66 / 78
温かな朝
しおりを挟む
「……リア」
懐かしく、優しく包み込まれる様な声が語り掛けている。
「……ねぇ、アリア」
親しみを込めた、心を落ち着かせてくれる声。
「……アリア、ねぇアリア」
忘れる筈がない、今度はハッキリと響く。
「いつまで寝てるの?」
長い髪を掻き上げ、その女性は私を覗き込んでいる。
「……マ、マ?」僅かに言葉が零れた。
「やっと起きたのね、まったく寝坊助なんだから。今日は委員会の活動があるんでしょ? 朝ご飯は作ってあるからアナタもさっさと起きるのよ」
意識がポケーとしているアリアに女性は微笑み、被っている布団を軽く叩き、ゆっくりと部屋を出て行こうとする。
アリアは咄嗟に上体を起こし「ママッ!? 待って!」訳も分からず、立ち去ろうとする女性を呼び止めた。
一瞬その後ろ姿が止まり、「よかったわ、アナタが無事で――――」
そう言うと再び歩き出し光が漏れ出ている扉を開く。
「待って、マ……マ――――――」
言いかける前にその姿が光に包まれあっという間に消え、その光が部屋中を照らし視界が真っ白になった。
「――――――ぅあッ!?」
ズシンとした頭の痛みに遠くにある意識が手繰り寄せられ意識が覚醒し、薄っすらと瞼を開く。
見慣れた天井。
「今のは……ママ――――ママだった……」
先程迄見ていた夢を思い返し、今となっては叶わないという現実に苦しくりながらも手の甲をおでこに乗せ天井を見つめる。
どうしてそんな夢を見たのか、心に余裕が出来たからか。
ロギアとの出会い、改めて思うと研究所を出てからこの場所に来る迄怒涛の道のりだった。
変わり果てた世界を歩き、何度も危険な目にあった。
アリアは数分間、自分の現状や過去の事に思考を巡らせた後、サイドテーブルの上に置かれた時計が目に入る。時刻は八時をとっくに過ぎておりアリアは考えるのを止めのそのそと布団から這い出した。
「……朝、身体が重い……」
身体を伸ばした後時計の傍にあるカレンダーを確認する。
既に書き込みが多く空白が少ない予定表を見、今後の事に寝起きで鈍い頭を回す。
此処数日はマザー管轄の地域に限るが街の見学をさせてもらっており、今日は端末に登録されている人物との交流等、マザーの御傍付きである桐ケ谷尊信(きりがやたかのぶ)さんとロギア、そして此処に来てからお世話になっている運転手の石井さんと言う四人で回る事になっている。
正直アリアもマザー達が此処迄自由にしてくれるとは思っていなかった事もあり、ロギア共々逆に不安になるくらいだった。
アリアはカーテン開け、同時に部屋に差し込む日光の光に目を瞑る。
外の世界とは違う平和な街を眺めた。窓からはランニングや犬の散歩をしている人が見える。
その平和な光景を目で追う。外の景色に見とれている中ふと芳しい香りが鼻を刺激した。
「この匂い……」
アリアは部屋の衣装ケースから服を一着選ぶと着替え、姿見ミラーがある場所へと向かう。
鏡の前に立ち白のレースペプラムブラウスとデニムパンツの自身の姿を映す。可笑しい部分がないか身体を捻り確認し、髪を整える「よし」
そう言うと一階に居るであろうロギアの元へと階段を下りていく。
ロギアは洗面台の鏡に映る痛々しい傷跡を確認する。
マザーとの会合、あれから完治迄とはいかないが、身体の痛みも和らぎそれに対するストレスもなくなっている。流石に命のやりとり迄とは言わないが軽く運動するくらいは出来る様になった。
ロギアは洗面台に置かれた物やリビングに配置された家具それら全てを思い浮かべる。
「此処に慣れるのは良くないな……」
昔の様に平和な日常に慣れてしまうと身体が訛ってしまうのではないかと心配になる。現状のこの風景が異質な物だと再認識しないといざって時に対応出来るか怪しい物だ。
ロギアはリビングに戻ると、渡された端末を開き、この周辺の地形や建物の情報を確認する。
”ずっとこのまま……アリアにとって負担の無い安全な生活――――これがいつまで続くだろうか”
端末に載っている情報を一つ一つ正確に記憶していく。
二階から物音が聞こえ、ロギアは端末の右下に表示されている時刻を確認すると「もうこんな時間か」椅子から立ち上がり朝食の準備を始めた。
端末で手軽な朝食を検索し、目ぼしい料理を探す。
「スクランブルエッグか……」
ロギアは真剣な眼差しで【作り方】と記載された文字を目で追う。
「あ~……」自然に声が出てロギアは一応レシピ通りに作り始めた。
ボウルに卵を割り入れ、入ってしまった殻を取り除く。それに調味料を加え、慣れない手つきで菜箸を扱いボソボソのスクランブルエッグを完成させるとロギアの口から溜息が零れる。
「まぁ、食べれるか……」
想像よりも酷い出来にはなったもののそんな感想が漏れた。反省の為再度端末へと視線を向けていると、アリアが階段から降りてくるのが視界に入った。
「おはよう……」
「ああ、おはよう」
「……」
アリアはキッチンに置かれたボソボソの卵料理が視界に入り、それから端末を睨みつけているロギアの顔を見つめる。
「どうした? 何かついているのか?」
ロギアは自身の顔を触るが何もない。
「何もないよ、ただ――――何かいいなぁって思っただけ」
アリアは頬が緩みロギアの傍に移動すると一緒に朝食の準備を始めた。
「私も手伝わせて」
そうアリアの顔が綻んだ。
懐かしく、優しく包み込まれる様な声が語り掛けている。
「……ねぇ、アリア」
親しみを込めた、心を落ち着かせてくれる声。
「……アリア、ねぇアリア」
忘れる筈がない、今度はハッキリと響く。
「いつまで寝てるの?」
長い髪を掻き上げ、その女性は私を覗き込んでいる。
「……マ、マ?」僅かに言葉が零れた。
「やっと起きたのね、まったく寝坊助なんだから。今日は委員会の活動があるんでしょ? 朝ご飯は作ってあるからアナタもさっさと起きるのよ」
意識がポケーとしているアリアに女性は微笑み、被っている布団を軽く叩き、ゆっくりと部屋を出て行こうとする。
アリアは咄嗟に上体を起こし「ママッ!? 待って!」訳も分からず、立ち去ろうとする女性を呼び止めた。
一瞬その後ろ姿が止まり、「よかったわ、アナタが無事で――――」
そう言うと再び歩き出し光が漏れ出ている扉を開く。
「待って、マ……マ――――――」
言いかける前にその姿が光に包まれあっという間に消え、その光が部屋中を照らし視界が真っ白になった。
「――――――ぅあッ!?」
ズシンとした頭の痛みに遠くにある意識が手繰り寄せられ意識が覚醒し、薄っすらと瞼を開く。
見慣れた天井。
「今のは……ママ――――ママだった……」
先程迄見ていた夢を思い返し、今となっては叶わないという現実に苦しくりながらも手の甲をおでこに乗せ天井を見つめる。
どうしてそんな夢を見たのか、心に余裕が出来たからか。
ロギアとの出会い、改めて思うと研究所を出てからこの場所に来る迄怒涛の道のりだった。
変わり果てた世界を歩き、何度も危険な目にあった。
アリアは数分間、自分の現状や過去の事に思考を巡らせた後、サイドテーブルの上に置かれた時計が目に入る。時刻は八時をとっくに過ぎておりアリアは考えるのを止めのそのそと布団から這い出した。
「……朝、身体が重い……」
身体を伸ばした後時計の傍にあるカレンダーを確認する。
既に書き込みが多く空白が少ない予定表を見、今後の事に寝起きで鈍い頭を回す。
此処数日はマザー管轄の地域に限るが街の見学をさせてもらっており、今日は端末に登録されている人物との交流等、マザーの御傍付きである桐ケ谷尊信(きりがやたかのぶ)さんとロギア、そして此処に来てからお世話になっている運転手の石井さんと言う四人で回る事になっている。
正直アリアもマザー達が此処迄自由にしてくれるとは思っていなかった事もあり、ロギア共々逆に不安になるくらいだった。
アリアはカーテン開け、同時に部屋に差し込む日光の光に目を瞑る。
外の世界とは違う平和な街を眺めた。窓からはランニングや犬の散歩をしている人が見える。
その平和な光景を目で追う。外の景色に見とれている中ふと芳しい香りが鼻を刺激した。
「この匂い……」
アリアは部屋の衣装ケースから服を一着選ぶと着替え、姿見ミラーがある場所へと向かう。
鏡の前に立ち白のレースペプラムブラウスとデニムパンツの自身の姿を映す。可笑しい部分がないか身体を捻り確認し、髪を整える「よし」
そう言うと一階に居るであろうロギアの元へと階段を下りていく。
ロギアは洗面台の鏡に映る痛々しい傷跡を確認する。
マザーとの会合、あれから完治迄とはいかないが、身体の痛みも和らぎそれに対するストレスもなくなっている。流石に命のやりとり迄とは言わないが軽く運動するくらいは出来る様になった。
ロギアは洗面台に置かれた物やリビングに配置された家具それら全てを思い浮かべる。
「此処に慣れるのは良くないな……」
昔の様に平和な日常に慣れてしまうと身体が訛ってしまうのではないかと心配になる。現状のこの風景が異質な物だと再認識しないといざって時に対応出来るか怪しい物だ。
ロギアはリビングに戻ると、渡された端末を開き、この周辺の地形や建物の情報を確認する。
”ずっとこのまま……アリアにとって負担の無い安全な生活――――これがいつまで続くだろうか”
端末に載っている情報を一つ一つ正確に記憶していく。
二階から物音が聞こえ、ロギアは端末の右下に表示されている時刻を確認すると「もうこんな時間か」椅子から立ち上がり朝食の準備を始めた。
端末で手軽な朝食を検索し、目ぼしい料理を探す。
「スクランブルエッグか……」
ロギアは真剣な眼差しで【作り方】と記載された文字を目で追う。
「あ~……」自然に声が出てロギアは一応レシピ通りに作り始めた。
ボウルに卵を割り入れ、入ってしまった殻を取り除く。それに調味料を加え、慣れない手つきで菜箸を扱いボソボソのスクランブルエッグを完成させるとロギアの口から溜息が零れる。
「まぁ、食べれるか……」
想像よりも酷い出来にはなったもののそんな感想が漏れた。反省の為再度端末へと視線を向けていると、アリアが階段から降りてくるのが視界に入った。
「おはよう……」
「ああ、おはよう」
「……」
アリアはキッチンに置かれたボソボソの卵料理が視界に入り、それから端末を睨みつけているロギアの顔を見つめる。
「どうした? 何かついているのか?」
ロギアは自身の顔を触るが何もない。
「何もないよ、ただ――――何かいいなぁって思っただけ」
アリアは頬が緩みロギアの傍に移動すると一緒に朝食の準備を始めた。
「私も手伝わせて」
そうアリアの顔が綻んだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる