Ninfea

蠍ノ 丘

文字の大きさ
26 / 78

乱入者

しおりを挟む
「ああああああッむしゃくしゃすんだよッ! ウジウジ考えてもどうせ俺達に付いて来る事しか選択肢はねぇんだからとっととキメロヤァぁ!」

 目の前にいる男の物とは違う、ロギアの物でも無く全く聞き覚えの無いドスのきいた声が響きアリアの身体が飛び跳ねる。

「――な、何!?」

 驚きと戸惑いの表情を浮かべながら視線を動かすと、男の仲間と思われる人影が二つ建物の影から飛び出して来る。

 一つは先程の乱暴な物言いをしていた方だろうか、目の端が吊り上がり敵意を剥き出しにしている眼光、金髪でツーブロックの髪型、頬には抉り取られたかの様な傷痕。目の前の男と比べて体格は小柄でやや細いが、全身からは獰猛で近寄りがたい雰囲気を垂れ流していた。

「ご、ごめんなさい橘(たちばな)隊長! ユズルが静止も聞かず飛び出してしまって――」

 その直ぐ後ろを似た様な背丈の女性が慌てた様子で駆けて来る。胸より少しばかり上の長さ程ある茶褐色の髪が風に揺れる。そしてアリアと視線が重なった。

「た、橘隊長……この子、ですよね?」その視線が目の前の男へ向けられる。

 三人に注目されアリアは数歩後退り、倒れているロギアへと顔を向ける。

 “ど、どうしたらいいの……ロ、ロギ――”

 突然の乱入者にアリアが茫然自失としていると橘隊長と呼ばれた男が頭を掻きながら溜息をついた。

「……お前等。何故出て来た? ってか台無しじゃねーか……はぁ」

 橘隊長と言われた男は呆れ切った様子で言い放つとアリアの方に気まずい顔を向けた。

「だって、おせーんッスよ、隊長は。ちゃっちゃっと対象物を回収して、とっとと帰りたいんッスよ、俺」

「馬鹿っ!」ユズルと呼ばれた人物を一緒に出て来た女が一喝し、後ろから引っ叩く。

「痛ってえぇ!? な、何すんッスか! 水琶(みずは)先輩」

「言葉遣い! それと……ユズル! 貴方のせいで隊長の考えも台無しだし、すっかり彼女に警戒されちゃってるじゃない」

「いや、いやいやいやいや、俺関係無いッスけど? まともで当然の事を正直に言っただけッスよ。どっちかと言うと先輩が出て来た時にアイツ後退りしたッスよ?」

 二人は今の状況をそっちのけで言い争いを始め、橘隊長と呼ばれた男は息を吐きながら空を仰いだ。「おいおい、お前等ぁ……ややこしくすんなって……」


 “騙された――――――――ッ!!”

 その現実を受け止める事しか出来ずアリアの頭から血の気が引いていく。

『そいつらには手出し無用だと伝えてあるし、この場からは離れて貰ってる。だからこれは正真正銘、一対一の交渉事だ』男の言葉が脳内で再生される。

 “一対一での交渉事、この場から離れて――男が言っていた事が嘘だった……もしかすると仲間が来る迄の時間稼ぎだったのかもしれない……私――――――”

 他人に対して警戒している筈だったのにこんな単純な事に騙されてしまうなんて、アリアは自身の軽率さ、その余りの愚鈍さに嫌気がさす。

「さっき迄の話は……?」
 アリアと橘隊長と呼ばれた男は言い争いをする二人をそっちのけで睨み合うかの様に視線が交差する。

「まぁ…そっちの希望は出来るだけ応えるつもりではいる」男はバツが悪い顔をし、うなじの辺りをゴシゴシ擦りながらアリアに微笑みかけた。

「……まぁな、こうなっちまうのは避けたかったが、なっちまった以上は仕方がない、か……こんな事言って虫のいい話何だが、その……何だ、出来ればさっきの話。大人しく受けてくれるとこちらとしても嬉しいんだが?」

 男のその要求にアリアは怒りを込めて男を睨み付け、その後ろには言い争いが終わったのか他の二人がこちらに目を向けていた。

「……卑怯」全身の毛が逆立つ様な怒りとも悲しみ、後悔とも取れる、そんな感情がアリアの中で一気に膨れ上がる。

「ああ、そうだな。こっちは何も言い返せない」男はそう言いアリア達から視線を外し手元の時計を確認する。

 アリアは表情を曇らせ俯いた。今の自分ではどうしようも無い程無力だった。

 例え一人だったとしても男達から逃げる事さえ出来ない。そしてこの状況ではどの選択肢を選ぼうともどのみち捕まってしまう。

 “考えてる時間なんて無い”どうせ捕まるのならば今ここでこれだけは言っておくべきだ。

 アリアは顔を上げ必死に悔しさが表情に出ない様に強気で男の目を見る。

「ロギに――ロギに何かしたら……許さない――――」

 アリアにはそれ以外の選択肢は見当たらなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...