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新しい住居
しおりを挟むそれから更に数十分間街中を案内されそして幾つかの施設を紹介された挙句、少しばかりの休憩を挟んで今に至るが、アリアの体力的な事を考えても今日はそろそろ限界の様だった。
「おい、もう――」
ロギアがそう言いかけた時、自分達が出て来た建物の真ん前に高級そうな車両が止まっているのが見えた。
「さぁ、そろそろ体力的に厳しいと思ったので乗り物を手配しました」
平然とそんな事を言う青年に、気付いていたのなら最初から言え、と言いかかった言葉を飲み込みロギアとアリアは促されるまま車両へと乗り込んでいく。
「車両から景色を眺めるよりも歩きながら直接この街の雰囲気を感じて貰いたかった、と言うのが僕の気持ちです。車両からだと目に入らない様な所があるかも知れませんので」
青年が助手席に乗り込み「それでは宜しくお願いします」そう青年が言うと運転手の短い返事と共に車両が動き出した。
沈みかけた夕日が高層ビルの隙間へと隠れて行く。
流れて行く景色の中でテレビの様に動く広告看板や、騒がしい音を立てて稼働する工場。近代的な建物や人の数、ドローンの様な最新鋭の機械、どれを取ってみても世界崩壊前とは比較にならない程、いや進歩しているとさえ思わせた。
街全体と人々の放つ雰囲気、それを見るに此処の地域がいかに彼等にとって安全で寄生虫の存在すら疑わせてしまうそんな光景だ。
車両は次第に都心を離れ、辺りには開発途中と思わせる様な建設物や木々が増えて行き、都心とはまた違った景色を眺めながら車両は更に開けた道路へと入って行く。
今迄の様な近代的な建物は少なく、此処に建っている物は木で造られたり、レンガ造りの建物があったりと都心とは違い味気ないけれど何処となく落ち着く、日本ではなく外国の田舎と言ったイメージのする街に着いた。
「到着しました長い事お待たせしましたが――此処が、今この時より貴方がたの家になります」
公園が近くにあるのか何処からか聞こえて来る子供たちのはしゃぎ声、視界の端に映る幸せそうな老夫婦。辺りにゴミ一つとして落ちていないまさに平和――そんなのどかな雰囲気にアリアは息を呑み、そして顔を上げ目の前にそびえ立つ周りの建物よりも少しばかり小さい、そんな民家を眺める。
「此処が家――って――?」
「はい、此の家にある物は全て、貴方がたの好きに使って頂いて構いませんよ。此処で立ってみるんじゃなく、早速中を拝見しませんか?」
「――う、うん」
アリアはロギアに了承を取ろうとしたのか顔の向きをロギアの方へと移動させるがそれよりも先にロギアが「それもそうだな」そんな呟きが聞こえアリアは再び家の方へと顔を戻す。
「玄関は日本式ですが大丈夫ですか?」
「あ、はい……」
青年の後に続いてアリアが家に上がると、ロギアもいつもの癖で周囲を確認してから上がる。
新築の臭いを感じながらアリアとロギアは一室一室案内されていく。
生活をおくる上で必要とみられる家具や道具は既に一通り用意されており、世界が崩壊するより前でもめったにお目にかかれなかった最新鋭の冷蔵庫。そして勿論最新のシステムキッチンすら整っている。
「御覧の通り家具は一通りこちらで用意させて頂きましたが、もし使っていて気になる事がありましたら何でも言ってくださいね」
「ああ……ん? どうかしたか、アリア?」
ロギアは青年に返答しつつ、背後で停止しているアリアに気付き首を傾げた。
「ん……いや……ただ思ってたのと違うなって驚いてただけ、だよ」
その暗い表情からみてもロギアはアリアが思ってるであろう事を察しつつも
「……と言うと、あれか。もう少し豪勢な物が良かったか?」わざとからかう様な事を言う。
「違う違う! ただ……私なんかが此処に居て良いのかなぁって思っただけで……」
ロギアに対し慌てて首を振りその内容を否定し、家中の家具等を見回す。
「そうか……なら良いだろ、別に」
「え? で、でも――他にも頑張ってる人が居るのに、そんな中いきなり私達が此処に住んだら」
素っ気ないロギアの答えにアリアは食って掛かる。
「そこらで起きた事はマザー自身がしっかりと説明はするだろうし、俺達が此処に来るよりも前に俺達の事は十二分に此処でのお偉いさんには伝わっている。だからそこに関してはそんな心配はしなくていいだろうな。後それとは別に――――――アリア、普通に考えてお前が受けて来た地獄はそいつらが、いや他の誰もが経験して来た物とは恐らく比べ物にならない物だ。それだけの地獄を散々受けて来たんだ。そう捉えればこれくらいの恩恵を受けたとしても、例え神様がこの世界に居るとしても流石に文句は言わないだろ? 俺の記憶が正しければだが……此処日本には謙遜は美徳とか言う考えもあるらしいが、それもやたら目ったら使い過ぎると損するだけだし勧めた側からしても嫌な思いになるぞ?」
「う、うん――――――判っ、た」
ロギアの言葉に納得は出来ない迄も理解出来たのかアリアはゆっくりと頷いた。
青年は二人のやりとりをただ黙って聞いていたが話が終わった所で声を掛ける。
「悪い、変な所を見せたな」
「いえ、お気になさらず。仰る通り僕達もアリアさんのこれまでの事情は大体は把握しています。そう言った感情を抱く事こそ、これからの心の回復には必要な事なのですから」
その後、明日からの予定、使い方が判らない家具の取り扱い等、ロギアにとって苦手な説明が続き、そう言った説明が終わる頃には外の夕日が落ち窓からは電灯の仄かな灯りが見えた。
「長くなってしまいましたね……僕がこれ以上此処に居たら流石にリラックス出来ないと思いますのでそろそろ僕はおいとまさせて頂きますね」
「ああ」ロギアがそう返答すると青年は苦笑する。
「もし何か困った事があったら僕に連絡をして下さい。何時でも直ぐにでも対応する事が出来ますから」
そう言うと青年は深くお辞儀をし、本当に家から立ち去って行った。
あっという間の出来事だった。話を訊くだけだと言っても流石にこれだけの長時間、流石のロギアの顔にも疲れが出始めていた。
「……はぁ、やっとひと段落って感じだな」
説明を聞いた限りではやはり心の何処かに不安の一つは残るもののロギアは肩の力を抜き傍に居るアリアへと視線を移す。
「う、うん」
数日前の自分達なら想像すら出来ない生活環境の変化に戸惑いつつもお互い顔を合わせる。
「他にも選択肢が無い訳じゃないが……取り敢えず今はアイツが言う様に安全は確保されているみたいだな……一緒に住む事になった訳だが……まぁ宜しく」
「よ、宜しく……」
これから起こりゆる出来事に不安を抱きながらも二人は使用方法を説明された家具に一通り触ってみたり、蛇口を捻り水が出てくる事に感動したりと改めて家中を探索し慣れないそして懐かしい『日常』を堪能した。
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