Ninfea

蠍ノ 丘

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金髪の男

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グリーンエリア  マザー管轄地域   午後九時


「着いたぞ、ボスは中だ」

 私服だがしっかりと武装している男達に囲まれながら運転手の男は背中を押される。
 
 運転手は後ろ手で拘束されながらも、自身の足で急いで示された建物へと足を踏み入れる

「おいおい、んな慌てんなよッ」

 運転手は周りの声すら聞かず真っすぐ男の元迄走り寄る。

「お、おい! 早く出せッ!! もうやばいんだ、手の震えも止まらないし視界もぼやけてきてる! 早く血清を、血清ッ!!」
 
 運転手は額に脂汗を浮かべ、両目をかっぴらき男に詰め寄る。

 そんな運転手を男はじっくりと観察する。

 充血しかかっている両目、顔色もあからさまに悪く、額に血管が浮き出ている。

「わかった、わかった――――でもねぇ……先ずは言い訳、を聞かないと俺もクライアントも納得しないんだよねぇ……君の伝手でも良いから使えるものは使って何故イエローエリアで行動しなかったんだい? 騒ぎが余計に大きくなるだろう? まぁ俺にとってはそんな事は大した話じゃないんだが、どうしてグリーンエリアまで黙って行動を起こさなかったのか、納得出来る様、教えてくれるかい?」

「そ、そんなぁ!? む、無理だぁ、ば、僕にはマザーに大きな恩があるし、かなり世話になった。そんなタイミングでそんな事出来る訳ないじゃないかッ!?」

 男は手元にあるライターの音をわざと大きく鳴らし弄ぶ。

「――うっ……ぼ、僕は言ったんだ! 言ったじゃないか! いつ、何処にあの二人が居るのか、情報は渡しただろう、もう良いだろ!!」

 必死に怒鳴る運転手を男がマジマジと観察する。

「ふっー、ふぅ……早く、血清……血清を渡せよぉぉぉッ!!」

 喉が裂けんばかりに声を上げ目の前に居る男に向け突撃するが――――

「――――――うぐッ!?」

 周囲の武装した者達が何もしない訳も無く運転手は簡単に地面に押し付けられ、抗ったものの身動き出来なくなってしまう。

 運転手の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。

「ほほう……言ったろ? 俺は――――」

 突然銃声が鳴り運転手の右足の太腿から血が飛び散り、運転手の叫び声と共に周囲にいる者達の顔も硬直する。

「納得出来るものを出せってなっ――――! そうでもしねーと血清なんて大事なモン、お前に渡す訳ねーだろうがぁよぉぉぉ!!」

 男は運転手に聞こえる様に運転手以上の声を上げ倒れている運転手の髪を引っ張り上げる。

「うっ――――あぁ……」

 既に抵抗心が折れてしまった運転手はただ開かれた口から声が漏れるしかなかった。

「いいだろう、丁度いい。使えない奴がどうなるか、教えてあげようかぁぁぁ!!」

 男は運転手を引き摺りながら奥の部屋にある檻の前へと乱暴に連れていく。

 運転手は自身の瞳に映った光景に絶句し、目を見開いた。

「ぐ……ッ! ぎゃああああぁぁぁ、や止めでぇぇぇ!!」

 檻の中で一体の感染者が一人の人間の首筋に齧り付き、その爪が、牙がその人間の身体を引き裂いている。

「失敗の弁解も出来ない、何一つとして使えない。気分はどうだいジェス、俺に恥をかかせた罪は重いだろう?」

 男は目じりを歪め、その人間に話しかけると「ゆる、許じで、ぐださい……ッ!! ボ、ボス……お、お願いじまず、だ、助けで――――」

 ジェスと呼ばれた人間はその言葉を最後に、感染者に生きたまま食べられ続け悲鳴しか発さなくなった。

「口先だけならこうなる」

 男はゆっくりと運転手へと視線を落とす。
 
「アイツに見覚えはあるだろう? お前を此処に連れて来た奴だ。マザーの懐にも入り込める駒を連れて来いって命令した。そしたらどうだ? 使えなさそーな奴連れて来てよぉ」

 男は笑いながらジェスの最期を見届ける。

「結果としてお前がイエローエリアで事を起こさなかったから大幅な計画が変更になり、奴は俺に恥と手間をかけさせた。どう考えても俺を舐めてるだろう?」

 運転手には男の思考が全く見えず混乱する。

「さぁあどうする? 失敗したらああなるのはお前だ、まぁどっちにしろ血清が手元に無い以上選択肢は限られているけどなぁ」

「――――――ッ!?」
 運転手が息を呑む。

 そして決心がついたのか――――

「あの二人を……連れて来ればいいんだな……」
 小さな声が漏れる。
 
「良い目付きだ……今度は期待してるよ、運転手君」
 男の口元が酷く歪んだ。
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