エルーシアの物語

ねむ太朗

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  あの事件から、一月程経った。
  ずっと部屋に引きこもっていた私は、身体を動かすようにした。

  私の中でルシアン様の事は、完全に終わらせる事が出来た。
  今の私にとって、彼はただの関わりたくない相手。
  もちろん、もう死にたいとも思っていない。

  今は、お姉様と庭園でお茶を飲んでいる。

「お姉様。ずっと疑問に思っていたのだけれど、クラウス様はお姉様と婚約をしてからダイエットを始めたの?」

「そうよ」

「どうして?」

「私がお願いしたからよ」

  お姉様は、笑顔で答えていた。

「お願い!  て言ったら、今までずっと太っていた人が急に痩せられるの?」

「そうよ。ダイエットをしてくれる条件で婚約をするって言ったのよ」

  それか!  自分との婚約を引き換えに痩せさせたのか。

「お姉様は、政略結婚をするのね」

「そうね。婚約をした時には、恋愛的な意味では何も思わなかったもの。けれど今は、クラウスの事が好きだから何も問題ないわ」

  お姉様は、楽しそうに笑っていた。
  それからお姉様は庭園に咲いているチューリップを眺めてから、ジャック様の話をしていた。
  六輪のチューリップを貰って恋をしていますとか……と言って、ケラケラ笑っているお姉様を見て、私も思わず笑ってしまった。

「お姉様。そのお話しをお兄様に聞かれたら、ジャック様に伝わってしまいますわよ」

「分かっているわよー。気を付けるわ」

  本当に分かっているのか分からないが、お姉様は出会った初日に、公爵家のお坊ちゃんに取引を持ちかける人間だ。きっと、怖いものなど何も無いのだろうと思った。

  それから私は自室に戻り、考え事をしていた。
  今の私は、貴族の世界にいる事が怖い。お姉様のように怖いもの知らずにはなれない。もう茶会にも出たくないし、社交界デビューもしたくない。

  私は結婚をするのも怖かった。貴族の結婚は、政略結婚が多い。ルシアン様みたいなのと結婚をすると思うと、裏切られる恐怖に怖くなった。
  かと言ってずっとこの家に居れば、未来の兄夫婦に迷惑が掛かる。

  そうだ!  庶民になればいいのよ。そうすれば婚約破棄された事を笑われて、嫌な思いをする事も無いし、結婚をしなくていいし、お兄様達に迷惑を掛けなくてすむわね。

  その日の夕食の時間に私は、家族に向かって宣言をした。

「私、この家を出て庶民になるわ」

  みんな目を見開いて私を見ている。
  お姉様は驚き過ぎたのか、持っていた食具を落下させた。

  カラン、カラン。

  食具が落ちた音で、一番最初に反応をしたのがお兄様だった。

「エルーシア……、その冗談は面白くないよ」

「冗談ではないわ」

「甘ったれのエルーシアに労働が出来ると思わないよ」

「やってみないと分からないわ!」

  お兄様と言い合いを始めた私に、お姉様が質問をしてきた。

「どうしたのよ、急に……」

「私は、プラメル家の令嬢としてやっていく自信が無いの。このまま、この家に居たら家族に迷惑が掛かるのよ」

「そんなこと、誰も思っていないわ。エルーシア……大変なのは貴族だけでは無いわ、どんな人も同じよ」

  私は、お兄様とお姉様の説得を諦めた。

「お母様とお父様は、賛成してくれるでしょう?」

「私は心配だわ。もう少し冷静になって考えてみて」

  お父様は、腕を組んで考え込んでいる。

「分かったわ。今すぐでなければこの家を出ていいのね?  そうしたら、家から通える職場を探してみることにするわ」

「誰も今すぐでなければ、伯爵令嬢を辞めていいなんて言っていないだろう。 僕は反対だよ」

「お兄様の分からず屋!」

「エルーシアちょっと落ち着いて、お母様も冷静になって考えてみて。とさっき言っていたじゃない」

「……。分かったわ、お姉様」

  食事を済ませた私は、自室に戻って考えた。

  そうだわ!  やれば出来る事を証明出来ればいいのね。

  私は作戦を練ってから、眠りについた。
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