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交渉
しおりを挟む「でも――貴方に私達の安全は保障出来ない」
アリアは男の目を見て、遮るかの様に冷たく言い放つ。
「……ほぅ、そりゃぁまた、何故?」
男の問いにアリアは直ぐにどう答えれば良いのか浮かばず視線を逸らすが、直ぐに顔を上げ男を視界の中心に捉える。そして声を絞り出すかの様に言葉を続けた。
「本当に安全な場所がある、のなら……私達の安全が保障出来る程の権限を持つ人がわざわざ自らを危険に晒して迄こんな所まで来ない……それに、貴方がどういう立場なのか、分からない……けど貴方は権限を、持ってそうに……見えない……」
「ははは、権限持ってそうに見えない、か。ん~傷付く、だが、まぁ確かにな。見えんな」
男は若干納得したかの様に大きく頷き自身の顎を触る。
「そうだな……どうしたら納得出来る?」
さっき迄のおちゃらけた雰囲気とは違い声音、真っ黒い眼光だけは別物だった。
「え?」
余りの雰囲気の変貌っぷりにアリアが追い付けずにいると、「お嬢ちゃん、この先このままの状態で誰かの助けが全く無い状態で生き残る算段はあるのか? 言っちゃなんだがお嬢ちゃんは自分でも理解出来る通り色んな奴から狙われているし、それ以外にもこの外には危険なら山ほどある」
男がそう言うとアリアは何も言い返せず浅く唇を噛んだ。
「確かに、安全、食料も豊富ときたら如何にも嘘っぽいパニック映画によくある話だな。大抵その手の施設やら何やらはその主人公達にとっては真逆ってイメージが確かに強くある。それに本当にオレが言った通り安全だったとしてもちょっとした不注意で崩壊するって物語が多いから疑いたくなる気持ちも分からんでは無いが……それは話を面白くする創作物の話だ。だから正直言って、オレがその創作物的な概念を排除する様な物を今ここで証明する、だなんて事は出来ない」
「――――ッ!!」
男はアリアから目を逸らす事無く冷たい声音で告げた。
「まぁ、当然だろ? 一応……手持ちにある水や食料ならいつでも見せてやれる訳だが、何せ持ち運びにも限度ってもんがある」男はそう言うと自分のポーチから水と食料を取り出しアリアに分かるように腕を上げる。
「今の世界では相対している人間が嘘をついているかいないか、は自分で判断しなくちゃならない。交渉事で他人に欺かれる事があったとしたらそれは自分の責任、と言う事だな」
いくらか間をあけて男が頷くとアリアの顔を見る。
「こう言っちゃあ何だが……一応オレの方には他にも直属の奴等が二人程いる、新人な。で、そいつらには手出し無用だと伝えてあるし、この場からは離れて貰ってる。だからこれは正真正銘、一対一の交渉事だ」
男はアリアから目を逸らさず、押し黙るアリアに目を細め少し間を取ってから告げた。
「オレに関しては出来る限り情報は出した。仲間の数、携帯している食料。そして見て分かる通り、所有している武器。さて……出来ればこの提案を聞き入れて欲しいんだが……この話しに乗るか乗らないかはお嬢ちゃん次第だが?」
男は警戒心を解こうとしているのか、あっさりと自分達の情報を話し二カッと口元を緩めた。
確かに情報は得た、ただ――アリア個人だけでは到底判断出来る様な事では無かった。
そもそも男には自分を連れて行くと言う任務がある訳で、それを前提で考えると例えここでこの提案を拒否しても見逃してくれるだなんて事はありそうも無い。
男は任務と言ってはいたがアリアは今存在している組織や団体に関しての知識は全く無く、それどころか今の世界の事、自分の事すら余り把握、理解出来ていないのだ。その事もあってか男の言う事に困惑し気圧され、アリアは何も言い返せずにいた。
「考える……時間が欲しい……」
やっと出た言葉がそれだった。どのみち結果は決まっているかもしれない。自分勝手な事を承知で自らの希望を言う事しか出来なかった。
「……」
喉を震わせ息を呑む。もし相手が待ってくれなかったら、そんな考えが頭を過るが昨日から起こり続けた出来事の連続で既に思考がパンクしそうだった。
「まぁ……別にオレの方は待っても平気だが、本部の他の連中はこの提案事態何て知りもしねぇし、言ったとしても自分の手柄優先で聞いちゃあくれねぇぞ? 多分」
男が言うとアリアは“やっぱり……”そんな風に思うしかなかった。
「まぁ、確かに。このまま会話を続けても流石に埒が明かないし、やっぱり一人じゃ判断出来ないか……」
アリアの反応を見て男が頷いてから口を開く。
「時間ならやるつもりだ。言ったろオレは出来る限り話し合いで決める平和主義者だ。だが状況が状況なだけに流石にそう何十分も待てねぇがこういう事はきちんと考えろよ、ただ――――出来る限りこの場で、決めてくれ?」
「この場で――決める――――?」
男の言う平和主義者発言に一瞬気が緩んでしまっただけに後半の衝撃は大きかった。アリアは俯き混乱する頭で必死に考えるが、先程と同じ様に直ぐに行き詰まり何も言えず辺りが静まり返る。
「あぁ、あと――【クリスティアナ】と言う女性……どんな事でも良い、それを訊いて何か思う所はあるか?」
男からの唐突な質問に頭の中の思考が停止するが直ぐに首を左右に振る。
「し、知らない……ッ!」
アリアは男の動きを注意深く凝視しながらもその間に必死に頭を動かす。
「そうか知らない、かぁ……」
男はその答を訊きどう思ったのか項に手を置き空を見上げながらそんな風に呟いた。
“考えて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて……何かしないと、何かしないと――”
壊れた機械の様に何度も同じ言葉が頭を巡り、それが更にアリアを追い詰めていく。
「ぁ――――――――」
言葉が出ず、やっと開いた口から声が漏れたその時――――
この場にいない何者かの怒声が響いた。
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