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65 迫真の演技

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 次の日の朝。朝食の席にジョンウィルは少し遅れて来た。

「ゲホッッ、ゲホッッ。遅くなってすみません」

「いや、大丈夫だ。それよりも具合が悪いのか?」

「……少し寒くて、身体がダルいです」

「まあ、風邪? 寒いって事は、これから熱が上がるかもしれないわ」

 心配そうな顔をするローサ。

「ゲホッッ。すみません。今日は一日休ませて下さい」

「いや、構わない。今日はゆっくり寝ていた方が良いな」

「では、私が看病をするわね」

「「えっ……」」

 固まるフレデリクとジョンウィル。

「あら、二人共変な顔をしてどうしたのですか? 姉が弟の看病をするのはおかしな事ではないでしょう。フレデリク殿下……申し訳ありませんが、今日は外出出来なくなりました」

「姉さん待って。せっかくの旅行なんだから出掛けておいでよ」

「ダメよ。ジョンウィルが心配だわ」

「看病はリタにお願いするよ。ほら、公爵家からはリタしか来ていないだろう? リタなら毎日会っているから、安心して僕も眠れるし」

「だったら私が一番いいじゃない。姉の側が一番安心出来るでしょう?」

 ジョンウィルは少し考えた。

「…………ゲホッッ。…………姉さんは分かっていないな。弱っている時こそ、身内以外の綺麗なお姉さんに看病をして欲しいんだ」

「また、ませた事を言っているわね。具合が悪い時くらい姉を頼りなさい」

「姉さん……フレデリク殿下を一人にしていいの? せっかく誘ってもらったんだよ」

 ローサは少し考えた。

 これは、ダンスの練習につきあってもらったお礼よね。
 ……うん。お礼は後日別の形でもいいかな。

「……フレデリク殿下。弟の看病をしてもよろしいでしょうか」

「ああ。私は構わない」

 ローサに嫌われたくないフレデリクは、心にもない事を言った。

「姉さん! 僕が、僕が心苦しいんだ。せっかくの旅行なのに、僕のせいで……分かるだろう?」

「ええ、そうね。自分のせいで旅行が台無しになったらって思うと辛いわね」

「ゲホッッ。そうだろう? 姉さんがフレデリク殿下と旅行を楽しんでくれたら、早く元気になる気がするんだ。でも、姉さんが隣で看病をしていたら、申し訳なくておちおち寝ていられないや」

「……ジョンウィル。分かったわ。私、ジョンウィルの分まで旅行を楽しんで来るわね」

 ほっとした顔をしたジョンウィルとフレデリク。

「うん。そうしてよ。その代わりにリタに付き添ってもらいたいんだ。いいでしょう?」

「ええ、もちろんよ。リタ、ジョンウィルの事を頼んだわよ」

「ですがお嬢様……公爵様にお嬢様の側から出来るだけ離れるなと言い付かっております」

 困った顔をしたリタ。

「大丈夫よ。着替以外は一人で出来るもの。それにフレデリク殿下が側にいるから安心よ」

 フレデリク殿下が側にいるから心配なんですとは、言えないリタ。

「ゲホッッ。リタ……心細くて……お願い出来ないかな?」

「……かしこまりました。お嬢様、くれぐれも羽目をはずしすぎないようにと、公爵様からの伝言でございます」

「ええ。分かったわ」

「じゃあ、僕は具合が悪いので部屋に戻ります。ゲホッッ」

「ああ、お大事に」

 フレデリクとジョンウィルは、目線を合わせて頷き合った。

「ジョンウィル、ゆっくり休んでね。出来るだけ早めに帰って来るわね」

「姉さん! ゆっくり、ゆっくり楽しんで来てね」

 ジョンウィルとリタは退出をした。
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