稲荷詣で

斐川 帙

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四、二人連れの女性

(十二)

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「伏見稲荷には、よく来られるのですか?」
 思い切って姉の方に声をかけてみた。彼女は、ちょっと顔を動かしたように見えた。
「伏見稲荷とは?」
「ここのことです。」
「ここは深草では?伏見は今少し南の方かと。」
 芳野は驚いて、ここは伏見じゃないのか?と訝しく思い、麓で入手した地図に記載されている伏見稲荷大社の住所を見ると、果たして伏見区深草とある。正確に言うと、ここは伏見ではなく深草というところらしい。
「そうなんですね。深草なんですね。知りませんでした。・・・それで、ここには、よく、来られるんですか?」
「今回が初めてです。実は、先日の夜、夢に、どこやらの御堂が現れて、稲荷のしるしの杉を投げられるという夢を見ました。稲荷に詣でよとのご神託でしょう、それで参りました。」
 芳野は、先程から気になっていたのだが、彼女たちの物言いは、つつましやかで優しく、立ち居振る舞いには育ちの良さを感じさせる優雅さがあった。ただの平安マニアには、ここまでは真似できないのではないかと思えてきたが、じゃあ、この人たちは何をしている人たちなのかと問われても、しっくりくる解答は思い浮かばなかった。やはり、その点で言えば『変な人たち』としか表現できない『人たち』であった。だからこそ、一体、何者なのだろうと、彼女等の素性を確かめたい欲求が一層強まっていくのを感じていた。
「普段、お忙しいんですか?」
「忙しいと言うほどのものではございませんが。」
 ここで、思い切って、プライベートな質問をぶつけてみようと思った。
「失礼ですが、どのようなお仕事をなさっていらっしゃるんですか?」
 少し間があって、
「お仕事?・・・でございますか?」
 聞いてはいけないことを聞いたかと思い、たじろいだ。
「女院にお仕えしております。」
 「女院にお仕えしている」とは、また、新しい設定が出てきたと芳野は呆れた。しかし、本当に聞きたいのは、『設定』上の仕事ではなく、現実に従事している仕事の方なのだが、この返答だと、これ以上、聞いても本当のプライベートについての情報は得られなさそうに感じた。むしろ、これ以上、しつこく聞くと、機嫌を損ねられるかもしれない。
「そうですか。」
 微妙な空気になったので、芳野は、席を立って、間ノ峰に向かうことにした。
「そろそろ、行きましょうか?」と芳野が先頭に立って席を立つと、姉妹は彼に続いて席を立った。
 結局、まともな会話はできなかった。依然として彼女等の素性は不明であった。
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