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14 あの日の記憶

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 ローサフェミリアは、年に数度ある学院集会の為、ホールに来ていた。
 ホールは全学年の学生が集まり、人でごった返していた。
 最後に学院長の話が終わると、ぱらぱらと学生がホールから出始めた。
 丁度その時、ローサフェミリアはフレデリクに話しかけられた。

 フレデリクの隣には、ファウスト伯爵令嬢が居る。
 ローサフェミリアは、学院で二人が一緒に過ごす姿を見かけたが、フレデリクに聞く事が出来なかった。

 どうしてフレデリク殿下は、あの子といるの?
 入学をしてから、私とはほとんど話さないのに。
 学院に入るまでは、私に会いに来てくれたから、学院に入ったらもっと会えると思っていたのに……
 でも、聞いて嫌われたら……怖くて何も聞けないわ。

「ローサ、紹介したい人がいるんだ。ファウスト伯爵の娘のレティシア・ファウスト伯爵令嬢だ」

「レティシア・ファウストと申します。よろしくお願いいたします」

 ファウスト伯爵令嬢は、ローサににっこりと笑いかけた。
 ローサフェミリアはファウスト伯爵令嬢の笑顔を見て萎縮した。

「……ローサフェミリア・オルブライトと申します」

「レティシアは強くて優しくて、素敵な女性なんだ」

「まあ、殿下ったら! うふふ」

「ローサは私の事をただの婚約者としてしか見ていないだろう? よって、ローサとの婚約を解消する事にした」

 ローサフェミリアは何も言い返さなかった。頭の中が混乱していて言い返す事が出来なかった。

 「……分かりましたわ」

 ローサフェミリアは一言返事をすると、ふらふらと出口に向かった。

「ローサ……ぁ、あの……」

 目の前で見ていたエミールは動揺していた。
 なんとか出した声は、意味を持った言葉にならず、ローサフェミリアにも届かなかった。

 どうして……フレデリク殿下……どうしてなの。
 ずっと一緒にいると約束をしたのに。
 私を婚約者に選んで下さったのは、フレデリク殿下だったのに。
 お父様になんと言おうかしら……。

 ローサフェミリアの心は黒い靄に包まれた。
 ローサフェミリアが出口付近にたどり着くと、ローサフェミリアの耳に語り掛けられたかのように人の声が聞こえて来た。

「殿下に婚約破棄された女なんてお先真っ暗だな。俺なら恥ずかしくて生きられない。今すぐ薬でも飲んで死んだ方がましだな」

 ローサフェミリアは声がする方を向くと、左頬に傷がある男の子が視界に入った。

 その直後、ローサフェミリアの心に一筋の光が見えた。

 そうよ。もう消えてしまいしましょう。
 私は恥ずかしい人間。生きていてもお先真っ暗だわ。

 ローサフェミリアはそう思うと心が軽くなった。
 さっきまで、ふらふらしていたのが嘘のように軽い足取りで街に向かい、薬を購入して公爵家に帰った。

 屋敷に帰ると何も躊躇う事なく、むしろこれから自分がする事は正しい事かのように思えた。

 ローサフェミリアは大量の薬を何度かに分けて、水で流し込んだ。
 するとさっきまでの心の靄が、嘘のように晴れていく。
 薄れゆく意識の中でローサフェミリアは、家族や友人の顔を思い出した。
 
 やだ、私まだ死にたくない。もっと、みんなと……

 ローサフェミリアが最後に死にたくないと願った事は、のちに記憶を引き継いだ杏奈にも届かなかった。
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