目が合うたび、恋が始まっていた

perari

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俊介は椅子に腰を下ろしたまま、表情こそ大きく崩してはいなかったが、目元はやわらかく緩み、明らかに機嫌が良かった。声にしても、どこか明るく弾んでいる。
向かいに座る航平が、ふいに問いかけた。
「お前、痩せたんじゃないか?」
思いもよらない言葉に俊介は一瞬戸惑った。
「え?どうだろ……痩せてないと思うけど」
「なんか、一回り小さくなった気がする」
俊介は少し考え、それから「ああ」と声を漏らし、笑みを浮かべた。
「服が薄いからだよ。お前と会うのはいつも冬だったろ。夏だとそりゃ小さく見えるさ」
「確かにそうだな」と航平も笑い、「高校を卒業してから、夏のお前を見るのは初めてかもしれない」と言った。
なるほど、と俊介は納得する。今日の航平が、これまでとは少し違って見えた理由も同じだった。今まで見るのは決まって厚着の冬の姿。だが今日は白いTシャツ一枚で、腕が露わになり、清潔で爽やかな印象を与える。若さを感じさせるその佇まいは、俊介の記憶の中の航平そのものだった。
そのことに気づいた途端、俊介の胸の内には、静かな高揚が広がっていく。視線は自然と航平の横顔に向かい、そこから離れられなくなった。
航平は、急きょ呼ばれて介添人を務めているらしい。予定されていた介添人が出席できなくなり、代役として昨夜のうちに頼まれたのだ。朝三時から撮影が始まり、この時間にはすでに空腹で限界を迎えていた。
彼は普段から食事のときに飾り気がない。ただ黙々と食べる。その食べ方が妙に美味しそうで、見ている俊介まで空腹を覚えるほどだった。二人は言葉を交わさず食べていたが、不思議と気まずさはなかった。
やがて満腹になった航平が、茶碗を置いて口を開いた。
「介添人ってのは、人間のやる仕事じゃねえな。マジで死ぬかと思った」
俊介は笑いながら尋ねる。
「初めてだったの?」
「二回目だ」
「やっぱり」と俊介が言うと、「なんでわかる」と航平が眉を上げた。
俊介は当然のように笑って答えた。
「だって、お前はカッコいいから」
一瞬の沈黙ののち、航平は照れ隠しのように笑い、スプーンを茶碗に放り投げた。
「やめろって。カメラの前で『背すじ伸ばすな』『新郎より目立つな』『身長で圧をかけるな』って言われるんだぞ。俺、ずっと膝曲げて立ってたんだよ。侍女じゃあるまいし」
俊介は堪えきれず笑い出す。
「しかも、前の介添人は俺より四十キロ太ってて、その人用の衣装はブカブカ、膝つきかけてたら、新婦の母親が来て『あんた背ばっかり高いくせに体力ないのね』って言われてよ」
俊介は箸を持つ手を震わせながら、笑いが止まらない。
「呼ぶなら目立たないようにしろって、理不尽だな」
航平は苦笑しながらも、どこか諦めたように言った。
「もうこれで最後だ。誰に頼まれてもやらねえ」
俊介は笑みを浮かべ、軽い調子で言った。
「いや、お前ならあと一回はやれるよ」
「なんで回数制なんだよ」
「結婚前にできる介添人は三回までって聞いた。師匠が言ってたんだ」
航平は黙りこくったが、俊介は続ける。
「あと一回は仁野のためにとっておけよ。あいつが結婚するなら、お前も膝を曲げずに済むはずだ」
航平は箸を止め、数秒考えるように視線を落とし、ぼそりと言った。
「いつになることやら」
俊介は微笑みながら、自然な口調で返した。
「もしかしたら、お前の方が先に結婚するかも。そしたら仁野に介添人をやらせてやれよ。お前の介添人団は、史上最強にイケメン揃いになるぞ。きっと映える」
その言葉はあまりにも滑らかで、冗談とも本音ともとれた。航平はふと黙り、俊介の顔を見つめる。俊介はその視線を正面から受け止める。逃げもせず、目の奥には何の曇りもない。
数秒の沈黙ののち、航平は黙って食事を再開した。
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