Ninfea

蠍ノ 丘

文字の大きさ
12 / 78

嫌な記憶

しおりを挟む
 
 少女が階段を上りきるのを見送ると、外の様子を確認し先程の音の発生源を探る。
 
 感覚を研ぎ澄ませ、こちらに害が及ばないと判断出来る迄窓際から動かず景色を凝視する。

 数分間伺い、問題がないと答えを出したロギアはリビングの椅子にどっと背中を預けバッグの中から自分達が今いる所の周辺の地図を取り出した。
 もう使い古された地図には公共施設や、その他の建物の多くにバツ印が付いており、その直ぐ横には日にち、時刻が細かく記載されていた。
 ボールペンを取り出し、今日立ち寄った数か所の建物にバツ印をつけていく。 

 そして昨日に引き続き、ロギアは自身の記憶を探り地図を注意深く見回した。見落としが無かったか、他にも隠れられそうな所が無いかを。

「……クソッ」
 離れ離れになった相方を探し続け捜索個所に目印をつけていく、ここ数日間はこの繰り返しだった。

 勿論、捜索しているのが人間である以上、一カ所で留まる何て事はしない為この行為自体意味があるのかは疑問だったがそうでもしなければロギア自身不安が払いのけられず落ち着かないのだ。

 バツ印だらけになった地図を眺めながらロギアは嘆息した。

「ここも、駄目か……」
 ロギアはきつく唇を噛み瞼を閉じた。嫌な記憶が頭の中で繰り返される。


 ――――対応出来る訳ない。


 それは突然の出来事だった。

 世界に異変が起こり始めた時、ロギアと相方である少女《水美夏夜》はその異常事態に対処出来る訳もなく避難所に訪れていた。しかし安易に大勢の人が集まっていた所に行った選択が最悪の原因となる。

 感染者が民衆の中に紛れ込んでいたらしく、唐突に悲鳴が上がり始めさながらパニック映画のごとくその場に大混乱を引き起こした。

「掴まれ!!」
 散り散りにならない様必死に伸ばした手がお互い触れる事が無くどんどん離れていく。

「クソッ! どけ!」二人は人混みにもみくちゃにされながらも、何とかそれを押し退け、怒鳴り、必死に手を伸ばす。

「ロギッ!」
 水美夏夜も叫び、身体を無理矢理にでもロギアへと近づけさせようとするが、パニックになった人の流れには逆らう事叶わず更に声も周りに搔き消され聞こえない。

 悲鳴、怒声、泣き声、様々な音が混じったこの空間では会話や自身の意思表示すらまともに相手に伝わらない。人の濁流は瞬く間に二人を呑み込み二人の道を引き裂いていく。

「「――――――ッ!!」」

 両者共に口の動きさえも人混みによって捉えられず、その状況に絶望した。


 お互いの手を伸ばす、水美夏夜の青ざめた表情が頭から離れない。
 ロギアはボールペンを置き、両手で顔を覆う。

 抵抗すら出来なかった。今では過去を顧み悔やみ続ける事しか出来ない。

 ただこんな世界になってしまった以上何時迄も悔やみ続ける時間なんて無駄以上の何物でもなかった。【少女は生きている】たったこの一つの希望にかけて探し続けるしかないのだ。


 その為に今、ロギアが出来る事――――

   今、何をなすべきか――――

   今、何をなさないべきか――――

   少女との【約束】。

 “今は何をすべきか”

 ロギアはそう自らの胸に問いかけながら頭に浮かぶ後悔を振り払いゆっくりと瞼を開け、次の日に向け最後になるであろう部屋の片付けを始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...