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・19-2.フレッド視点:結婚の条件②
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クロエの笑顔が見たくて、彼女に似合うであろう髪飾りやドレスといった贈り物もたくさんした。その度にクロエは満面の笑顔で礼を言ってくれる。
そんな毎日を過ごしていたが、女の愛らしさに加え女性としての美しさも現れるようになり、フレッドはますますクロエに魅了された。
だが魅了されたのはフレッドだけではなかった。
クロエが14歳で社交界デビューして以降、夜会に出席すると、彼女は注目の的になった。
魔術科学の研究に熱意を向けるクロエは、夜会に出るのは稀であったため、出席するだけでも注目される。
それに加え、妖精のような美しさを持つクロエは、男性たちに「妖精姫」などと言われ、密かに人気があった。
クロエの姿を見ると男性陣は浮足立ち、何度となくクロエに声を掛けてくる。
その度にフレッドは男たちに睨みを利かせ、牽制するのに躍起になっていた。
クロエの美しさと聡明さに惹かれる気持ちも分かるが、それはそれだ。
(なんとかしてクロエを俺のものだと分からせられないものか……)
そう考えたフレッドは、自分が同伴者になり、傍にいればよいことにふと気づいた。
だから、ある夜会に参加することになった時、フレッドはクロエにパートナーとして参加してほしいと提案したのだ。
しかし、予想外にクロエはそれに難色を示した。
「クロエ、今度の夜会はお前のパートナーを務めさせてくれるかい?」
「ええ? うーん、それはやめておきます」
「何でだい?」
「何でって、普通は恋人がいない場合、身内をパートナーにするでしょう? だから、今回もお父様にお願いするつもりです。もしお兄様と夜会に出たら、恋人だって思われてしまうわ。そうしたらお兄様にも迷惑がかかるだろうし」
迷惑どころか、恋人として夜会に参加してもらえるのならばフレッドとしては万々歳だ。
自分がクロエと一緒に居ればクロエはフレッドの恋人だと誰しもが思うだろう。
煩い女共も話しかけてこないだろうし、他の男共もクロエには手を出さないだろう。
「クロエが俺の婚約者だと思われても平気だ。クロエが俺の婚約者だと思われた方が、都合がいいんだ。一人で参加すると女性に囲まれてしまって相手に困るしな。クロエが婚約者として一緒に出てくれればそういう煩わしさからも解放される」
だから、フレッドがそう思って提案すると、クロエは一瞬考えた後、「なるほど……」と小さく呟いた。
そして、満面の笑みをフレッドに向けた。
「分かりました。お兄様ほどの方だと、色々と大変でしょうし、私で良ければその役目、真っ当しますよ」
〝役目〟とは何のことを言っているのか、フレッドは理解できなかったものの、クロエが恋人として夜会に出てくれることに安堵した。
この日以降、クロエが夜会に出る時にはフレッドがパートナーとして参加するようになった。
それでも、クロエに付きまとう虫は後を絶たなかった。
フレッドは目を光らせ、近づく男を容赦なく叩き潰して牽制しているのだが、それでもめげずに男共がクロエに接触しようとする。
潰しても潰しても、きりが無い。
(もうこれはクロエと早く結婚しなくては)
気づけばクロエももう17歳になり年頃だ。
ランディット伯爵もクロエの婚約者探しを始めようとしていると、フレッドは父ケイネスから聞いた。
フレッドも25歳となり周囲からいい加減結婚するようにせっつかれているし、宰相候補として盤石な地位を築いている。
クロエを妻に迎えても何ら問題はないのだ。
そこで、フレッドはランディット伯爵にクロエとの結婚を申し込むことにした。
ランディット伯爵邸に出向くと、ジェレミーが眼鏡の奥の目を細め、柔和な笑みで出迎えてくれた。
「お久しぶりです、伯爵」
「久しぶりだね。元気にしていたかい?」
「はい。実は今日はお願いがあって参りました」
そうして挨拶もそこそこにフレッドは本題を切り出した。
「ランディット伯爵、クロエと結婚させていただけないでしょうか?」
フレッドの申し出に、ジェレミーが目を丸くした。
「結婚!?」
「はい。私はクロエを愛しています。子供の頃からずっと好きでした。ですからクロエも立派な女性となった今、妻に迎えたいと思うのです」
フレッドの熱心な言葉に、ジェレミーは困惑した表情を浮かべた後、少しばかり思案した。
静寂が場を支配し、フレッドの背中に緊張が走る。
やがてジェレミーは徐に口を開いた。
「フレッド君がいい青年だということは良く知っているよ。だけど、僕はクロエの才能が埋もれるのはあまりに惜しいと感じている。それにあの子自身が医療魔術の研究に夢中だ。それを断念させてまで結婚させたいとは思わないんだよ」
確かに結婚してしまえば、社交も本腰で行わなくてはならないだろうし、女主人として屋敷を管理する必要もある。
だが、その程度のことでフレッドも折れるつもりはなかった。
「伯爵の懸念も理解できます。ですが、クロエには今まで通り研究生活を送ってもらえるようにしますし、研究所を辞めさせるつもりもありません。クロエを害そうとする全ての者から守ってみせます」
「そうか……。でも一番はクロエの気持ちだ。僕はあの子の意志を尊重したい。クロエは『自分の夢を叶えてくれる男性と結婚したい』と言っていた。だから、その夢を叶えて、クロエが君と結婚したいと言うのであれば喜んで結婚を許すよ」
「ありがとうございます」
こうしてフレッドは伯爵からクロエとの結婚の許可を得ることができた。だが、ここからが問題だった。
クロエの夢というのは、「隣国ラルドビアに留学させてくれる男性となら婚約してもいいと」いうものだった。
隣国ラルドビアは、閉鎖的な国だ。自国が潤っているため他国との交易を必要としていない。
また魔術科学に対しても先駆的な国のため、魔術科学を利用した国防もある。
それゆえ他国の侵略にも屈することの無い、完全無欠ともいえる国だった。
だから現時点ではラルドビアと国交を持つのは難しい状況だ。
そこでフレッドは王太子の執務補佐官と将来の宰相候補という自分の地位を駆使し、ラルドビアと国交を結ぶために行動を移した。
その鍵となるのがナグノイア侯爵だった。
ナグノイア侯爵は領地に交易拠点をいくつも持ち、自身も交易業を営み、巨万の富を築いている人物だった。
貿易業を営む兼ね合いから、侯爵は各国に人脈を有し、それはラルドビアも例外ではなかった。
同時に、ナグノイア侯爵は非常に野心家であり、ある程度のメリットを提示すればラルドビアと縁故を持てるように計らってくれることも容易に想像できた。
フレッドはそう算段し、侯爵に近づくことにした。
だがそれが、フレッドとクロエの仲に暗雲が立ち込める事態になることを、この時のフレッドは知る由もなかった。
クロエの笑顔が見たくて、彼女に似合うであろう髪飾りやドレスといった贈り物もたくさんした。その度にクロエは満面の笑顔で礼を言ってくれる。
そんな毎日を過ごしていたが、女の愛らしさに加え女性としての美しさも現れるようになり、フレッドはますますクロエに魅了された。
だが魅了されたのはフレッドだけではなかった。
クロエが14歳で社交界デビューして以降、夜会に出席すると、彼女は注目の的になった。
魔術科学の研究に熱意を向けるクロエは、夜会に出るのは稀であったため、出席するだけでも注目される。
それに加え、妖精のような美しさを持つクロエは、男性たちに「妖精姫」などと言われ、密かに人気があった。
クロエの姿を見ると男性陣は浮足立ち、何度となくクロエに声を掛けてくる。
その度にフレッドは男たちに睨みを利かせ、牽制するのに躍起になっていた。
クロエの美しさと聡明さに惹かれる気持ちも分かるが、それはそれだ。
(なんとかしてクロエを俺のものだと分からせられないものか……)
そう考えたフレッドは、自分が同伴者になり、傍にいればよいことにふと気づいた。
だから、ある夜会に参加することになった時、フレッドはクロエにパートナーとして参加してほしいと提案したのだ。
しかし、予想外にクロエはそれに難色を示した。
「クロエ、今度の夜会はお前のパートナーを務めさせてくれるかい?」
「ええ? うーん、それはやめておきます」
「何でだい?」
「何でって、普通は恋人がいない場合、身内をパートナーにするでしょう? だから、今回もお父様にお願いするつもりです。もしお兄様と夜会に出たら、恋人だって思われてしまうわ。そうしたらお兄様にも迷惑がかかるだろうし」
迷惑どころか、恋人として夜会に参加してもらえるのならばフレッドとしては万々歳だ。
自分がクロエと一緒に居ればクロエはフレッドの恋人だと誰しもが思うだろう。
煩い女共も話しかけてこないだろうし、他の男共もクロエには手を出さないだろう。
「クロエが俺の婚約者だと思われても平気だ。クロエが俺の婚約者だと思われた方が、都合がいいんだ。一人で参加すると女性に囲まれてしまって相手に困るしな。クロエが婚約者として一緒に出てくれればそういう煩わしさからも解放される」
だから、フレッドがそう思って提案すると、クロエは一瞬考えた後、「なるほど……」と小さく呟いた。
そして、満面の笑みをフレッドに向けた。
「分かりました。お兄様ほどの方だと、色々と大変でしょうし、私で良ければその役目、真っ当しますよ」
〝役目〟とは何のことを言っているのか、フレッドは理解できなかったものの、クロエが恋人として夜会に出てくれることに安堵した。
この日以降、クロエが夜会に出る時にはフレッドがパートナーとして参加するようになった。
それでも、クロエに付きまとう虫は後を絶たなかった。
フレッドは目を光らせ、近づく男を容赦なく叩き潰して牽制しているのだが、それでもめげずに男共がクロエに接触しようとする。
潰しても潰しても、きりが無い。
(もうこれはクロエと早く結婚しなくては)
気づけばクロエももう17歳になり年頃だ。
ランディット伯爵もクロエの婚約者探しを始めようとしていると、フレッドは父ケイネスから聞いた。
フレッドも25歳となり周囲からいい加減結婚するようにせっつかれているし、宰相候補として盤石な地位を築いている。
クロエを妻に迎えても何ら問題はないのだ。
そこで、フレッドはランディット伯爵にクロエとの結婚を申し込むことにした。
ランディット伯爵邸に出向くと、ジェレミーが眼鏡の奥の目を細め、柔和な笑みで出迎えてくれた。
「お久しぶりです、伯爵」
「久しぶりだね。元気にしていたかい?」
「はい。実は今日はお願いがあって参りました」
そうして挨拶もそこそこにフレッドは本題を切り出した。
「ランディット伯爵、クロエと結婚させていただけないでしょうか?」
フレッドの申し出に、ジェレミーが目を丸くした。
「結婚!?」
「はい。私はクロエを愛しています。子供の頃からずっと好きでした。ですからクロエも立派な女性となった今、妻に迎えたいと思うのです」
フレッドの熱心な言葉に、ジェレミーは困惑した表情を浮かべた後、少しばかり思案した。
静寂が場を支配し、フレッドの背中に緊張が走る。
やがてジェレミーは徐に口を開いた。
「フレッド君がいい青年だということは良く知っているよ。だけど、僕はクロエの才能が埋もれるのはあまりに惜しいと感じている。それにあの子自身が医療魔術の研究に夢中だ。それを断念させてまで結婚させたいとは思わないんだよ」
確かに結婚してしまえば、社交も本腰で行わなくてはならないだろうし、女主人として屋敷を管理する必要もある。
だが、その程度のことでフレッドも折れるつもりはなかった。
「伯爵の懸念も理解できます。ですが、クロエには今まで通り研究生活を送ってもらえるようにしますし、研究所を辞めさせるつもりもありません。クロエを害そうとする全ての者から守ってみせます」
「そうか……。でも一番はクロエの気持ちだ。僕はあの子の意志を尊重したい。クロエは『自分の夢を叶えてくれる男性と結婚したい』と言っていた。だから、その夢を叶えて、クロエが君と結婚したいと言うのであれば喜んで結婚を許すよ」
「ありがとうございます」
こうしてフレッドは伯爵からクロエとの結婚の許可を得ることができた。だが、ここからが問題だった。
クロエの夢というのは、「隣国ラルドビアに留学させてくれる男性となら婚約してもいいと」いうものだった。
隣国ラルドビアは、閉鎖的な国だ。自国が潤っているため他国との交易を必要としていない。
また魔術科学に対しても先駆的な国のため、魔術科学を利用した国防もある。
それゆえ他国の侵略にも屈することの無い、完全無欠ともいえる国だった。
だから現時点ではラルドビアと国交を持つのは難しい状況だ。
そこでフレッドは王太子の執務補佐官と将来の宰相候補という自分の地位を駆使し、ラルドビアと国交を結ぶために行動を移した。
その鍵となるのがナグノイア侯爵だった。
ナグノイア侯爵は領地に交易拠点をいくつも持ち、自身も交易業を営み、巨万の富を築いている人物だった。
貿易業を営む兼ね合いから、侯爵は各国に人脈を有し、それはラルドビアも例外ではなかった。
同時に、ナグノイア侯爵は非常に野心家であり、ある程度のメリットを提示すればラルドビアと縁故を持てるように計らってくれることも容易に想像できた。
フレッドはそう算段し、侯爵に近づくことにした。
だがそれが、フレッドとクロエの仲に暗雲が立ち込める事態になることを、この時のフレッドは知る由もなかった。
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