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マザーから見たアリア
しおりを挟む「マザー、アンタは……アリアを知っているのか?」
ロギアはアリアが部屋から出て行ったのを確認するとそう口を開いた。
「――何故その様な質問を?」
窓際に立ったマザーは青年に連れられ庭を見学しているアリアに視線を合わせながら振り向きもせずにそう返答する。
「何となく……橘の奴が何も知らない俺達に対して――いやアリアに対してアンタ、マザーの名前を出した。その時点で何かあるなとは思ってはいたが、それが大きくなったきっかけは端末を通してのアンタのアリアへの応対だ。アリアへの声のトーンと俺に対しての声のトーンが明らかに違う、そこまでならそんなに怪しむ必要は無いがアンタはアリアが提示した条件について受け入れるのが第三者の俺から見てもどうしても早過ぎた。」
「ふふ、それは貴方ほど感の働く人ならば判るんじゃなくて? アリア――彼女の事ならある程度の情報は掴んでいたし、貴方達が提示する条件は容易に思い当たるわ。それに端末越しでも彼女の精神状態は大体は把握出来たもの。それならば貴方よりも優しく慎重に話すのは当然ではなくて?」
確かにマザーの意見も一理ある。しかしロギアは話を続ける。
「まぁそう言う事もあるだろうが、それだけじゃない。更に確信に変わったのはあの男、桐ケ谷尊信(きりがやたかのぶ)がアリアに向けた目だ」
「――目、ですか」
マザーは話の最中だと言うのに未だに視線を庭に居るアリアに向けたままだ。
「自慢じゃないが俺は長い事外に居た、生き残る為にも自力で人を見分ける事くらいは出来ないと命が幾つあっても足りないからな。大抵の奴なら表情に出るが、例え表情を平然に装っていても目の動きで判断出来る。今回のアンタ等みたいに」
そこでマザーはアリアから視線を外しロギアを無言で真っ直ぐ見据える。
「――で、俺はあの男とアンタがアリアに見せる目には悪意を感じなかった。それもアンタの場合は悪意所か種類は違うと思うが……親友が俺を見る目にソックリだった。長い事一人で居たおかげか判らんがそれに関してだけはしっかりと覚えてる」
力が込められたその一言にマザーはいつの間にか溜め込んでいた息を吐き瞼を閉じた。
「――――そうですか……貴方の経験から、貴方自身がそう判断したと言うならば、こちらからはもう貴方を問い詰める事が無くなりますね……」
マザーは視線を再びアリアに、懐かしく嬉しそうな眼を向け「貴方にもそんな人が居たのですね……」微かにマザーの口からそんな言葉が零れた。
「――で、どうなんだ?」
ロギアはマザーの横顔を見ながら問い掛ける。
「ええ、知っています……あの子は――アリア・イミーリ・エンシェントは元はごく普通の女の子、何も特別な物など持ってなく、他の子達と同じ様に純粋で優しい子――――」
そこで言葉を切りマザーは大きく息を吐きつつも視線はアリアから外さずに、
「けれどある日。あの子は学校の帰り道に飲酒運転を犯した者によって致命的な損傷を受けてしまったの。父親は生死を彷徨っていたあの子を確実に助ける為、悪魔にあの子を委ねる事にしてしまった――」
「――悪魔……」
ロギアの脳裏に父親の面影が映り苛立ちが募り歯を噛み締めた。
「その後パンデミックが日本で起こり、あの子の行方も生存すらも私達には把握出来なかった。後に父親自身がその飲酒事故に荷担している事が判ったけれど今更そんな事が判っても既に手遅れ――当時の私にとっては怒り処か消失感の方が大きかったわ。そして時が経つにつれ私もあの子の事は諦めていた……いえ、こんな世界になってしまったのだから生死も判らないあの子に、この立場の私が時間をかける事は出来なかった――諦めざる負えなかった……けれど、そこに――」
マザーは瞳の端に滴を溜めロギアを真っ直ぐ見据える。
「貴方があの子を連れて姿を見せたの。案の定貴方は、あの子と一緒に居れば自らがどんな状況に追い込まれるか判っていながら貴方はあの子を助けてくれた。見捨てる事無く――貴方は自らの贖罪のつもりだと言いましたが――それでも貴方は此処まであの子を無事送り届けてくれ、今でもあの子の今後をこうして気にしている」
「アリアに対しての思いも……そして過去についても――やけに詳しいな……」
「勿論――あの子…………あの子は……私の孫娘だもの、知らない訳ありません」
マザーがそう静かに呟いた。
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