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治療
しおりを挟むロギアは他の椅子には腰かけず、よろよろと壁にもたれかかるように地べたに座ると自分の傷口を触り傷の状態を確認した。
「……ふう、あ!? 私が……見るよ」
ようやく笑いが治まったのか一息ついていたアリアが、ロギアの出血量を見ると慌てた様子で駆け寄って来る。
“まぁ何がきっかけなのか知らないが、一応気に留めておいた方が良いだろうな……”
そんなアリアの様子を伺い、そう自身に言い聞かせる。
アリアはロギアに医療道具がしまってある所を聞くと部屋の化粧棚の足元に置いてあるバッグから医療道具とハンカチを素早く取り出し、ロギアの傍らに腰を落とすと、応急処置の際に拭き忘れただろう血と再度出血した箇所を丁寧に拭き取り始めた。
「妙に慣れてるな……」
ロギアはアリアの手際の良さに関心しているとアリアと視線が合った。
「……うん、昔、ね」
アリアには多少の医療知識があったようで開いた傷口の手当てが直ぐに行われた。
「すまない、助かった……」
「……ううん、私……何度も助けて貰ってるから礼なんていいよ、それより、この傷……一応、応急処置。してあるけど、その……大丈夫?」
アリアは新たに見つけた傷の処置に取り掛かりながらロギアの包帯を心配そうに見つめる。
「ん? ああ、大丈夫だ。皮膚の下には何も潜り込んではいないからな、奴等の様に感染して可笑しくなる事はないと思う。勿論そういうような菌で感染者の様になるケースが無いとは言えないが……今の所、今まで俺が生きてきた中ではそんな事は一度も無いな」
「そうなんだ、良かった……」
他の傷の処置を終えたアリアはホッと胸を撫で下ろすと医療道具をせっせと片付け始めた。
「ふう……とんだ一日だな」
そんなアリアの後ろ姿を眺めながらぼやくと溜息を吐いた。
アリアは医療器具をバッグに詰め終わると一人掛けのソファには座らず、ロギアの隣に壁にもたれる様な形で腰を下ろし、膝を抱える様に座った。
「ソファに座らないのか?」ロギアの疑問に無言で頷く。
「――驚いた……もっと怖い人かと思ってた……」
灯りも無く、薄暗いホコリの匂いが漂う中、アリアは不安感を少しでも和らげ様としたのかそう告げた。
「……それはこっちのセリフだ、この短期間でよく喋る様になったからな」
無意識に素っ気なく答え、そこで会話が途切れてしまう。気を使って声をかけて来たアリアには悪いが、そもそもロギアにはコミュニケーション能力が低いという事もあり、もし傷を負ってなかったとしても会話が途切れる事は目に見えていた。
「――――それは……何て言うか……助けて貰ったし、迷惑も、っかけてる……から……」
無理矢理にでも会話を続けようとしているのか言葉を絞り出すものの尻つぼみで最後の辺りは聞き取れなかった。普段怪我を負った時いつも悪い方ばかりに気がいってしまい、そんな時に誰かに話しかけられると鬱陶しいと感じてしまうのだがアリアが声をかけてくると、罪悪感の方が勝るせいか不快感を抱かなかった。
「でもさっきの時とか……たまに怖いなって思う所はあるけど……」
「怖いのか、怖くないのかどっちなんだよ……」
首を傾げながらも、しっちゃかめっちゃかな事を言うアリアについ吹き出してしまい、笑ったせいか手当てを受けたばかりの傷がズキズキと痛む。
「う……でも、大丈夫。……もう怖くは無いよ」
「もう?」
「うん、機内の時とか洋館の時はちょっと……」
「ああ……怖がらせるつもりは無かった……つもりだったが、あの時は状況が状況だ。しょうがな――――いや、あれは確かに酷かった、すまなかった」
ロギアは雑な扱いをした事に対して頭を下げ、そんな姿を見てアリアが微笑む。
「でもね、その時に……言ってる事を少しでも信用してくれた時は、ちょっと嬉しかった。そういう人もいるんだなぁって……」
「ふむ……そうか……それが怖くなくなった理由か?」
「ううん、今日だけでも沢山助けて貰った……結果的には捕まっちゃったけどロギが居てくれたおかげであの人達とも話し合いが出来た。それに、さっきもあんな風にドジする人が悪い人だとは思えないし」
「ドジって……軽く傷付くな……」
何とも無い無駄の様な会話、それでも今はお互いの緊張を解すのには丁度良かった。
それからしばらくの間、お互いに話す話題も何も思いつかず、物音一つ無い沈黙の時間が数分間続き、ロギアの耳に聞こえるのは微かに届くお互いの呼吸音、身体を動かした時に聞こえる衣服の掠れる音だけになっていた。
ふとアリアの方へと視線を向けると膝を抱えたまま顔を埋めるような体勢で全く動く様子はない。
ロギアは右手の腕時計を確認する。戦闘の影響だろうか表面に大きく割れ目が入っている腕時計の電子文字は午後六時を告げていた。
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