目覚めたら、婚約破棄をされた公爵令嬢になっていた

ねむ太朗

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36 残念な男

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 ある日の午後の事。ローサは今日もフレデリクに寮まで送ってもらっていた。

「フレデリク殿下、いつも有難うございます」

「いや、気にしなくていい。ローサの為でもあるから」

 ローサはふと思い出した。

 フレデリク殿下は、今でもローサちゃんを想っているのよね。
 ローサちゃんは、今頃佐々木さんに貰ったマンションで、快適な生活を送っているんだろうな。
 ローサちゃん……ほんの少しでいいから、殿下の事を思い出してあげてね。
 フレデリク殿下は、今だに片思い中か。お気の毒に。
 あれ? 今の私って中身は杏奈だけど、見た目だけはローサちゃんよね。
 あっ、そうだ! いつも護衛をしてもらっているし、感謝の気持ちも込めてハグをしよう。
 見た目だけはローサちゃんだから、フレデリク殿下……少しは喜んでくれるわよね。

 ローサは立ち止まった。

「どうかしたのか?」

 いきなり立ち止まったローサを心配するように、フレデリクもその場で足を止めた。 

「フレデリク殿下……いつもありがとうございます」

 ローサはフレデリクを見上げて微笑むと、フレデリクを抱きしめ頭を撫でた。

 固まるフレデリク。
 状況を理解すると、フレデリクの頬が少し赤くなった。
 フレデリクは急にローサに抱きしめられ、ローサは自分の事が好きなのかもしれないと思い、ローサの気持ちに答える為に抱きしめ返した。

 ローサがフレデリクの失恋の傷を慰める方法を考えた所、幼い子どもを慰める母親の光景を思い出した。
 そして、ローサは男性と触れ合う事にあまり抵抗がない。杏奈の頃に色々な人達とお付き合いをしてきたからだ。
 ローサはフレデリクをあやすように頭を撫でたが、フレデリクの頭は思いの外高い位置にあり、すぐに諦め両手で抱きしめた。

 まさかフレデリクが自分の事を好きなのではないかと、勘違いをしているとは気づきもせず、ローサは同情と感謝の抱擁を続けた。

 ここに一人、勘違いをした残念な男がいた。

「フレデリク殿下……そろそろ離れてもよろしいでしょうか」

「ああ、すまない……」

 二人は離れた。

 ローサはフレデリクの視線に気づき、フレデリクの方を見た。

 見つめ合う二人。
 フレデリクの勘違いは続く。

「……ローサさん。ローサさんは、私のこと」

「クシュン!」

 ローサのクシャミにより、フレデリクは言いかけていた事を中断した。

「少し冷えてきたな」

「ええ、そうですね。行きましょう」

 歩き始めたローサは、振り返ってフレデリクを見た。

 ローサと視線が合い、また、顔を赤くしたフレデリク。
 
「分かった」

 フレデリクはローサに話し掛けていた事を忘れ、胸のドキドキを抑える事に集中した。

 フレデリクに寮まで送って貰ったローサは部屋に入り、さっきの事を思い出していた。

 フレデリク殿下、前に進めるといいわね。新しい恋が出来るといいなー。
 私も恋愛ごっこをして、あーくんを楽しませなきゃいけないんだった。

 まさか新しい恋の相手が自分だとは思っていないローサは、フレデリクを慰める事が出来て満足し、今日の出来事をすぐに忘れて、夕食を食べに食堂に向かった。
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