Ninfea

蠍ノ 丘

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少女の決意と愚か者の末路

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「そう、俺の尊敬する先生、君の父親だよ。先生の理想とする世界では半端な弱さは許されない此の身が幾ら切り裂かれようとも僕は先生の目指す理想の足掛かりとなりたい」

 ケビン・コーフィンは優越感に浸り天を仰ぐ。

「相当イカレてるなアンタ……」
 
 ロギアは男から目を離さず睨みつける。

「アリア・イェリネック・エンシェントの存在と、俺が此処で飼っている数体の感染者。それを上げ脚ばかりしか拾わないマスコミが見たらどうなる事か……」

「――ッ!?」 

 その意味を理解しロギアの手に力が入る。

 感染者がマザーの管理する区域から出没、そして恐らくケビン・コーフィンはアリアの事を公にするつもりなのかもしれない。そうすればマザーの足を引っ張りたい連中には恰好の餌にもなるし、別の地区にいる記者からすればこんな特ダネは滅多に見ない。

 脱兎の如く駆け付けて来そうなネタだ。それに『термит(サーマイト)(白蟻)』からしても、アリアの事がバレるのには多少の不利益が生まれるだろうがそれによって此処の勢力が乱れ、有らぬ混乱が生まれた方が今よりか断然と動きやすくなってしまう。

「つまる所、俺の狙いはそう言う事だ。殆どの記者が本質等を見えてはいないだろう。此処の市民にもそうだが大きな被害、この地区ごと巻き込む様な大災害を起こしてでも目を覚まさせる必要がある。当然事態を自身が管轄する場所で引き起こしてしまったマザーの信頼は地に落ちる」

 ケビン・コーフィンは一息つく。

「そしたらお前たちは終わりだぞ?」

 ロギアは皮肉を込め口をはさむ。

「ふっ、ハハハ……結構元々俺の生死自体はどうなろうが計算には入っていないからね。マザーの印象が大きく失墜する、此処迄事が大きくなってしまっては流石にマザーと言え度、事実の隠蔽は不可能、それに此処に来た記者も自分達の飯のネタの為に間違った形で此処の民衆に伝える。勿論均衡を保つ為にマザーを庇うトップ連中もやっけになってもみ消しにかかるのでしょうが……一度着火してしまった火種は収まる事無くくすぶり続け、この都市自体が大きく変わるだろう。それだけでも先生達の得るメリットの方が余りにも大きい」

 ロギアが男を睨む。

「俺が何をするのか、判っている様ですね。そして何をするにも手後れだと言う事も……君達はゲームオーバーだ、それに比べ多少成果には泥が付くが俺にとってはゲームクリアだ」

 ケビン・コーフィンはアリアを一瞥し、ロギアへと顔を向ける。

「人間って言うのはその行動に対しどれだけ釣り合わない事情が起きようが構いやしない。どれだけ警備を固めようとも人を使っている時点で万全とは言えない物だよ」

 何かを思い出したのか、わざとらしく相槌を打つとケビン・コーフィンの顔が嫌らしく歪む。

「あの運転手だってそうだ。既に感染者になりかけている者に対しての効果ある血清? そんな曖昧で証拠も無い話に簡単に乗り呆気なく今迄マザーの元で積み上げた信頼も手放した。余りにも愚かでその行動原理は――その奇行は本人には結末が目に見えていたとしても自分自身では止められないんだろうな」

「まだ、諦めるのは早すぎるな……」

 流石の物言いにカチンときたのかロギアが睨み返す。

「俺達はお前の思惑通りには動かない」

「マザーからの救援……まぁそれが出来たとしてそれで? その後は、どうやって過ごす? どうやってアリア・イェリネック・エンシェントを守る? 女の正体、マザーの失態その両方が同時に此処の報道機関によって拡散される」

 ケビン・コーフィンはロギアを覗き込む。

「今度こそは取りこぼさない、アリアがそう求めているのなら俺は何だって切り捨てる覚悟はある」

 「ロ、ロギ……」 アリアが驚きロギアの顔へと視線を向けた。

「ロギア・オルバース、お前こそイカレているな」

 ロギアのその姿勢に驚き男は首を傾げた。

「貴方達はいつ迄この様な事を続けるの……?」

 アリアがケビン・コーフィンに問う。

「私から、自由も……過去も奪い……更には何も知らない大勢の人も見殺し、貴方達の理念を強要しようとするなんて……」

 ケビン・コーフィンはアリアのその言葉に鼻を鳴らしゆっくりと近付く。

「私は――ただの人間だって信じたかったんだと思う……そして何処かでは自分の身体の異常さを知りたくなかった――でも、此処に来てマザーに会い、彼等の反応で真実をやっと真面に受け止められる様になったんだと思う。信じたくは無かったけど……これが本当で、認めなくちゃいけない」

 アリアは拘束されているのにも関わらず力を入れ引っ張り、ケビン・コーフィンを視界の真正面に捉える。

「例えこの身体が清らかで無く、汚らわしい物だったとしても――私は――――――っ」

「だがお前の状況はあからさまに悪化し、此処でもいや他でも生きていける場所は無くなるぞ?」

 アリアの言葉を遮る様にケビン・コーフィンは笑う。

「それは――ないな。アリアが生きていける場所に、俺がするからな」

「ロギ……」

 ケビン・コーフィンはロギアに遮られたのが不快だったのか上から睨みつける。

「ロギア・オルバース? 悪い冗談だろ?」

「いや、本気だ」

「結局此処の奴等に囚われて、最悪二人揃って道具扱いされて終わりだぞ?」

「たとえそうだとしても、今のアリアには意思がある。決して道が途絶えた訳じゃない。そして俺もこのまま終わるつもりは無い」

「ハハ、想像以上だ。やはりお前たちは――――ッ!?」



 ケビン・コーフィンが二人を嘲笑するかの様に高らかに声を上げると――――突然大きな物音と共に運転手が兵士を無理矢理にも押しやり部屋へと入って来る。部屋にいる全員の視線が運転手へ向く。

「い、石井さん――――――ッ!?」

 その姿は見るも無残な状況だった。顔の皮膚の大半が剥がれ落ち口元では何かが蠢いている。血まみれで息も荒く意識はあるのか何かをひたすら叫んでいる。

「げっぜい、げ、け……血清――――げっせいを――――――は、早ぐ、はや――――」

 運転手が何を言おうとしているのか、顔色は先程よりも更に悪化し今にも倒れそうだ。何かを言っているが小さくブツブツと言っているせいか全く聞き取れない。

「そうだ、忘れていた。君には感謝しているけどね……悪いねぇ、君の状態を見る限りではもう助けられない。治療は既に手遅れだ」

 ケビン・コーフィンは運転手に目をやる。

「――――え?」

 運転手の掠れた声。

「処分して下さい、彼はもう必要ない」

 ケビンの合図で少年に向け一斉射撃が行われ――――
 運転手は最初こそ驚愕の表情を浮かべていたが、銃撃で倒れる寸前に不適に笑い微かに口が動き、あっけなく絶命した。
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