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嫌な記憶
しおりを挟む少女が階段を上りきるのを見送ると、外の様子を確認し先程の音の発生源を探る。
感覚を研ぎ澄ませ、こちらに害が及ばないと判断出来る迄窓際から動かず景色を凝視する。
数分間伺い、問題がないと答えを出したロギアはリビングの椅子にどっと背中を預けバッグの中から自分達が今いる所の周辺の地図を取り出した。
もう使い古された地図には公共施設や、その他の建物の多くにバツ印が付いており、その直ぐ横には日にち、時刻が細かく記載されていた。
ボールペンを取り出し、今日立ち寄った数か所の建物にバツ印をつけていく。
そして昨日に引き続き、ロギアは自身の記憶を探り地図を注意深く見回した。見落としが無かったか、他にも隠れられそうな所が無いかを。
「……クソッ」
離れ離れになった相方を探し続け捜索個所に目印をつけていく、ここ数日間はこの繰り返しだった。
勿論、捜索しているのが人間である以上、一カ所で留まる何て事はしない為この行為自体意味があるのかは疑問だったがそうでもしなければロギア自身不安が払いのけられず落ち着かないのだ。
バツ印だらけになった地図を眺めながらロギアは嘆息した。
「ここも、駄目か……」
ロギアはきつく唇を噛み瞼を閉じた。嫌な記憶が頭の中で繰り返される。
――――対応出来る訳ない。
それは突然の出来事だった。
世界に異変が起こり始めた時、ロギアと相方である少女《水美夏夜》はその異常事態に対処出来る訳もなく避難所に訪れていた。しかし安易に大勢の人が集まっていた所に行った選択が最悪の原因となる。
感染者が民衆の中に紛れ込んでいたらしく、唐突に悲鳴が上がり始めさながらパニック映画のごとくその場に大混乱を引き起こした。
「掴まれ!!」
散り散りにならない様必死に伸ばした手がお互い触れる事が無くどんどん離れていく。
「クソッ! どけ!」二人は人混みにもみくちゃにされながらも、何とかそれを押し退け、怒鳴り、必死に手を伸ばす。
「ロギッ!」
水美夏夜も叫び、身体を無理矢理にでもロギアへと近づけさせようとするが、パニックになった人の流れには逆らう事叶わず更に声も周りに搔き消され聞こえない。
悲鳴、怒声、泣き声、様々な音が混じったこの空間では会話や自身の意思表示すらまともに相手に伝わらない。人の濁流は瞬く間に二人を呑み込み二人の道を引き裂いていく。
「「――――――ッ!!」」
両者共に口の動きさえも人混みによって捉えられず、その状況に絶望した。
お互いの手を伸ばす、水美夏夜の青ざめた表情が頭から離れない。
ロギアはボールペンを置き、両手で顔を覆う。
抵抗すら出来なかった。今では過去を顧み悔やみ続ける事しか出来ない。
ただこんな世界になってしまった以上何時迄も悔やみ続ける時間なんて無駄以上の何物でもなかった。【少女は生きている】たったこの一つの希望にかけて探し続けるしかないのだ。
その為に今、ロギアが出来る事――――
今、何をなすべきか――――
今、何をなさないべきか――――
少女との【約束】。
“今は何をすべきか”
ロギアはそう自らの胸に問いかけながら頭に浮かぶ後悔を振り払いゆっくりと瞼を開け、次の日に向け最後になるであろう部屋の片付けを始めた。
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