Ninfea

蠍ノ 丘

文字の大きさ
19 / 78

感染者の正体

しおりを挟む

 資料に目を通していると二○四九年、アウトブレイクが起きるよりも数年以上も前の物から記載されており、ロギアはこの実験が始まったきっかけよりも先に実践で直ぐに必要になる奴等、寄生虫の事が書かれているページ迄めくる。

「これか……」数ページめくり、目当てのページに辿り着くと読みにくい文書に目を通す。

 【寄生虫について】 

 陸・海・空の恒温動物に寄生し脳内の分子構造を改造している事が明らかになっており、人に寄生すると様々な健康被害を引き起こし、性格を歪めてしまう個体もいれば文字通り恒温動物を《乗っ取る》個体も多数確認されている。

 他にも、身体の外側から中へと食べ進む性質。身体の内側から外へと食べ進む性質。

 等々今までに様々な特徴を持つ個体をも発見されており、等脚類の形をしたもの迄確認されている。この等脚類は幼虫から八時間で成虫になるという異常な速さで成長。

 寄生虫の感染経路は接触した恒温動物の傷口から侵入して来る事が判明している。

 感染直後、無性生殖で体内全体に繁殖し、初期段階では不快感や寒気、熱、感染箇所の腫れ、発疹等の症状を引き起こし、重度の障害が残るケースも確認されており、寄生虫に栄養を取られている為かその後食欲が増す。

 意識も最初の内はしっかりとあり、言葉も話せるが、徐々に朦朧となり、言葉さえ喋れなくなる。最終的に身体の自由がきかなくなり、寄生虫によって操作される事になる。

 特例だが宿主の体内に潜伏すると繁殖しやすくなる様環境を形成する個体もいる。寄生虫が環境を形成する際宿主は寄生虫が持つそれぞれの特性が移り、寄生される以前よりも身体能力が大幅に上昇する。文字通り身体が乗っ取られ、意識が喪失する前までは身体能力は上昇し続け――――――

 恐怖――――それがこの部分を見て感じた事だった。

 “確かに……似た様な寄生生物がいた様な記憶はあるが、それとは全くの別物と考えた方が良さそうだな”

 この資料に記載されている生物については絶句せざるを得なかった。この資料に書かれている事が全て事実だとしたらコロニーについても必ずしも安全だとは言えなくなる。それどころかよく今迄襲われる事なく無事だったと称賛する程だ。

 脳裏に自らの父親『セルゲイ・オルバース』の顔が過った。

 確かに決めた事に対して突き詰めていく集中力と今まで作り上げていた研究、その姿勢に関しては尊敬に値するかもしれないが、何故この寄生虫の事を知っていて世論に公表しなかったのか、公表はしなくてもせめて各国の政府にだけでも伝えていれば此処まで取り返しのつかない世の中にはならなかっただろう。その事に関して自らの父親に対する不信感が募る。

 父親に関しては理解しがたい価値観やフィクション作品の様にとんでもない願望を持っているという雰囲気は十何年一緒に居て全く感じなかったし、それどころか様々な国の常識をわきまえていて、この国、日本にも多くの知り合いがおり内向的とは真逆の人間でとてもだがマッドサイエンティストだったとは思わなかった。

「結局の所、一番近くにいて気付かなかった――気付けなかった俺も――」資料を持つ手に力が入り、歯を食いしばる。

 寄生虫に関して大体読み終わると、資料は手前から古い順に重ねてある事に気付いた。ロギアは比較的に新しい実験。後ろの方から読み始めると予想通り早速アリアの受けて来た実験に関する物が目に飛び込んで来た。

 切断、臓器摘出、食事断絶……等々どれもこれも普通なら死んで当然な物ばかりだった。 

 いくら人類の為だからと言っても、いや、人類の為は単なる名ばかりで行き過ぎ手遅れ状態の捻じれ曲がった趣味を持つイカレタ集団による研究、いや拷問は到底許せる筈も無い。

 “だがこれでヘリコプター墜落でもアリアだけが生き残った理由が分かった”

 彼女は寄生虫の特性を受け継いでいるからこそ爆発に巻き込まれてもその再生能力で無事でいられ、ここに記載されている通り『死ねない』のだ。ただその事で問題点が見付かった。人間として失った細胞はアリアの中にいる寄生虫の細胞で全く同じ様に再生する。

 何度も実験を行い続けた結果、果たして彼女は今【人間】なのか?

 “この書類を見た限りではアリアと一緒にいるのはかなり危険だ……そうだとしても、まだ内面、精神の面では会話が通じるし反応や変化は小さいが表情に関しても人間だ“

「仕方ない、か……」

 他にも目を通しておきたい物が多くあったが取り敢えず今はアリアと行動を共にすると決めた以上、直ぐに判断の結果を伝えとにかく安全な場所へと移動しアリアを捕えようとする追手に備えないといけない。

 “他の資料を読むのはそれからでも出来る……ただ、今の段階では確認しきれていないだけかもしれないがこれだけの経験をしたらアリア自身既に壊れていても可笑しくない”

 ロギアはアリアに単独行動をさせてしまった事に後悔しつつ、資料と注射器をアタッシュケースにしまうとアリアを探しに婦人服売場へと向かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...