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・28.エピローグ:時戻りの果て
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澄み渡る空はどこまでも高く、青い色が目に鮮やかだった。
雲一つない晴天。
頬を撫でる風は柔らかく、春の香りをクロエの元に運んで来た。
アルドリッジ伯爵邸のバラ園には色とりどりの薔薇の花が咲き誇り、繊細な白い花びらが、天使の羽のようにひらりとウエディングドレスに舞い降りた。
バラ園の一角には祭壇が用意され、笑顔の神父と、眩しそうに目を細めてクロエを見るフレッドの姿がある。
祭壇から伸びる真紅の絨毯を、クロエは父と共に一歩一歩進んで行く。
今日はクロエとフレッドの結婚式だ。
バージンロードを歩いた先にいるフレッドの元まで来ると、父ジェレミーはゆっくりとクロエの腕を解いた。
「クロエ、本当に良かった」
そう言った父の目が潤んでいるのを見て、クロエも今まで両親に育てられた日々の事を思い出し、泣きそうになってしまった。
「お父様、今まで私を育てて下さって、本当にありがとうございました。もしお父様とお母様に育てていただけなければ、きっと今の私はいないでしょう」
天才的頭脳を持って生まれた異端の子を育てることは、並大抵のことではない。
普通の子供とは異なるクロエを育てる過程で、両親にはどれほどの苦悩と心配があったのだろうか。
クロエが天才であるがゆえに「化け物」と言われ泣いた日も、優しく慰めてくれ、支えてくれた両親。
もし、二人がクロエの才能を認め、伸ばそうとしてくれなければ、今ここに自分はいなかった。
そして、クロエがその才能を潰されてしまえば、こうしてフレッドを救うことはできなかったのだ。
両親には感謝してもし足りない。
「本当に、ありがとうございました」
「クロエ、幸せにおなり。フレッド君、クロエをよろしく頼むよ」
「もちろんです。俺のすべてを賭けてクロエを幸せにすると誓います」
フレッドが頷くのを見て、ジェレミーは安心したように笑った。
こうして結婚式が始まった。
厳かな言葉で神父が式を進め、クロエはフレッドに、フレッドはクロエに、生涯の愛を誓った。
「では、誓いのキスを」
神父の言葉に促され、フレッドは神聖なものを扱うように丁寧にクロエのベールを上げた。
これまで紗に包まれていたクロエの視界が一気にクリアになり、今日の青空と同じスカイブルーの瞳がクロエを見つめる。
「クロエ、お前に永遠の愛を誓うよ。そして、俺を救ってくれてありがとう」
「私もお兄様を……」
愛していると言おうとしたクロエの唇を、フレッドが触れてその言葉を封じた。
驚いて目を瞠っていると、フレッドが悪戯めいたように笑い、窘めた。
「もう、〝お兄様〟じゃないだろう? あの日約束した通り、もうお兄様と呼ぶのは許してあげないよ」
子どもの頃のプロポーズで、フレッドが「今(・)は(・)『お兄様』って呼ぶのを許してあげる」と言っていた。
その「今」はもう終わりを告げるのだ。
「そうでした」
もうフレッドは幼馴染のお兄様ではない。
これからはクロエの夫なのだ。
それがなんとなく気恥ずかしい。
うっすらと頬を染めるクロエをフレッドは相変わらず穏やかに微笑んで見つめる。
クロエは改めてフレッドを真っ直ぐに見つめた。
「フレッド様。私を信じて下さってありがとうございました。私も愛しています」
そう、フレッドがクロエを信じてくれたから、クロエは自分を信じることができたし、諦めないでこの日を迎えることができた。
ゆっくりとフレッドの端正な顔が近づいてくるのを見て、クロエも瞼を閉じる。
と、同時に、唇にフレッドの熱を感じた。
この日を迎えるまで、二人には多くの試練があった。
互いを想う余りにすれ違い、傷つけ合った時もあった。
想いを交わしてからも、病という障壁が二人の前に立ち塞がった。
悩み、絶望した日々もあったが、それを乗り越えて、こうして二人で愛を誓うこの瞬間を迎えられたのは奇跡だとクロエは思った。
(時戻りをしてよかった)
フレッドのことを諦めずにいて、本当に良かった。
「ようやく捕まえた、僕の妖精」
ゆっくりと唇を離したフレッドが、囁くように、でも確かな熱を込めて言った。
クロエもまた幸せの涙に滲む瞳でフレッドを見つめ返し、満面の笑顔を浮かべた。
その時、どこからともなくアロイスの声が聞こえた。
『おめでとう、クロエ』
そして時の神の祝福が、一陣の風となってバラ園を吹き抜け、舞い上げられた花びらが青い空に舞う。
その光景をクロエはアロイスへの感謝を込めて見つめたのだった。
雲一つない晴天。
頬を撫でる風は柔らかく、春の香りをクロエの元に運んで来た。
アルドリッジ伯爵邸のバラ園には色とりどりの薔薇の花が咲き誇り、繊細な白い花びらが、天使の羽のようにひらりとウエディングドレスに舞い降りた。
バラ園の一角には祭壇が用意され、笑顔の神父と、眩しそうに目を細めてクロエを見るフレッドの姿がある。
祭壇から伸びる真紅の絨毯を、クロエは父と共に一歩一歩進んで行く。
今日はクロエとフレッドの結婚式だ。
バージンロードを歩いた先にいるフレッドの元まで来ると、父ジェレミーはゆっくりとクロエの腕を解いた。
「クロエ、本当に良かった」
そう言った父の目が潤んでいるのを見て、クロエも今まで両親に育てられた日々の事を思い出し、泣きそうになってしまった。
「お父様、今まで私を育てて下さって、本当にありがとうございました。もしお父様とお母様に育てていただけなければ、きっと今の私はいないでしょう」
天才的頭脳を持って生まれた異端の子を育てることは、並大抵のことではない。
普通の子供とは異なるクロエを育てる過程で、両親にはどれほどの苦悩と心配があったのだろうか。
クロエが天才であるがゆえに「化け物」と言われ泣いた日も、優しく慰めてくれ、支えてくれた両親。
もし、二人がクロエの才能を認め、伸ばそうとしてくれなければ、今ここに自分はいなかった。
そして、クロエがその才能を潰されてしまえば、こうしてフレッドを救うことはできなかったのだ。
両親には感謝してもし足りない。
「本当に、ありがとうございました」
「クロエ、幸せにおなり。フレッド君、クロエをよろしく頼むよ」
「もちろんです。俺のすべてを賭けてクロエを幸せにすると誓います」
フレッドが頷くのを見て、ジェレミーは安心したように笑った。
こうして結婚式が始まった。
厳かな言葉で神父が式を進め、クロエはフレッドに、フレッドはクロエに、生涯の愛を誓った。
「では、誓いのキスを」
神父の言葉に促され、フレッドは神聖なものを扱うように丁寧にクロエのベールを上げた。
これまで紗に包まれていたクロエの視界が一気にクリアになり、今日の青空と同じスカイブルーの瞳がクロエを見つめる。
「クロエ、お前に永遠の愛を誓うよ。そして、俺を救ってくれてありがとう」
「私もお兄様を……」
愛していると言おうとしたクロエの唇を、フレッドが触れてその言葉を封じた。
驚いて目を瞠っていると、フレッドが悪戯めいたように笑い、窘めた。
「もう、〝お兄様〟じゃないだろう? あの日約束した通り、もうお兄様と呼ぶのは許してあげないよ」
子どもの頃のプロポーズで、フレッドが「今(・)は(・)『お兄様』って呼ぶのを許してあげる」と言っていた。
その「今」はもう終わりを告げるのだ。
「そうでした」
もうフレッドは幼馴染のお兄様ではない。
これからはクロエの夫なのだ。
それがなんとなく気恥ずかしい。
うっすらと頬を染めるクロエをフレッドは相変わらず穏やかに微笑んで見つめる。
クロエは改めてフレッドを真っ直ぐに見つめた。
「フレッド様。私を信じて下さってありがとうございました。私も愛しています」
そう、フレッドがクロエを信じてくれたから、クロエは自分を信じることができたし、諦めないでこの日を迎えることができた。
ゆっくりとフレッドの端正な顔が近づいてくるのを見て、クロエも瞼を閉じる。
と、同時に、唇にフレッドの熱を感じた。
この日を迎えるまで、二人には多くの試練があった。
互いを想う余りにすれ違い、傷つけ合った時もあった。
想いを交わしてからも、病という障壁が二人の前に立ち塞がった。
悩み、絶望した日々もあったが、それを乗り越えて、こうして二人で愛を誓うこの瞬間を迎えられたのは奇跡だとクロエは思った。
(時戻りをしてよかった)
フレッドのことを諦めずにいて、本当に良かった。
「ようやく捕まえた、僕の妖精」
ゆっくりと唇を離したフレッドが、囁くように、でも確かな熱を込めて言った。
クロエもまた幸せの涙に滲む瞳でフレッドを見つめ返し、満面の笑顔を浮かべた。
その時、どこからともなくアロイスの声が聞こえた。
『おめでとう、クロエ』
そして時の神の祝福が、一陣の風となってバラ園を吹き抜け、舞い上げられた花びらが青い空に舞う。
その光景をクロエはアロイスへの感謝を込めて見つめたのだった。
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