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銃の使い方
しおりを挟むショッピングセンターの窓は全て壊れており、入口付近にあるエスカレーターも止まっていた。怪物が割れた窓から入って来ない様に割れた箇所には内側から板で補強されている。板と割れたガラスから日の光が入っている事もあり、ショッピングセンター内部はそこまで薄暗くは無く、誰かが来ても直ぐに分かる場所だ。
「不気味……」
アリアは建物を見上げながら呟いた。ロギアはショッピングセンターの入口手前まで来るとしゃがみ込み設置されているであろう罠を探し始める。
「アリア、いつでも武器が使えるよう準備だけでもしておいてくれ」
ボウガンを準備しながら傍を歩く少女に声をかけた。
「……どうかしたの?」
「仕掛けておいた罠が起動していた。一応その原因は見付けたが念の為だ」
「原因?」
アリアは周囲を見回し数メートル先にボロボロになった男の死骸とその直ぐ隣に割れた酒瓶が転がっているのを確認する。
「安全じゃないって事……? それなら他の場所に移動した方が……」
「いや、そういう訳にはいかない。一応ここには緊急用としてコロニーの連中が様々な工具を置いる所だ。一々工具を持ち運びするのが面倒、一部の未だに性善説に拘る平和ボケした連中の馬鹿々々しい案だったが……それがこんな形で役に立つとは思わなかったな、それを使えば直ぐにでもアタッシュケースを開ける事が出来る、多分な……」
ロギアがそう決めた以上ただ後を連いて行っているアリアからしたら何も言えない。
「うん……」
アリアは頷くと慣れない手つきで数分前にロギアから渡された拳銃を構える。
正直にまだ会ってまだ数時間だと言うのに拳銃を渡され、こんな状況になるとは思いもしていなかった。
――――数分前
「最低限の身の守りの為に必要だ」それだけ言うと、あろう事かロギアは拳銃をアリアに差し出した。
「け、拳銃?」
アリアは戸惑いながらロギアと拳銃を交互に見ていると「ボウガンは使えないだろ?」とロギアは信用しきっていない相手に対し武器を渡す事に関しては全く気にしてはいない様子だった。
「わ、私……会ったばかり……だけど……」
「ああ、そうだな」視線はアリアでは無く周囲へと向けられ、単調で短い返事。
「ぁ……」アリアは差し出された拳銃を受け取ろうとせず、どうしたら良いのか結論が出ずに俯いた。
「さっきも言ったがこれは最低限の身の守りの為だ。子守狼じゃあるまいし俺もずっと見てる訳じゃない。現状、何が起きるか分からない以上、万が一にもあるかもしれんからな一応その時の為に持っておいた方がいいだろう?」
「でも拳銃って……」
「ナイフで自分の身を守れるのか?」
アリアのまごまごしている状況に耐えかねてロギアは淡々とそう告げた。
「それは……無理、だと……思う……」俯いたまま首を振って答える。
ロギアは溜息をつきながら「だから拳銃を渡してるんだ、構えて狙って撃つだけだ。敵に近付く必要は無いし、仮に撃つ場面が来たとしても相手が人間の場合は牽制にもなる。上手く命中した時にも良い足止めにもなるからな。――どうだ、納得したか?」と首を傾げた。
「ん……い、一応……」軽く頷いたもののロギアの言っている事はアリアにとっては簡単な事じゃなかった。それに――まだ大きな疑問について言ってはいない。
「……何で? 警戒、しないの……?」
勿論これは武器を渡す事に関しての質問でアリアにとって大きな疑問だった。
「警戒はしている……ただ今までのお前の少ない言動や行動を見る限りでは無いなと思っただけだ」
「それ、だけ……なの?」
「ああ、それだけだ。まぁ……寝首をかかれた時はその時にならんと分からんからな」
ロギアのその如何にも楽観的な考えに驚き目を見開いた。最悪命に関わる事なのだ。
「何だ? 後ろから撃つ気でいるのか?」ロギアがからかう様に言いアリアはふるふると顔を横に振るう。「ま、まさか……そんな事しないよ……」
「なら、サッサとしてくれ」
頭の中で次から次へと浮かぶ疑問について思考していると、ロギアの言葉と共に半ば強引に拳銃を手渡され、アリアは戸惑いつつも反射的に顔を上げる。
「……あ、ありが――と――」
アリアは思考していた事は取り敢えず頭の隅に置き、今はなるべく声を出し、目の前の相手に感謝を伝えようとしたが――――
「んおッ!? おい、銃口をこっちに向けるな!」
お礼を言う所かそれを遮られ、逆に怒られてしまった。
「あ……ご、ごめんなさい」
慌てて銃口を下に向ける。
「ひょっとして……銃を使った事が無いのか?」
アリアは勿論使った事が無かった。日本で暮らしている事もあり拳銃とは全くもって関わりは無いし、見た事も――施設に居た時ぐらいだ。
「無い、です……」先程迄の声を出す事が頭から飛んで行き、「だって此処、日本だし……」その言い訳の為に放った声はかなり小さく、やっぱりその声も尻すぼみしていった。
その後に少しのレクチャーを受けて今にいたる。
「見張りは……やっぱり居無さそうだな……」
ロギアはショッピングセンターに入ると周囲を見回しそう呟いた。その直ぐ後ろをアリアが落ち着かない様子で辺りをキョロキョロしながら連いて来る。
二人は入口付近にあるエスカレーターを上り二階の婦人服売り場に向かった。
「ここは?」
アリアは周囲を見渡して呟いた。
「まさか、その部屋着のままでいる気か? それは勘弁してくれ、その場しのぎで渡した奴だ。ここならその服よりはマシな奴がある、何か動きやすい服を見繕っていてくれ。品質は最悪だが……この際贅沢は抜きだ」
ロギアに指摘されアリアが自分の格好を見て、昨日は気付かなかったがその地味さと動きにくい姿に思わず言葉に詰まった。
「その間に俺はアタッシュケースを開けるよう最善の手を尽くすつもりでいる。正直二手に別れるのは悪手だが、さっき見慣れない【鳥】が飛んでたからな……」
「見慣れない鳥?」
「ああ、急ぐに越したことはないし、なるべく早く此処を出たい」
「で、でも……その、も、もし出くわしたりしたら……」
「いざとなったら拳銃があるだろ、もし相手が接近する迄に俺が間に合わなかったのならその時はその引き金を引けばいいだけだ、相手が感染者でも人間でも銃さえ撃てば流石に多少の時間は稼げるだろ」
「……んぅ……分かった」ロギアの言葉にアリアは何も反論出来ずこくりと頷いた。
アリアがアタッシュケースの中身にそれ程興味を示さなかったのはそこまで驚く様な事では無かった。
“中身は彼女自身が体験した事だろうから見なくても想像がつくのかもしれない、それか見たくないのかもしれない。それに俺に対して信頼を少しでも得る為にアタッシュケースの中身が必要なだけで、中身は俺一人が確認すれば良いだけだ”
二階フロアの隅、靴屋だった店のレジへと移動すると、奥からコロニー共用の金庫を見付け、中から工具箱を引き摺り出した。
「さてと……こんなので開くと良いが……」
アタッシュケースをレジの上に置くとロギアは早速ロック解除作業に取り掛かった。
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