰り返す~溺愛してくる幼馴染の年上伯爵に伝えたいこと~

イトカワジンカイ

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・19-1.フレッド視点:結婚の条件①

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いつものように、クロエを週1のお茶に誘ったところ、突然フレッドの誘いを断ったのだ。

(どうして突然?)

今まで毎週のように顔を合わせ、フレッドの話を楽しそうに聞き、自分の話を満面の笑みで語ってくれていたクロエからの断りの連絡に、フレッドは一瞬頭が真っ白になった。

何か自分がクロエに嫌われることをしたのだろうか?
自分以外の男性に目が向くようになったのか?

そんな不安がフレッドの頭を駆け巡った。

気づけばフレッドは屋敷を飛び出し、馬車に乗り込むと、ランディット伯爵邸へと向かった。

「おや、フレッド君、突然どうしたんだい!?」

たまたま屋敷にいたクロエの父ジェレミーがそう言って目を丸くしてフレッドを出迎えた。

「急に押しかけて申し訳ありません。クロエからの手紙を受け取って……何かあったのかと心配になってしまって」

焦る心を押し止めながらフレッドが言うと、ジェレミーは眉根を顰めて答えた。

「あぁ、そのことか。心配かけてすまないね。その……ちょっと色々あってね」

口籠り、困った表情となったジェレミーを見ながら、フレッドは怪訝な表情で首を傾げた。

「何かあったのですか?」
「実は、この間ガーデンパーティーに参加させたんだよ」

曰く、同年代の友達を作らせる目的で参加させた茶会で、クロエは自分が「気味が悪い」「得体が知れない」と陰で言われていることを知り、酷く傷ついたという。

パーティーからの帰りの馬車で、泣きじゃくるクロエを両親が宥めたようだったが、それでも深く傷ついた心は癒せなかったようだ。

「僕が無理にパーティーに参加させなければよかったよ」

そう言ってジェレミーは深い後悔の念を滲ませた。
フレッドとしても同じ気持ちであった。

クロエを縛り付けたくないと思っているし、クロエ自身ももっと広い世界を見るべきだとは分かっている。

だが、交友関係を広げようとした結果、こんなに傷つく姿を見たくはなかった。

何より、自分を〝異常〟だと言って、自分自身を貶めているクロエの気持ちを考えると、胸が締め付けられる思いだった。

とはいうものの、フレッドのことを嫌いになって拒絶しているわけではないことが分かり、胸を撫で下ろした。

「あの、クロエと話をさせてもらえないでしょうか?」
「それは構わないが、あの子はここしばらく書斎に籠り切りでね。声を掛けても出て来てくれるかどうか……」

そう言いつつ、ジェレミーはフレッドを書斎まで案内してくれた。
フレッドはこげ茶色のオークで出来たドアをノックする。

「クロエ、いるのか? クロエ?」

だが、案の定と言うべきか、中からクロエの返事はない。

それでも諦めるわけにはいかない。
ましてや今後クロエと会えないなど考えたくもない。

そもそもクロエはフレッドを嫌っていないのであれば、多少強引な手を使っても問題ないだろう。

フレッドはそう判断すると、クロエの返事を待たずに書斎に入った。

「クロエ、入るよ?」

書斎に足を踏み入れると、クロエは部屋の隅で蹲り、緑柱石の瞳に不安の色を浮かべてフレッドを見た。

フレッドは、動揺と恐怖と不安とが入り混じった表情を浮かべたクロエの隣に座ると、クロエが小さく息を呑んだ音がした。

フレッドはクロエの顔を覗き込み、その憂いを打ち消すように優しく微笑んだ。

「クロエは俺のこと、嫌いになっちゃった?」
「そ、そんなことありません!」
「じゃあ、どうして誘いを断ったの?」

ジェレミーから大筋は聞いていたが、詳細までは知らないフレッドが問いかけると、クロエはぽつりぽつりと茶会での話を語り出した。

今にも泣きそうになり、声を震わせながら、当時のことを語るクロエはフレッドが見たことの無いほど弱々しく、痛々しい姿であった。

同時に、クロエにそんな非道な言葉を言い放ったブリジットに対して、沸々と怒りが込み上げてきた。

(ブリジット……確かザイナック伯爵家の女だったか)

フレッドに付きまとい、何度断っても茶会や夜会の誘いをしてくる、鬱陶しい女だ。

無害だから放置していたが、クロエを傷つけるのであれば、一度叩き潰した方がいいだろう。

そんな思いを隠して、フレッドは穏やかに目を細めてクロエに語り掛けた。

「人は皆、才能を持っているものなんだ。だけど、それを人は磨こうとしないし、開花させようともしない。だけど、クロエの才能は、自分で努力して咲かせたものだ。俺はお前がどれだけの努力と労力を重ねて、知識を得ているのかを知っているし、活かす努力をしているのも知っているよ。だから人がなんと言おうと胸を張っていいんだよ」

「じゃあ、フレッド様は私のことを気持ち悪いって思わないの?」
「もちろんだよ」
「嫌いに、ならない?」
「あぁ、俺がクロエを嫌いになることなんてないよ」

上目遣いでこちらを見るクロエの表情から、フレッドを受け入れようとしてくれている事が分かると同時に、フレッドの中で愛しさが込み上げてきた。

そっとクロエの体を抱きしめると、フレッドの腕の中でクロエはようやく体の緊張を解いた。

だが、ここでまたフレッドの予想外のことが起こった。

「フレッド様は、お兄様ね」
(え?)

クロエが突然フレッドのことを〝お兄様〟と言い始めたことに、フレッドは盛大に焦った。

フレッドにとってクロエは愛しい存在で、愛しており、将来結婚したいという一人の女性だ。

だがクロエにとってフレッドが「兄」という存在であるなら、それは異性として全く意識されていないということになる。

異性として意識してもらうにはまだ一緒に過ごしている時間も少ない。
加えてクロエとフレッドはそれなりに年が離れているのは事実だ。

だから兄認定されては、今後も恋愛対象外になりかねない。

「どういう意味だい?」

フレッドが戸惑いながら尋ねると、クロエはにっこりと微笑んだ。

「え? だって私を嫌わないのは家族だけだもの。だから、フレッド様は私のお兄様よ」
(なるほど)

クロエの言葉を聞いて納得した。
彼女の中で自分を受け入れてくれる人間=家族なのだと。

それなのに、無理にクロエの考えを否定しては、クロエはまた他人から拒絶されたと受け取り、フレッドとの関係も終わらせてしまうだろう。

だから先手を打つことにした。

「ねぇ、クロエ。クロエは俺のこと、好き?」
「もちろん。大好きよ」
「じゃあ、クロエが大人になって将来お嫁さんになってくれるのなら『お兄様』って呼んでもいいよ」
「もちろんよ! 私もずっと一緒にいたいわ」
「なら今(・)は(・)『お兄様』って呼ぶのを許してあげるよ」

そう、今はいいのだ。
今は兄という立場を受け入れよう。しかし、大人になったら結婚してもらうつもりだ。

(絶対に逃がさないよ。俺だけの妖精)

そう思いながら、フレッドはクロエにキスをした。
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