13 / 14
13
しおりを挟む
俺って、仁野のことが好きなんだろうか?
今まで、一度もそんなことを考えたことがなかった。
自分の性癖についても、ちゃんと向き合ったことはない。
BL小説を書き始めたのだって、ただのルームメイトの何気ない一言がきっかけだったし、
自分自身に強いこだわりがあったわけでもない。
「お前の書いたやつ、読んだけどさ。本当に気持ちがこもってるよな、あれ」
なんか嫌な予感がする。
「……どの話のこと?」
「ほら、R-18のやつとか」
「……」
「認めろよ。お前、仁野のこと、好きなんだよ」
胸の中が、ずしんと沈む。
俺はぽつりとつぶやいた。
「じゃあ……仁野が俺を避けてるのって、俺が彼をモデルにしてたからじゃなくて……」
「俺の、いやらしい気持ちに気づいたから……それで嫌になったってことなのかな」
「それは……」
ふたりとも、言葉が出ない。
俺は思わず苦笑いした。
「はは、慰めようとしても無理だよな、さすがに」
西山が静かに言った。
「でも、もうここまで来たら、ちゃんと向き合った方がいいんじゃないか?」
「今さらだとしてもさ、今より悪くなることなんて、もう無いだろ」
そう、最悪はもう迎えた。
だったら、話すしかない。
「……うん、行ってくる。ちゃんと話してくるよ」
仁野を見つけたとき、彼は岩永と体育館横で話していた。
何を言ったのか知らないけど、岩永は鉄柵を拳で思い切り叩いていた。
怒りを露わにする岩永とは対照的に、仁野は淡々としていた。
「お前、俺のこと四回も振っといてさ。今度は何が理由だよ」
岩永の声が大きくなる。
仁野は冷静に言った。
「変わらないよ。好きじゃないだけ」
「じゃあ誰が好きなんだよ。あのヒョロガリで小説書いてるやつか?」
……誰がヒョロガリだ。
カチンときたけど、それより仁野の返答が気になって、つい近づいてしまった。
──ドンッ!
突然、排球が俺の頭に直撃した。
「大丈夫!?」
バレーをしていた同級生が駆け寄ってくる。
その声に反応したのか、岩永と仁野も振り返って、頭を押さえて立っている俺を見つけた。
岩永はすかさず皮肉っぽく言った。
「やるじゃん、お前。盗み聞きまでしに来るとはな」
俺はバツが悪くて、仁野をチラッと見る。
仁野は少し顔をこわばらせながら、それでも歩み寄ってきた。
「大丈夫?」
……その一言に、俺の中の何かが決壊した。
「痛い……」
と、わざとらしく苦しそうな表情をして、仁野の肩に頭をもたれかけた。
仁野は小さくため息をついて、少し体を寄せてくれた。
肩にちゃんと、俺の頭が乗っかった。
──この作戦、効いた……!
これまでのグリーンティー(緑茶婊)的展開、無駄じゃなかった……!
岩永は信じられないという顔で、俺を指さす。
「ちょ、仁野!? こいつ、演技してんだって!ただのバレーボールだぞ!鉛球じゃあるまいし!」
俺は彼に睨みを効かせる。
岩永がすかさず告げ口するように言う。
「ほら見ろよ、睨んだ!ね?今の見た?」
仁野が俺に目を落とす。
俺はすかさず、また痛そうな顔に戻す。
「ほんとに、痛いんだって……」
「保健室、行こうか」
そう言って、仁野は俺を支えて教師に説明した後、堂々と岩永の目の前で連れていってくれた。
──岩永、ざまぁ。
少し離れたところで、俺はようやく仁野の肩から頭を外した。
「仁野、やっと話してくれるんだね」
仁野は俺をちらりと見て、からかうように言った。
「……痛くないんだ?」
バレた。
「……うん、バレてたよね。いや、ちゃんと話がしたかっただけ」
彼は俺を軽く支える手を外し、立ち止まってくれた。
「仁野、ごめん。許可も取らずに君をモデルにあんな小説書いて、本当にごめん」
仁野はしばらく黙っていたが、ぽつりと聞いてきた。
「聡太、聞くけどさ……君、俺に近づいたのって、ほんとにネタ探しのためだったの?」
この数日、何度も自分に問いかけた。
そして、ようやく出した答え。
「……違う。全部が素材ってわけじゃなかった」
「俺、気づいたんだ」
「俺、君のことが……好きだ」
今まで、一度もそんなことを考えたことがなかった。
自分の性癖についても、ちゃんと向き合ったことはない。
BL小説を書き始めたのだって、ただのルームメイトの何気ない一言がきっかけだったし、
自分自身に強いこだわりがあったわけでもない。
「お前の書いたやつ、読んだけどさ。本当に気持ちがこもってるよな、あれ」
なんか嫌な予感がする。
「……どの話のこと?」
「ほら、R-18のやつとか」
「……」
「認めろよ。お前、仁野のこと、好きなんだよ」
胸の中が、ずしんと沈む。
俺はぽつりとつぶやいた。
「じゃあ……仁野が俺を避けてるのって、俺が彼をモデルにしてたからじゃなくて……」
「俺の、いやらしい気持ちに気づいたから……それで嫌になったってことなのかな」
「それは……」
ふたりとも、言葉が出ない。
俺は思わず苦笑いした。
「はは、慰めようとしても無理だよな、さすがに」
西山が静かに言った。
「でも、もうここまで来たら、ちゃんと向き合った方がいいんじゃないか?」
「今さらだとしてもさ、今より悪くなることなんて、もう無いだろ」
そう、最悪はもう迎えた。
だったら、話すしかない。
「……うん、行ってくる。ちゃんと話してくるよ」
仁野を見つけたとき、彼は岩永と体育館横で話していた。
何を言ったのか知らないけど、岩永は鉄柵を拳で思い切り叩いていた。
怒りを露わにする岩永とは対照的に、仁野は淡々としていた。
「お前、俺のこと四回も振っといてさ。今度は何が理由だよ」
岩永の声が大きくなる。
仁野は冷静に言った。
「変わらないよ。好きじゃないだけ」
「じゃあ誰が好きなんだよ。あのヒョロガリで小説書いてるやつか?」
……誰がヒョロガリだ。
カチンときたけど、それより仁野の返答が気になって、つい近づいてしまった。
──ドンッ!
突然、排球が俺の頭に直撃した。
「大丈夫!?」
バレーをしていた同級生が駆け寄ってくる。
その声に反応したのか、岩永と仁野も振り返って、頭を押さえて立っている俺を見つけた。
岩永はすかさず皮肉っぽく言った。
「やるじゃん、お前。盗み聞きまでしに来るとはな」
俺はバツが悪くて、仁野をチラッと見る。
仁野は少し顔をこわばらせながら、それでも歩み寄ってきた。
「大丈夫?」
……その一言に、俺の中の何かが決壊した。
「痛い……」
と、わざとらしく苦しそうな表情をして、仁野の肩に頭をもたれかけた。
仁野は小さくため息をついて、少し体を寄せてくれた。
肩にちゃんと、俺の頭が乗っかった。
──この作戦、効いた……!
これまでのグリーンティー(緑茶婊)的展開、無駄じゃなかった……!
岩永は信じられないという顔で、俺を指さす。
「ちょ、仁野!? こいつ、演技してんだって!ただのバレーボールだぞ!鉛球じゃあるまいし!」
俺は彼に睨みを効かせる。
岩永がすかさず告げ口するように言う。
「ほら見ろよ、睨んだ!ね?今の見た?」
仁野が俺に目を落とす。
俺はすかさず、また痛そうな顔に戻す。
「ほんとに、痛いんだって……」
「保健室、行こうか」
そう言って、仁野は俺を支えて教師に説明した後、堂々と岩永の目の前で連れていってくれた。
──岩永、ざまぁ。
少し離れたところで、俺はようやく仁野の肩から頭を外した。
「仁野、やっと話してくれるんだね」
仁野は俺をちらりと見て、からかうように言った。
「……痛くないんだ?」
バレた。
「……うん、バレてたよね。いや、ちゃんと話がしたかっただけ」
彼は俺を軽く支える手を外し、立ち止まってくれた。
「仁野、ごめん。許可も取らずに君をモデルにあんな小説書いて、本当にごめん」
仁野はしばらく黙っていたが、ぽつりと聞いてきた。
「聡太、聞くけどさ……君、俺に近づいたのって、ほんとにネタ探しのためだったの?」
この数日、何度も自分に問いかけた。
そして、ようやく出した答え。
「……違う。全部が素材ってわけじゃなかった」
「俺、気づいたんだ」
「俺、君のことが……好きだ」
15
あなたにおすすめの小説
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。
或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。
自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい!
そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。
瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。
圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって……
̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶
【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ
番外編、牛歩更新です🙇♀️
※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。
少しですが百合要素があります。
☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました!
第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ギャルゲー主人公に狙われてます
一寸光陰
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。
自分の役割は主人公の親友ポジ
ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる