目覚めたら、婚約破棄をされた公爵令嬢になっていた

ねむ太朗

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番外編

1 ローサフェミリア、黄泉で目覚める

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 ローサフェミリアが目を覚ますと、薄暗い場所に横たわっていた。

「ここは……」

 ローサフェミリアは、きょろきょろと辺りを見回す。

「ここは黄泉だ」

 ローサフェミリアが声がする方を振り返ると、綺麗な顔をした男が立っていた。

「あなたは?」

「私は悪魔だ。泣く子も黙る悪魔だぞ。くっくっくッ」

「そうですか」

「私が怖くないのか」

 泣く子も黙るとか、自分で言ってしまう人に怖い人間はいなさそうだけど……と思ったローサフェミリア。

「いいえ。所でここを黄泉と言いましたか?」

「そうだ」

「そう。私は死んだのですね」

「そう言う事になるな」

「私、自殺をしたんです。ですがもっと生きたかった。エミールも家族も私の事を心配しているかしら……」

「生きたかったか。では、蘇らせてやろう」

「えっ?」

 ローサフェミリアは驚いた顔をして悪魔を見た。

「ただし、別の世界の別の人間になるがな」

「別の……では、もう皆には会えないのですね」

「そうなるな」

 ローサフェミリアは、きっとお父様は許してくれないだろうと思ったので、悪魔の提案に乗ることにした。

「分かりました。お願いします」

「くっくっくッ。では蘇るが良い」

 悪魔はそう言うと、ローサフェミリアに右手をかざした。
 ローサフェミリアは黒い煙に包まれ、少しずつ意識を失った。

「くっくっくッ。私を楽しませたまえ」

 ローサフェミリアは、薄れゆく意識の中で悪魔の声を聞いた気がした。



 ローサフェミリアが目を覚ますと、視界に入ったのは血溜まりだった。

「ひっ!」

 ローサフェミリアの目の前には、大きな血溜まりが一つ。そして、自分の足元にも血溜まりがあった。

「これは……どう言うことでしょうか……」

 ローサフェミリアは、もとの体の持ち主の記憶が見られる事にすぐに気づいた。

「殺されたのね……私の足元にあるのは、この体の持ち主の血よね。では、もう一つはいったい……杏奈さん? を殺した人間のものかしら。でも遺体がないし、逃げた痕跡もないわね。杏奈さんが亡くなった所で記憶が終わっているから、その後にこの部屋で何が起こったのか分からないわ」

 ローサフェミリアは首を傾げて考えたが、答えが出なかったので、とりあえず手を洗う事にした。

「蛇口をひねる……あっ! 水が出たわ。この世界にも水道管が通っているのね」

 ローサフェミリアは嬉しそうに笑った。

 ピンポーン

 インターフォンの音にローサフェミリアの体がビクついた。
 ローサフェミリアは、杏奈の記憶を見てから、インターフォンの通話ボタンを押した。

「はい……」

「杏奈さん! 車は買うから、もう会わないなんて言わないでくれ!」

 インターフォンから聞こえてきた男の人の声を聞いたローサフェミリアは「いったい、なんの話かしら……」と呟いた。

「とぼけないでほしい。会って話し合おう。鍵を開けてくれないか?」

 鍵? と首を傾げたローサフェミリアだったが、杏奈の記憶を見てすぐに理解した。

「鍵はたぶん開いています」

「何? 不用心ではないか。女の子の一人暮らしなんだぞ。入っていいか?」

「はい。実はい………………」

 いきなり女の人が入って来て、それどころではなかったようですと、言おうとしたローサフェミリアだったが、ガチャリと玄関の扉が開いたので、視線をそちらに向けた。

 杏奈の部屋は1Kだったので、玄関の扉が閉まった音が聞こえるとすぐにローサフェミリアの目の前の扉が開いた。

「杏奈さん。鍵を閉めなきゃ……」

 部屋に入って来た男は、目を見開いて固まった。

「なんだこれは……杏奈さん? 何があった。大丈夫か? きゅ、救急車を呼ぼう」

 ローサフェミリアの目の前にいる男は、ポケットの中に手を入れてスマホを出した。

「ちょっ、ちょっとお待ち下さい。救急車? は大丈夫ですわ。何処も怪我をしておりませんわ」

「おりませんわ?」

 男は、不思議そうな顔をしてローサフェミリアを見た。

「はじめまして。佐々木さん? ですわよね。杏奈さんと仲良くされていた方ですね?」

「杏奈さん? 杏奈さんは君だろう?」

 佐々木はローサフェミリアを訝しげに見た。

「ええっと……この血溜まりがたぶん杏奈さんのですね。杏奈さんはこの部屋で亡くなったようです」

 ローサフェミリアは、困った顔をして佐々木を見た。
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