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藤の花の季節に君を想う

闇から見ている者③

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(よし、間合いに入った!!あとは攻撃すれば!!)

攻撃の出来る間合いに入るタイミングで暁は、更にもう一枚の護符を取り出す。
しかしその暁の行動に焦った狐の妖は暁に体を向けたかと思うと、暁の背を超えるほどに跳躍した。
思わず見上げると、狐の白く長い毛が青色の炎になり、そのまま急降下してきた。

(避けきれるか?!)

暁には術を2つ同時に繰り出す技術は無い。
攻撃に転じようとしていたこのタイミングでは盾の守りはないのだ。だがもう遅い。一瞬考えたがすぐに攻撃の術を繰り出した。

「急々如律令!」

暁は短く叫んで護符を投げるとそれは光の矢になって狐に向かう。だが狐の落下は止まらず青い炎をまとった狐の顔がすぐそこまで迫っていた。
息を飲む。
このままでは自分は焼け死ぬだろう。
だがそれは杞憂に終わった。
暁の目の前で狐の妖は形を失い闇に溶けるように消えていく。

「闇に…還ったかかな」

暁は大きく息を吐きながら小さく呟いた。
まるで先ほどの戦いが嘘だったかのように静寂が戻る。
暁も息を整えると張りつめていたものがなくなり、スッと体から力が抜けた。

「吉平!!」

ハッと我に返り吉平を探した。
自分のことばかりに気を取られてしまっていて吉平の無事を確かめている余裕がなかった。
右に左に視界を移動させれば、地面にはまだ燃え残っていた青い炎が小さいながらもゆらゆらと揺れ、砂を焼いていた。
その炎に照らされるように吉平がペタンと座っている。それを認めると暁は急いで駆け寄った

「吉平!!無事だった?」
「あ…あ…暁…」
「大丈夫?どこも怪我してない?」
「うん…」
「大丈夫?顔色悪いよ?穢れにあてられてない?」
「大丈夫だよ…それより…ごめん」

暁は吉平に手を伸ばすと、吉平はその手を取ったのでそのまま引き上げた。
ようやく吉平が立ったと思うと少し青ざめが顔色をしたまま謝罪の言葉を口にする。
だが、正直言ってなぜ吉平が謝っているのか、暁は心当たりがなく思わず首を傾げた。

「なに?えっ?なんで謝るの?」
「だって…僕、何にも役に立て無かったから。」
「いやいやごめん。私こそ自分の身を守ることで精一杯だったし。でも無事に祓えてよかった」

別に妖に遭遇することは普通だったが、いつもはこんな遅い時間の夜道を歩くことはなかったし、場合によっては金烏や玉兎がお供についてきてくれていたから安心して外出していた。
なんにせよ、そんなに強い妖ではないのは幸いだった。

「とりあえず帰ろっか。顔色悪いから家まで送ってく?」

心配そうな顔の暁の誘いを吉平はを断った。

「ううん…僕の家まではすぐだから大丈夫。一応守りの香も持っているし」
「あぁ、そっか。お香があれば邪気も祓えるしね。…それにしても吉平ってお香に詳しいよね」
「うん…唯一の趣味かな?僕は運動神経も良くないし、教養も高いわけでもないから。」

少し自虐的にも取れる発言だったが、暁は吉平が何を言わんとしてるのか理解できずきょとんとした。

「えーでも吉平は凄いよ。私はお香なんてさっぱりだし。守りの香があればこんな風に妖に遭遇する確率も減るから便利だなぁとは思うけど」
「じゃあ、僕の匂い袋あげよっか」
「えっ?でもそうすると吉平のなくなっちゃうよ?」
「ちょうど同じのを2つ持っているんだ。」

そういって吉平は懐から匂い袋を2つ取り出した。
確かに同じ白地に金の刺繍の入った袋に、やはり同じ匂いがする。

「ありがとう…」

吉平からそれを受け取ると暁はじっとそれを見つめている。不審に思った吉平が声をかけると、暁は満面の笑みで顔を上げ吉平を見つめた。
あまりにも嬉しそうな笑顔を向けられて、吉平は思わず赤面してしまった。

「お揃い…お揃いだね!!」
「そうだね…」
「私、友達からお揃いのものって貰ったことないから…すっごく嬉しい!!」
「そんなに喜んでもらえると、逆に恐縮してしまうな。そんなに大したものじゃないし」
「ううん!!ありがとう!!」

ぴょんぴょんとその場でジャンプしそうな暁を見て照れながら吉平は言った。

「じゃ、僕、帰るね。気を付けて帰って」
「この匂い袋があるから大丈夫!じゃあおやすみ!!」

暁は手を振って吉平と別れると家路を足早に進んでいった。
すると目の前に音もなく金烏が現れる。

「金烏!?どうしたの?」
「いや、結構帰りが遅いから心配になってさ。」
「あ、連絡入れないでごめんね。」
「大丈夫だったか?変な妖なんかに絡まれなかったか?」

過保護すぎる式神2人は少し遅くなるとこうして迎えに来てくれることが多かったが、たまに妖に遭遇して祓うことになると
「なんで俺を呼ばなかったんだよ!!危なくなったら召喚しろよな!!」
とどやされることもしばしばだ。
そんなに心配にならなくてもある程度なら祓えるし、逆に金烏達の手間になるので遠慮してしまうのだが、がいつまでたっても金烏達にとっては頼りない子供という認識のようで逆に彼らの心配を煽っているようだ。
だから暁は金烏の問いに曖昧に答えるが、何となく睨まれているのは気のせいだろうか。

「とりあえずお腹空いた!!帰ろう!!」

金烏野表情は見ないように、過保護な式神を促して家に帰ることにした。
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