Ninfea

蠍ノ 丘

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少年心の三十路

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「おぉっ! 果物の缶詰が五つ、運がいいな」

 橘 和倻(たちばな かずや)は棚を開け中の物を手に取り確認していく。

「橘隊長、今回もくすねるのは無しですよ、キチンと報告しますからね」

 若干頬を膨らませ、水琶 茜(みずは あかね)は棚を漁る人物へと視線をそそぐと橘は眉間に皺を寄せ渋い顔をした。 

「いつオレがくすねた?」

「先週の外出時からずっとです。ご自身の好みがあった時に私に見付からない様気を配っていたかも知れませんけどバレてますから」

「あぁ……んーそうなの?」

 水琶は垂れてくる髪をかき上げ自身の傷口に気を使いつつ足元付近にある出っ張った取っ手を持ち上げた。九十センチ程の床が開きその小さい空間の中には腐敗が進んだ段ボールと複数本のペットボトルがあり、その中に手を突っ込み、身を乗り出し落ちそうになりながらも一本ずつ取り出していく。

 その様子を横目で確認しながらも橘は棚の奥へと手を伸ばし中から缶詰の他に一本のワインボトルを見付ける「お、よーしよし」満足げにそれを眺め、そんな言葉を漏らしながら貼られているラベルを確認する。

「ついてるぞ、栓は開けてないみたいだし結構な年代物だ。まだ飲めるぞ」

  まるで子供の様にワインボトルを掲げる三十代前半の橘に対し、「子供ですか、貴方は?」水琶はに呆れつつ顔を上げるとキッチンに飾られてある額縁に視線が釘付けになった。幸せそうな家族の写真。

 それと共に子供の絵が貼られておりメッセージらしき物まで目に入り動きが止まる。

「水琶、大丈夫か?」おちゃらけを止めた橘はワインボトルを置き優しく声をかけた。

「は、はい……大丈夫です……」

 橘は動きを止め額縁を凝視している水琶の傍に寄る。

「やっぱり……いいえ、大丈夫じゃ、無いです。外がこんなにも危険だなんて思っていませんでしたから……私、家族の事が心配で……」

「あぁ、誰だってそうだ。外に出た時、つくづく思い知らされる。現状がどんなに酷いかがな。水琶の言う通り離れ離れになっちまった身内の事は大抵の奴なら心配で堪らないし、最悪のケース何かは微塵たりとも想像もしたくない。ちゃんと無事にいる、そう思っていた方がずっと楽だ。現にそう割り切る奴も大勢いるからな」

「そうなんですか……」

「心配するな、とは言わない。ただ思い詰めし過ぎて現状に影響が出る様な事だけは避けてくれ、それに――争っている訳じゃないが事実として今回この任務でオレ達は結果的に他の奴等よりも大きく一歩を踏み出せた事になる。まぁ当然ながらこれから先は今以上に色々とややこしく、何よりも忙しくなる。相手が感染者やハンターだけとは限らんからな。水琶、オレと組んで面倒事がただでさえ多いだろうが、まぁな……頼りにしてるぞ」

「……分かりました、橘隊長」


 水琶は集められた物資を確認していく。

「まだこんなにも物資が残っていたなんて、正直驚きました。既に他の班が回収してると思ってました」
 水琶は持ち帰れそうな物資を選別し、大きい物や量が多い物については床下に戻し手元の端末に記録する。

「予想を遥かに上回る成果だな」
 橘は予想以上の物資の数にそう漏らすと、水琶がワインボトルを床下に戻すのを見て「残念だな」落胆し肩を落とす。

「さ、行きますよ。橘隊長、ユズルがそろそろ目を覚ますと思いますから」

「ああ、それもそうだな」

 回収した物資を持ち二人はユズルと確保した二人が居るリビングへと向かった。




「悪いな、遅くなったが良い収穫があったぞ。ユズル、二人の様子はど――」

 橘はその起きて当然とも思うその現場を見てこれ見よがしに溜息をつき、どう二人を説得出来るか考えを巡らせる。目の前では目を覚ましたロギアがユズルを地面に押さえ付けアリアがユズルから取り上げたであろう銃を持ち距離をとって様子を伺っていた。

 橘はロギアの回復の速さに感心を持ちつつ、一方ユズルはと言うと涙鼻水、噛み締めた口から垂れる涎で地面を濡らしていた。

「た、橘隊ちょ――」ユズルは必死に助けを求めるべく声を上げるが言い終わる前に頭を強く床に押し付けられ、遮られてしまった。

 橘はユズルに未だに害が与えられていない事にホッと息を吐きつつ、その上にいるロギアへと視線を持っていく。

 本来なら殺されていても可笑しくない。尚且つこの場から二人は逃げ出そうとすれば出来る状態なのにそうしなかった。橘は窓の方へと一旦視線を逸らし再びアリアとロギアの二人へと顔を向ける。

「まぁ、あれはだなぁ……取り敢えず話そうか? 外は雨が降っている事だし、それに日も落ちてきてる。今此処で争うのは個人的にも避けたいが、もし此処でドンパチするのならお互いに被害が出るだけじゃ済みそうにない――感染者がゾロゾロと集まっては来るし、嫌でもそんな危なっかしい外に出にゃならなくなるな……」

 水琶の構えている銃を下ろす様指示を出しながら橘は手に持つ物資を床へと下ろす。ロギアも橘とその後ろにいる水琶の反応を見定めてからユズルの拘束を解き、アリアの元まで一旦下がる。

 ユズルが小さな悲鳴を上げながら身体を引き摺るかの様に慌てて飛び出して来るのを見ながら「どうやら話してくれる、みたいだな……ありがとう、こっちとしても助かるよ」

 橘は味方の安全を取り敢えず確保出来た事にホッと胸を撫でおろし同時に、今更こちらの意見を聞いてくれる二人に対し軽く頭を下げた。
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